ミステリーをけっこう読んでるけど、ここで書いたことがあまりない。(ヘニング・マンケルの「背後の足音」を書いたくらい。)他に書きたいことも多いし、楽しみで読んでるものは自分の楽しみに留めておけばいいかなあと。それと、最近はハードカヴァーの新作本をほとんど買わない。(節約のため。)
ジェイムズ・エルロイのUSA三部作の最後、「アンダーワールドUSA」は年末に読んだけど、ずいぶん時間がかかってしまった。長すぎるよね。中身も例によってぶっ飛んでるので、自覚的にエルロイが好きで読んでる人以外に勧める必要もないかなあと思った。ところで、この小説の主要登場人物の一人が、J・エドガー・フーヴァー。今、クリント・イーストウッドの監督した映画が公開中だけど、全部よく知られた話しか出てこないので、ずいぶん微温的な映画だなと感じた。もう大体フーヴァーの正体はかなり暴露されてたけど、映画ではおとなしく描かれてる。こんなもんじゃないでしょ。エルロイの本はフィクションだけど、こっちの方が本当っぽい。
「このミス」海外作品の1位、「二流小説家」も一応読みました。「二流小説家」の書き途中の作品がいっぱい挿入されていて、最初はうっとうしいんだけど、最後の頃になると、その方が面白くなるから不思議。作中の文学論やゴシップが小説好きには受けると思う。本筋の死刑囚の話の方は、とても面白くてすごいと思うが、この結末はなんだかなあと思うけど。
で、日本作品でベストテン入りした中で、ただ一つ香納諒一「心に雹の降りしきる」を昨日から読みふけった。香納諒一(かのう・りょういち)はやはりいいなあ。「幻の女」で推理作家協会賞。これは傑作でした。「贄(にえ)の夜会」も素晴らしかった。今度の「心に雹(ひょう)の降りしきる」も読みごたえ十分の傑作。本が重すぎる欠点があるけど、「贄の夜会」よりもかなり軽い。
警官が主人公なので、警察小説のカテゴリーに入るかもしれないが、傷心で孤独な主人公が真相に迫っていくという構造は、ハードボイルドのテイスト。7年前の幼女誘拐事件は未解決のままで、主人公はその影をひきずっている。ある日、主人公は今も子供の生存を信じる被害者(食堂チェーンの社長)に呼び出される。新しい証拠が見つかったので捜査して欲しいという話だった。その話を持ち込んだのは、興信所の調査員だった。主人公はそれをでっち上げの証拠だと考える。社長が懸けている賞金ねらいのための。なぜなら、自分も身を持ち崩し金に窮して、懸賞金目当ての偽証拠をでっち上げた過去があるからだ。
という出だしが、快調。その後、この調査員の死体が発見され、謎の死、謎の女、行方不明の女、地方政界やら組織暴力集団…と様々に絡んでくる。しかし、真相は複雑で、恐るべきシリアル・キラーがいたとか、すべては政治的陰謀だったとかの方向には行かず、小悪党の小さなたくらみが積み重なっていったというのが、いやにリアルである。感動の押しつけや驚くべきどんでん返しではないのがいい。心に傷を負う主人公がいわゆる「悪徳警官」ではなく、外れものだが有能な刑事ぶりを発揮し、自分の過去とも向き合っていく様子が心をうつ。登場人物が皆、善でも悪でもあるような人間の生の姿で造形されているので、読み応えがある。一気読み確実。
ジェイムズ・エルロイのUSA三部作の最後、「アンダーワールドUSA」は年末に読んだけど、ずいぶん時間がかかってしまった。長すぎるよね。中身も例によってぶっ飛んでるので、自覚的にエルロイが好きで読んでる人以外に勧める必要もないかなあと思った。ところで、この小説の主要登場人物の一人が、J・エドガー・フーヴァー。今、クリント・イーストウッドの監督した映画が公開中だけど、全部よく知られた話しか出てこないので、ずいぶん微温的な映画だなと感じた。もう大体フーヴァーの正体はかなり暴露されてたけど、映画ではおとなしく描かれてる。こんなもんじゃないでしょ。エルロイの本はフィクションだけど、こっちの方が本当っぽい。
「このミス」海外作品の1位、「二流小説家」も一応読みました。「二流小説家」の書き途中の作品がいっぱい挿入されていて、最初はうっとうしいんだけど、最後の頃になると、その方が面白くなるから不思議。作中の文学論やゴシップが小説好きには受けると思う。本筋の死刑囚の話の方は、とても面白くてすごいと思うが、この結末はなんだかなあと思うけど。
で、日本作品でベストテン入りした中で、ただ一つ香納諒一「心に雹の降りしきる」を昨日から読みふけった。香納諒一(かのう・りょういち)はやはりいいなあ。「幻の女」で推理作家協会賞。これは傑作でした。「贄(にえ)の夜会」も素晴らしかった。今度の「心に雹(ひょう)の降りしきる」も読みごたえ十分の傑作。本が重すぎる欠点があるけど、「贄の夜会」よりもかなり軽い。
警官が主人公なので、警察小説のカテゴリーに入るかもしれないが、傷心で孤独な主人公が真相に迫っていくという構造は、ハードボイルドのテイスト。7年前の幼女誘拐事件は未解決のままで、主人公はその影をひきずっている。ある日、主人公は今も子供の生存を信じる被害者(食堂チェーンの社長)に呼び出される。新しい証拠が見つかったので捜査して欲しいという話だった。その話を持ち込んだのは、興信所の調査員だった。主人公はそれをでっち上げの証拠だと考える。社長が懸けている賞金ねらいのための。なぜなら、自分も身を持ち崩し金に窮して、懸賞金目当ての偽証拠をでっち上げた過去があるからだ。
という出だしが、快調。その後、この調査員の死体が発見され、謎の死、謎の女、行方不明の女、地方政界やら組織暴力集団…と様々に絡んでくる。しかし、真相は複雑で、恐るべきシリアル・キラーがいたとか、すべては政治的陰謀だったとかの方向には行かず、小悪党の小さなたくらみが積み重なっていったというのが、いやにリアルである。感動の押しつけや驚くべきどんでん返しではないのがいい。心に傷を負う主人公がいわゆる「悪徳警官」ではなく、外れものだが有能な刑事ぶりを発揮し、自分の過去とも向き合っていく様子が心をうつ。登場人物が皆、善でも悪でもあるような人間の生の姿で造形されているので、読み応えがある。一気読み確実。