尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

衆参同日選は不可-参議院を考える③

2012年02月01日 23時26分47秒 |  〃  (選挙)
 参議院の話は前の2回で大体終わっているんだけど、②で「二院制の良さ」のうち、一つ(優越する院のチェック機能)しか書いていない。で、もう一つを簡単に

 大体、日本の国会議事堂は二つの院があることを前提にして、シンメトリーの構造で作られている。それだけをとっても両院があっていいとは思うんだけど、僕の考える参議院の最大の存在理由は、大災害対応である。つまり、衆議院議員選挙中に大地震(なり大噴火なり、大規模な紛争その他)が起こった場合はどうなるかということである。

 去年の通常国会もなかなか政府にとって大変だった。2010年秋に、当時の仙谷官房長官や馬淵国土交通相に対する問責決議が参議院で可決された。菅首相は内閣改造をして11年の通常国会に臨んだが、前原外相に外国人献金問題が起こり辞職する事態になった。菅内閣は追い詰められていた。当時から自民党は解散して民意を問い直せと言っていた。民主党は絶対多数を手放すつもりがなかったから、解散は現実的には考えにくかったが、何かあれば早めの衆議院選挙になっていた可能性もなくはないのである。そうすると、3月11日現在で衆議院選挙をしていたらどうなったか。少なくとも、岩手、宮城、福島などでは選挙はできなかった。というか、全日本で選挙どころではなかったはずである。

 衆議院選挙は、憲法で「解散の日から40日以内に、衆議院議員の総選挙を行ひ、その選挙の日から30日以内に、国会を召集しなければならない。」と定められている。いったん決まった選挙日を告示後に延期することは想定されていない。しかし、最低でも一月程度の延期は避けられなかったと思う。少なくとも、3月13日、日曜日が投票日だったら、東京も選挙は不可能だった。そういうことがありうるということを考えておかなくてはならないと思う。

 選挙中は与野党の主要議員は応援演説で全国を飛び回っているはずだ。仙台空港に首相ヘリがあったら、首相自身が被災していたかもしれない。これからも東京直下地震や西日本大震災が選挙中に起こることがありうるし、その時は閣僚が集まることさえままならないかもしれない。首相官邸にいれば、まあ首相の身体そのものは大丈夫だろうが、選挙中こそ危ないのである。

 そういうことを考えると、衆議院の選挙中でも参議院があれば、緊急に対策をたてることができるのである。もちろん内閣が指示すればいい問題もあるが、法律を変えて特例をつくらないと進まない問題もある。そういう時は「参議院の緊急集会」という方法がある。
 憲法54条
2 衆議院が解散されたときは、参議院は、同時に閉会となる。但し、内閣は、国に緊急の必要があるときは、参議院の緊急集会を求めることができる
3 前項但書の緊急集会において採られた措置は、臨時のものであつて、次の国会開会の後10日以内に、衆議院の同意がない場合には、その効力を失ふ。

 だから参議院だけでは特例でしかないのだが、こういう規定があるということこそが、災害の多い日本に二つの議院がある意味なのではないだろうか。ということを考えれば、「衆参同日選」はもう二度とやってはいけない。衆議院が解散されると、もう議員は「ただの人」である。「前議員」になる。一方、参議院は解散がないので、選挙中も参議院議員は任期満了まで資格はある。でも、事実上半数の議員が改選中の参議院が緊急集会を開くことは、あまり良いことではないと思う。

 衆参同日選は、80年と86年の2回行われている。特に、80年は大平内閣不信任案採決に福田(赳夫)派、三木派などが欠席したために、不信任案が可決されてしまった。それを受け、衆議院を解散して史上初の両院同時選挙を行っている最中に、大平首相が死亡すると言う劇的な展開になった。自民党が後継総裁を決めないまま投票日となり、「同情票」が集まり大勝利した。(鈴木善幸という誰も予想しない首相がその後選ばれた。)86年は、中曽根首相の「死んだふり」解散。首相が一度「解散を断念」となった後で、だまし討ち的に解散して「大型間接税は導入しない」と公約した自民党が大勝利した。その後の国会で消費税を導入したので、後味が悪い思いを今なお多くの人が抱いているだろう。衆参同日選は、与党や大政党に有利で、一つの選挙で精一杯の小党には厳しい。評判が落ちてしまった民主党が、それでもある程度勝つ方法があるとしたら、2013年参院選まで衆議院を解散せずに持ちこたえ、同日選をやることなんだろう。民主党は前から同日選と言っているが、以上に見たように、どの党に有利不利と言う点を別にして、衆参一緒にやるのは感心しない。(でも、80年のように不信任案が可決された場合だけは、やむを得ないんではないかと思う。参院選を前に総辞職せよとも言えない。)

 ところで、80年は衆議院は「(いわゆる)中選挙区制」、参議院は「地方区」と「全国区」。86年は衆議院が「中選挙区」、参議院が「選挙区」「(拘束名簿式)比例区」だった。しかし、今は衆議院が「小選挙区」「比例区」(政党名だけを書く)、参議院が「選挙区」「(非拘束式)比例区」(個人名でも政党名でもいい)になっている。衆議院では小選挙区の落選者が比例区で(惜敗率で)復活する。参議院の比例区では、個人得票順に順位が決まる。判ってる人には説明不要だけど、良く知らない人には、以上の説明では全然わからないだろう。さらにそこに最高裁判所裁判官国民審査が加わる。衆参同日選をやると、全国で全員が5回投票する。しかも衆議院比例は政党名のみ、参議院比例は個人でも政党でも投票可能。これを間違いなく実施できるか。いくらなんでも大変すぎるのではないか。国民にとっても、投開票事務を担当する地方自治体にとっても。そういう事情も、衆参同日選がよくない理由であるのは言うまでもない。 
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