病理診断科の部屋といえば、診断はまだか、病理診断と臨床所見が合わない、から始まって、学会の準備、論文を手伝って、とか、カンファレンスをいつやろうとか、臨床医がひっきりなしにあれやこれやと頼みに来るというイメージがあった。ところがここの病理は門前雀羅、臨床医の姿は検体を出しに来る以外に見ることはほとんど無かった。ただでさえ一人病理医で寂しいのにこれでは孤独で心身共におかしくなる。さてどうやったらみんなが来てくれるだろうかと考えた。
私の仕事場である病理鏡顕室はやけにだだっ広く、顕微鏡とか診断システムとかバーチャルスライドの装置とかが実験台の上に間延びして並べてあって、その広さが余計に孤独感を際立たせた。人間立って半畳寝て一畳、私には広すぎて却って落ち着かなかない。そこで、赴任してすぐにパーテイションで自分のスペースを囲って診断スペースを作った。
残りの”余った?”スペースをどう使うかだが、私はここを非常勤で来ていた頃から、カンファレンスルームにしたかった。そうすれば少なくともカンファレンスには人が来てくれる。
使用頻度の低い顕微鏡と部門システムを1つの机にまとめた。立会う必要のないバーチャルスライドの取り込み装置も部屋の隅に移動した。少し大きめのモニターが使われないであったので、それを中心としてカンファレンスができる様にした。
ほかにも、さまざまなシステムがあって、すべての情報をモニターに集中させるのは
ひと苦労だと思っていたのだが、技師長さんが骨を折ってくれ、顕微鏡画像システムと、電子カルテと、病理診断部門システムとスタンドアローンのPCを、リモコンひとつで交互にモニターに出せるようにしてくれた。堂々たる病理カンファレンスルームの完成。これなら誰が来ても恥ずかしくない。
外科とか腫瘍科とか、病理診断が治療方針決定の決め手となることの多い科の先生に売り込んだ。そうしたらさっそく病理画像のプレゼンが必要となるカンファレンスがあるのだがどうしよう?とある科から相談された。もちろん二つ返事で引き受け、カンファレンスルームに案内し、ここでやりましょうということになった。人数がやや多めになることが予想されたので、部屋をさらに整理して、病院の会議室から椅子を借りてきて部屋の中に並べた。
カンファレンスの出席者は30人余り。ちょっとした研究会より多いぐらい。残念ながらひと部屋にみんなは収まり切らず、後ろの方の人は開けたドアの外で聞いていただくことになった。ディープフリーザーの音がうるさく、ディスカッションがよく聞こえないとか、立ち見が出てしまったとかはあったが、それぞれの症例については活発で有意義な議論ができた。
なんといっても、マクロミクロの病理画像を提示して行うディスカッションは、臨床医にとっても得るものが大きい。この病院では、これまで病理医がそういう様なことをするのはほとんどなかったらしく、物珍しさもあったのだろう、今日聞かされた評判はよかった。
私の病理医人生最後のご奉公は始まったばかりだが、尻切れとんぼとならない様にやっていきたい。
病理も営業