尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「国際海峡」の重要性-緊迫!イラン情勢⑤

2012年02月28日 00時28分18秒 |  〃  (国際問題)
 日本ではイラン問題は、むしろアメリカの制裁法案への対応問題だと思っている人が多いのではないか。それはそれで大問題なんだけど、イランの核開発およびイスラエルとの対立問題そのものをしっかりと認識していかなくてはいけない。

 「日本にとって」と限定して考えれば、一番の問題は原油の輸入確保、原油価格の安定である。原発が稼働していない以上(そのことの評価を別にして)、風力や太陽光と言っても急には増えないから、結局短期的には石油、天然ガス発電で対応するしかない。すでに原油価格は上昇しているので、電気料金の値上げの理由はそこにある。それでも価格の上昇、イラン産原油の輸入削減だけだったら、なんとか対応はできる。しかし、「ホルムズ海峡封鎖」の事態となれば、日本経済は壊滅的な影響を受ける

 統計を調べてみると、2010年の原油輸入先帝国書院(中高の地図で圧倒的なシェアを持つ教科書会社)のサイトで見つかる。

 サウジアラビア(30.3%)、アラブ首長国連邦(20.6%)、カタール(11.8%)、イラン(9.8%)、クウェート(7.5%)、その他(20.0%)となっている。驚くべきことに、80%がホルムズ海峡経由での輸入である。(サウジアラビアに関しては、ヨーロッパ向けに西部の紅海にある輸出港へのパイプラインが存在する。それを利用すれば遠くなるけれど、ホルムズ海峡を通らない輸入も可能。)イランから1割近く輸入しているが、これは代替可能な数字ではあるだろう。が、他国の分が輸入できなければ大変なことになる。

 では現実に「ホルムズ海峡封鎖」はできるか。世界最強のアメリカ海軍、空軍と対立する危険を冒して海峡封鎖を実施するだけの海軍力はイランにはないだろうとの見解が有力のようである。だから「脅し」だということで、「アメリカに追随するしかない日本としては、アメリカに任せておけばよい」と思って思考停止しているのが日本の現状だろう。しかし、イスラエルの攻撃はレバノン、シリアに波及する可能性があり、そうすると民衆革命後のエジプトなども長年のイスラエルとの平和共存政策を(民衆の要求で)変えざるを得ない可能性もある。

 そういう世界秩序の問題もあるし、本来世界のどこであっても武力行使による紛争解決は避けなくてはならない。だけど、特に日本が言わなくてはならない問題は、「国際海峡を封鎖するということは、口にすることも許されない」という大原則である。イランとイスラエルが何をしようと、日本もアラブ首長国連邦も第三国なのだから、日本が原油を輸入するのを邪魔されるいわれがない。それがイラン領海部分だけでも機雷をばらまいて通行できなくされては、おかしいというのを通り越して絶対に許されない。

 なぜなら「ホルムズ海峡は国際海峡」だからである。そこを通らないと外海に出られないような海峡は領海内であっても、国際条約で自由通行が認められている。(国際海洋法条約でイランも署名。)インドネシアとマレーシアの間のマラッカ海峡、イギリスとフランスの間のドーヴァー海峡などがそれである。日本にも5つある。さすが世界有数の海洋国である。北から、宗谷、津軽、対馬(東)、対馬(西)(朝鮮海峡)、大隅の5つである。津軽海峡なんかは、北海道と青森県との間で国内そのものだが、宗谷海峡より利用しやすいこともあり、自由通行が認められている。

 冷戦時代も旧ソ連のウラジ・ヴォストークの極東海軍の艦船が通行していた。潜水艦が潜航して通ることは出来ず、浮上して通行するルールになっている。現在、日本は北朝鮮に対して独自の経済制裁を行っていて、万景峰号の寄港禁止措置などが実施されているが、「国際海峡の封鎖」は行っていない。当たり前である。世界貿易が不可欠な日本で「国際海峡を認めない」ということはできない。(国際海峡通行をある国に認めないのは、制裁ではなく「戦争行為」である。)

 この「国際海峡の自由通行権」こそが日本が世界に声を大にして訴えていかなければならない問題である。核開発だけだと、核保有国の発言権が強くなってしまうし、アジアでは中国やインドの影響力を期待できない。(インドやパキスタンはイランに言える立場ではない。)むしろ、世界最大のムスリム人口国家で、世界最大の海洋国家であるインドネシア(国際海峡をマラッカ、ロンボクと二つ有する)、トルコ(イスラム教だが世俗国家の伝統が長く、国際海峡をボスポラス、ダーダネルスと二つ有する)などと協力するのが良いと思う。「アジアの国として」平和に向けた調停を行うような構想力こそ今必要なのではないか。日本だけではダメ。僕は今経済発展により世界的に重要性を評価されつつあり、国際海峡を有するという意味でインドネシア、トルコとの協力を強く訴えておきたい。
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