あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

益田肇著「人びとのなかの冷戦世界」を読んで

2022-06-24 09:59:20 | Weblog

照る日曇る日第1756回

「想像が現実となるとこ」という副題が付けられているように、冷戦なら冷戦という事実が、教科書風の政治的事実よりも、その事実を下支えしている民草の想像によって機能していることをグローカルに証していく、刺激的かつ動態的な世界歴史新カタリの書である。

 

「端的に言えば、冷戦とは世界各地の社会内部のさまざまな異論や不和を封じこめて「秩序」を生み出すための社会装置だったのではないか、そしてそれは政治指導者によってというよりも、むしろ「普通」の人びとによって創り出された想像上の「現実」だったのではないか」、と著者は本書を解題している。

 

そうして著者は、こうした原理と、具体的な民草の証言を駆使しながら、1950年当時のアメリカの「マッカーシズム」や中国の「鎮圧的反革命運動」、台湾の「白色恐怖」、本邦の「レッドパージ」、英国の「労働運動抑圧」、フィリピンの「非フィリピン活動取り締まり」などを、当時世界各地で同時多発的に発生した「社会戦争」という同根の枠組みに絡め取って解き明かしていくのだが、そのプロセスが、さながら魔法使いが快刀乱麻を断つようで小気味よい。

 

この本が取り扱っているのは、たまたま大戦後の冷戦時代だが、この方法論は、ウクライナ戦争まっさかりの現代世界にも有効であり、眼前の戦争を見つめながら普通の人々が脳裏でイメージする「平和」と「秩序」への希求が、戦後にどのような「社会戦争」を生起させるかが、おぼろに幻視できるような気もするのである。

 

「江戸」を主題とする次著の刊行が、切に待たれる。

 

 「ごおしちごお」の形式だけは残るだろう短歌の中身が死んじまっても 蝶人

 

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