西暦2022年水無月蝶人狂言綺語&バガテル―そんな私のここだけの話第409回
- 孫の七五三を祝う祖母のスピーチ
健ちゃん、七五三おめでとう。*1
七五三といってもいまどきの若い人はなんのことやら分からないかも知れないけど、昔から女の子は3歳と7歳、男の子は5歳の時の11月15日に晴れ着を着て、神社にお参りするのが七五三です。
地方によって、男の子は3歳と5歳でお祝いするところもあるようね。*2
でも、うちは5歳になった健ちゃんを、ここ十二所神社でお祝いすることにしました。この神社はね、明治維新も間近に控えた文久2年に近所の12戸の農家が協力してつくったそうです。終戦までは十二所部落の氏神さまとして各隣組が順番に担当してお祭りをしました。*3
祭礼は、毎年九月8日から10日にかけて行われ、おばあちゃんも娘の時からお赤飯を炊いたり、お餅を丸めたり、境内のお掃除をしたりして近所のお友だちといっしょにお手伝いをしたものです。
そんなおばあちゃんにとっても格別思い出深い十二所神社で毎日遊ばせてもらいながら健ちゃんは元気に育って、今日5歳になりました。ありがとう、十二所神社さん。*4
おばあちゃんは、健ちゃんが、本殿の柱のしたに巣食っている蟻地獄を捕まえたり、アブラゼミの幼虫をとって帰ってお家で成虫に孵化させたり、楠の葉っぱにとまっているアオスジアゲハを捕まえたり、アオダイショウをマフラーのように首に巻いて楽しそうに散歩したりしているのをよく知っていますよ。*5
お父さんから伺ったんだけど、この間は、ヤモリとイモリを間違えたそうですね。ヤモリは爬虫類、イモリはサンショウウオの一種ブレクお腹が赤い両生類なんだけど、格好はよく似てるからなかなか区別がつかないわね。
健ちゃんが、ヤモリを入れたばけつにお水を注ぎ込んだものだから、ヤモリが苦しくなってもがいているところにお父さんが会社から帰ってきたからよかったけど、あのままだとヤモリもやばかったわね。でもすごくいい勉強をしたわね。*6
一番心配をしたのは、去年のお祭りの夜でした。どういう物のはずみだか、神社の階段のたもとにあった灯篭のてっぺんの飾り石が健ちゃんの左足の上に落っこちてきて、健ちゃんが怪我をしたときは、みんな心配しました。
でもこうして元気になって相変わらず遊びまくっている健ちゃんを見ているのがおばあちゃんは一等うれしいの。
- アドバイス
- 1おばあさんが目に入れても痛くないほど可愛がっている孫が七五三を迎えた。最近は七五三という儀式についてよく知らない人もあるだろうと、おばあさんは丁寧な解説から始めた。
- 2さあ、何から話そうか。きょうみんなに語りたい楽しい思い出は、それこそ何ダースもあるだろう。
- 3おばあさんの娘時代の懐かしい思い出に、最近の孫の活躍が自然にオーバーラップするのである。
- 4おばあさんは、孫の動静を愛情をもって、じつに細かく観察していることが分かる。
- 5三世代の家族が仲良く暮らしているさまをほうふつさせるほほえましいスピーチである。
- 6最後はきちんとしたオチをつけないで終わるが、孫に対するおばあさんの愛情が聴くものに伝わってくるようだ。
×と描きたるマスクをかけて「六四」の追悼公園へ行きたる君はも 蝶人