西暦2022年水無月蝶人酔生夢死幾百夜
生まれて初めて仲間とゲーセンに行ったら、意外にも超満員で、見知らぬ連中のチームに混ぜられてしまった。茶髪の少女がめちゃくちゃに上手いので、大人はしらけて画面を眺めているばかり。6/1
田舎の寄席に登場した下手糞な芸人だったが、たまたまどこかのテレビ局が全国に紹介したら、あっという間に有名人になって、暫くの間は超人気者になってちやほやされた。6/2
寺の上で戻れなくなって、眠りながらコマを数えていたら、ヌンとスウが刺されたので、嗚呼おらっちは、やっぱアケミ、ミワヒデだったんだ、と思ったずら。6/3
我々の小舟は、かつて兵士たちが流した血の海の上を、白い帆を左右に揺らせながら疾走していた。6/3
人事課長は、何度も面接を繰り返したのだが、誰が有能であるか分からなくなったので、ともかく体矩が頑丈で、上司の命令に無批判に従う、体育会系の男子学生ばかりを採用し続けたのよ。6/4
ここは東京のど真ん中ながら、戦災に遭わなかった地域なので、森が鬱蒼と茂り、江戸時代の武家屋敷や寺社仏閣、はっさんくまさんが住んだ長屋や井戸がそのまま残されている、まるで夢のような一郭なのだった。6/4
その男は、婦人服用の薄地のウールを超安価で大量に買い付け、これで仕立てた紳士服を「世界一軽いスーツ」と名付けて、大大的に売りだしたら、爆発的なヒットになったという。6/5
おらっちは、満員電車の中で、吊革を下げる横棒に、6つのペーパーバッグを吊るしていたんだが、いざ駅で降りようとしたら、そのうちの5つは、影も形もなかったずら。6/6
家で窓を開け放してくつろいでいたら、見知らぬ6人の成人男女が、その窓からではなく、分厚い壁をスッと通り抜けて居間に入り込んできたので、いたく驚いた。こいつらは一体何者なのだ?6/7
ふと思い立って、新幹線で静岡に行き、文化会館へ行くと、ハロルド・ピンター展をやっていたので、ぶらぶら見物していると、イケダノブオの奥さんとスタッフの姿が見えた。6/8
その夕べ、カンダ、ハセガワ、ウエガキ、サガワ、ウエノ、ミヤネという、ヤクザよりもヤクザちっくなやさぐれ業者が、ひとつ船中のヒトとなって、♪アラエッサッサアと道頓堀川に乗り入れたので、宗右衛門町は大騒ぎになったずら。6/9
おれたち朝鮮人は、日本人の家主の大きな2階建てに借家していたんだけど、夜になると銅鑼が鳴らされ、それを合図に全員が大広間に集まって、映画鑑賞とその後の大宴会を楽しんでいたのさ。6/10
わいらあ防空壕の中で、オラッチが死んだら、世界でたった一人のアナルコ・サンジカリストが居なくなってしまう、と心に念じつつ、敵軍の猛烈な空襲に堪えていたんや。6/11
防空壕の中で、「生き生きてなお生き生きて死ぬ死ぬ死ぬ」てふ俳句が出来たので、初句、2句と口の中で唱えて、3句にかかったところで、ミサイルの直撃を受けたおらっちは、即死してもうた。6/12
久し振りに田舎に旅行したのだが、林の中で寛いでいたら、まず東の方から大集団がやって来て、しばらくすると、今度は西から別の大集団がやってきたので、おちおち休憩するわけにもいかず、怱々に立ち去ったのよ。6/13
近く会社の大機構改革があり、そこで犬派社員か、猫派社員か、の振り分けが行われると知ったので、鵺派のおらっちは、急いで退社したのよ。6/14
鈴木財閥の御曹司は、大泥棒のおらっちが、とってつけたような襤褸スーツを一着に及んで、廊下で寝そべっている姿を見て、「お前はきっとわが社で一番の阿呆に違いない」と喝破したので、さすがはバカ社長でも人を見る目があるなあ、と驚いた。6/15
満員鮨詰めの線路際を歩いていると、石ゐサキとかいう、作家より優秀なゴーストライターが死んだ、という話を、周りの人間が話しているのを、耳にしながら町に入る。120段に及ぶ石段があった。今は11時。だ。6/16
隣にヨモギ蕎麦の店があったので、喰って行こうかと思ったが、12時に面接予定のビルが、どこにあるかも分からないのに、食事なんかしていてはヤバイと思ったので、大通りを直進していくと、町があった。ああここは、いつも夢に出て来る町だ、とすぐに分かった。6/17
久し振りに愛犬ムクと会ったので、両手で頭や首を撫でながら「お前は善い子だねえ」というと、その意味は分からずとも、その心が伝わったので、嬉しそうに、ウットリ目を閉じている。この心から心への通じい合いが、あの死刑囚には出来なかったのだ。6/18
ボビーのおじさんが、私の為に、意味の分からない不思議な文字を、毎日1字づつ届けてくれる。6/19
1時間後にそのホールのオープニング・イベントで歌うことになっている私は、さっきから喉を潤しているのだが、隣の席に座ったおかっぱが気になる。こやつはサンケイという赤新聞に、欧米人は2点和音だが、邦人は3点和音がよく響くと、訳のわからぬエッセイを発表した紅毛人なのだ。6/20
新車のデザイン開発で、新人の私がいきなりお手柄を立てたので、7人のベテラン揃いのチーム内では、私がもしかしてチーフに任命されるのではないか、と恐れているようだが、戦々恐々としているのは、こっちのほうだった。6/21
狙撃兵は、本編が終わっても、頭注の第1列を狙撃、粉砕していた。6/22
突然、見たことのない青年が、03部室に入って来て、「14時までに中山に来るように」と、言うた。6/23
「人新世について10首作ってくれよ」といわれたのだが、それが新生代についてなのか、人世代だか、新人世、だか新人代のことだか、さっぱり分からなくなったおらっちは、ジンジンジンと唄うばかりだった。6/24
空襲から逃れるために、おらっちは洞穴に身を潜めたのだが、そこは集計用紙の空欄だったので、しばらく進むと、行き止まりになってしまったのよ。6/25
中也みたいに詩集の校正刷を持ってアオヤマのところへ遊びに行ったら、「ちょっと貸してみな」と言うので貸してやったら、「ちょいとここらへんが弱いがな。鍛えなきゃ」とほざいて、すりこぎでゴシゴシ擦り始めたので、すりこぎを取り上げてどたまをぶッ叩いてやったのよ。6/26
立ち読みしていた週刊誌のグラビアの文字が、赤字に赤なので、てんで読めない。側にいた店の親父に「これは酷いね。社長に言うてやらねば」というたら、「お客さん、立ち読みは止めてください」と、ハタキをかけられたずら。6/27
父は、私を社長の後継ぎにするために、恩義ある大幹部の首を切り、忠犬子分だけを周りに配置したのだが、まともな人材が、一人もいなくなったために、会社は、すぐに潰れてしまった。6/28
来季の商品企画構想会で、ナベショウの提案が次々に東西営業部員から総スカンを喰らって却下されていくのを、おらっちは「ザマミヤガレ!」と思いながら、高見の見物を決め込んでいた。6/29
ウクライナの激戦地に突如として現れたトロイの木馬。ウクライナの兵士たちは、あれは古代ギリシアの神話の噺だと馬鹿にして、そのまま放置していたが、案の定木馬の中には最新式の武器を装備したロシア兵が潜んでいて、呑気なウクライナ兵は、みな虐殺されたのだった。6/30
突きだせる胸柔らかし秋の鳩 蝶人