国政選挙が近づくと、93年の「政治改革」は失敗だった、衆議院は前の「中選挙区制」に戻すべきだという議論が出てくる。中には「民意を反映しない小選挙区制度」をやめて、「民意を反映する中選挙区制」に戻すべきだという人がいる。これが実は大間違いで、小選挙区制は民意を反映するが、中選挙区制は民意を反映しない。もちろん比例代表制は「民意を一番正確に反映する」。だから比例代表制度一本にすべきだという議論なら判るが、中選挙区制に戻すというのでは、議論の筋道がおかしい。
そのことが判っていない人が多いようなので、何回かかけて中選挙区制度の問題点を書いておきたい。なお、どういう選挙制度にしても、国民の支持率が高い党が1位となることは変わらない。当たり前である。どういう細工をしても、投票者が多い党が勝つという選挙の根本は変わらない。しかし、選挙制度によっては、第2党や第3党、あるいはそれ以下の少数党の議席は大きく変わってくる。そういう少数党は、いくら議会で頑張って演説しても、国会の投票ではすべて負ける。だから議会外の反対運動との連携を重視する必要がある。そして国民運動の盛り上がりを背景に、次回の選挙で多数をめざすわけだ。そういう少数政党もある程度は議会内にいた方がいいだろう。そうでないと、国会が活性化せず汚職やボス支配が横行しやすい。また少数党支持者は議会に期待できないので、議会政治そのものを破壊したくなってくる。
さて、議論の筋道を最初に示しておくと、まず「民意を反映する」という意味の問題がある。だけど、それから書きだすとリクツっぽい話が多くなるので、たとえ話で議論していきたい。僕が言っている「民意の反映」とは、何よりも選挙の理論上の問題である。と同時に、国政選挙とは何かという問題も考えておかないといけない。現実に今も中選挙区がある参議院選挙で、どういう弊害が起こっているかも実例で示したい。またこの問題は何よりも「憲法改正」の問題と絡んで出てきている。そのことを無視して議論しても意味がない。「どうして中選挙区が民意を反映すると思われているか」という問題も、そのことと関わっている。そういう問題を順番に見て行きたい。一回で書くには長すぎるので、何回かかかると思う。
さて、たとえ話。ある国で憲法改正を主張するA党(国民の支持率55%)と憲法護持を主張するB党(国民の支持率45%)があるとする。この2党しかない。現実には同じ国といえども政党支持率の地域差があるわけだが、たとえだから「地域差は全くない」と仮定する。国会は定数100名の一院制。憲法改正は、国会が3分の2以上で発議し、国民投票の過半数で成立する。つまり今の日本と同じ仕組みとする。
さて、小選挙区制だった場合、選挙ではA党がすべての選挙区で勝利し、100議席を獲得する。一方B党はゼロとなる。比例代表制だった場合、A党は55議席を獲得し、B党は45議席を獲得する。だからどっちの選挙制度でも、A党首が内閣を組織し、予算や法律はA党の主張が通るのである。しかし、憲法改正問題に関しては違ってくる。小選挙区だったら憲法改正を発議できるが、比例代表だったら発議できない。たとえの前提条件から、国民投票が行われれば憲法改正は成立するはずである。従って憲法改正がなるかどうかは、選挙制度にかかっている。
この場合、小選挙区制ではB党の議席がゼロとなってしまうのは、あまりにヒドイではないかと思う人が多いだろう。何しろ国民の45%が支持しているのである。そのことを指して「民意を反映しない小選挙区制」というわけだろう。その場合、「45%の支持がある党は国会の45%の議席を占める権利がある」と思うんだったら、比例代表制にすべきだと主張する必要がある。いや、45%でなくてもいいけど、せめて35%程度が当選して欲しい、そうでないとおかしい、つまり「35議席あれば憲法改正は阻止できるから、まあいいや」というんだったら、現実的にはありうるだろうけれど、論理的には成り立たないわけである。
このように「小選挙区は民意を反映しない」という意見は、各党の投票数と獲得議席数が離れすぎているのがおかしい、それが「民意を反映していない」という趣旨なんだと思う。しかし、各小選挙区ではどこでもA党の候補者が55%の得票をして当選したのであり、まさにその地域の国民の民意を反映してA党が議席を獲得するわけである。その結果、国会の全議席をA党が獲得するというのは確かに独占が過ぎると思うけれども、それぞれの選挙結果が民意を反映したものであるのは間違いない。つまり「民意の反映」の意味が違っている。選挙なんだから、多数票獲得者が当選するのは当たり前で、小選挙区制がいいかどうかは別にして、小選挙区当選者は誰にも文句を言われる筋がない、その選挙区の民意の結果の当選なのである。
では「中選挙区制」だったらどうだろうか。かつての日本では3~5人を選んでいた。それが一票の格差の問題から、最終的には2人区、6人区も出来た。(なお、奄美地区だけ、米軍占領から日本復帰した後で、独自の1人区の奄美群島区となっていた。)だから、このたとえでは3~5を基本とし、3人区が10、4人区が10、5人区が6あるとする。合わせて100。さて、結果はどうなるだろうか。答えは「判らない」である。なぜなら、この制度では多数議席を取るために、両党とも各選挙区で複数の候補を立てるしかない。だから同じ党同士で票を奪い合うことになる。4人区では、支持率だけから考えると、両党とも2人が当選して分け合うはずである。しかし55%を3人で分けると、18.3%となる。B党が2人しか立てなかったら、自動的にA党から2人当選するはずで、最下位でもいいから当選できるかもしれないと考えて、地元の県議や市長などが新人として立候補するだろう。A党乱立を見てB党も3人目を立てるかもしれない。3人区、5人区も同じで、基本はA党の方が10%ほど支持が多いはずだが、それがどう割れるかで当選者がどうなるかはやってみないと判らない。つまり、中選挙区は票割の成功失敗という偶然により、選挙結果が左右される。
ただ、多分はっきり言えることがある。それはA党もB党も候補が乱立することにより、A党の当選者が7割にも8割にもなるとは考えられないということである。基本は55対45の割合を、3、4、5の定数に反映させた数が当選者のベースになるはずだ。つまり、中選挙区は偶然に支配されるけど、比例代表制に結果的には似てくる。都議選には8人区というすごい所があるけれど、これでは候補で選びようがなく、ある意味では党の支持率を反映する比例代表制に限りなく近いと言える。しかし、それなら比例代表制にしたらいいではないかと思うが、それではダメなんだろうか。(続いて、中選挙区制の実際の弊害、および中選挙区制が理論的に民意を反映しない理由などを。)
そのことが判っていない人が多いようなので、何回かかけて中選挙区制度の問題点を書いておきたい。なお、どういう選挙制度にしても、国民の支持率が高い党が1位となることは変わらない。当たり前である。どういう細工をしても、投票者が多い党が勝つという選挙の根本は変わらない。しかし、選挙制度によっては、第2党や第3党、あるいはそれ以下の少数党の議席は大きく変わってくる。そういう少数党は、いくら議会で頑張って演説しても、国会の投票ではすべて負ける。だから議会外の反対運動との連携を重視する必要がある。そして国民運動の盛り上がりを背景に、次回の選挙で多数をめざすわけだ。そういう少数政党もある程度は議会内にいた方がいいだろう。そうでないと、国会が活性化せず汚職やボス支配が横行しやすい。また少数党支持者は議会に期待できないので、議会政治そのものを破壊したくなってくる。
さて、議論の筋道を最初に示しておくと、まず「民意を反映する」という意味の問題がある。だけど、それから書きだすとリクツっぽい話が多くなるので、たとえ話で議論していきたい。僕が言っている「民意の反映」とは、何よりも選挙の理論上の問題である。と同時に、国政選挙とは何かという問題も考えておかないといけない。現実に今も中選挙区がある参議院選挙で、どういう弊害が起こっているかも実例で示したい。またこの問題は何よりも「憲法改正」の問題と絡んで出てきている。そのことを無視して議論しても意味がない。「どうして中選挙区が民意を反映すると思われているか」という問題も、そのことと関わっている。そういう問題を順番に見て行きたい。一回で書くには長すぎるので、何回かかかると思う。
さて、たとえ話。ある国で憲法改正を主張するA党(国民の支持率55%)と憲法護持を主張するB党(国民の支持率45%)があるとする。この2党しかない。現実には同じ国といえども政党支持率の地域差があるわけだが、たとえだから「地域差は全くない」と仮定する。国会は定数100名の一院制。憲法改正は、国会が3分の2以上で発議し、国民投票の過半数で成立する。つまり今の日本と同じ仕組みとする。
さて、小選挙区制だった場合、選挙ではA党がすべての選挙区で勝利し、100議席を獲得する。一方B党はゼロとなる。比例代表制だった場合、A党は55議席を獲得し、B党は45議席を獲得する。だからどっちの選挙制度でも、A党首が内閣を組織し、予算や法律はA党の主張が通るのである。しかし、憲法改正問題に関しては違ってくる。小選挙区だったら憲法改正を発議できるが、比例代表だったら発議できない。たとえの前提条件から、国民投票が行われれば憲法改正は成立するはずである。従って憲法改正がなるかどうかは、選挙制度にかかっている。
この場合、小選挙区制ではB党の議席がゼロとなってしまうのは、あまりにヒドイではないかと思う人が多いだろう。何しろ国民の45%が支持しているのである。そのことを指して「民意を反映しない小選挙区制」というわけだろう。その場合、「45%の支持がある党は国会の45%の議席を占める権利がある」と思うんだったら、比例代表制にすべきだと主張する必要がある。いや、45%でなくてもいいけど、せめて35%程度が当選して欲しい、そうでないとおかしい、つまり「35議席あれば憲法改正は阻止できるから、まあいいや」というんだったら、現実的にはありうるだろうけれど、論理的には成り立たないわけである。
このように「小選挙区は民意を反映しない」という意見は、各党の投票数と獲得議席数が離れすぎているのがおかしい、それが「民意を反映していない」という趣旨なんだと思う。しかし、各小選挙区ではどこでもA党の候補者が55%の得票をして当選したのであり、まさにその地域の国民の民意を反映してA党が議席を獲得するわけである。その結果、国会の全議席をA党が獲得するというのは確かに独占が過ぎると思うけれども、それぞれの選挙結果が民意を反映したものであるのは間違いない。つまり「民意の反映」の意味が違っている。選挙なんだから、多数票獲得者が当選するのは当たり前で、小選挙区制がいいかどうかは別にして、小選挙区当選者は誰にも文句を言われる筋がない、その選挙区の民意の結果の当選なのである。
では「中選挙区制」だったらどうだろうか。かつての日本では3~5人を選んでいた。それが一票の格差の問題から、最終的には2人区、6人区も出来た。(なお、奄美地区だけ、米軍占領から日本復帰した後で、独自の1人区の奄美群島区となっていた。)だから、このたとえでは3~5を基本とし、3人区が10、4人区が10、5人区が6あるとする。合わせて100。さて、結果はどうなるだろうか。答えは「判らない」である。なぜなら、この制度では多数議席を取るために、両党とも各選挙区で複数の候補を立てるしかない。だから同じ党同士で票を奪い合うことになる。4人区では、支持率だけから考えると、両党とも2人が当選して分け合うはずである。しかし55%を3人で分けると、18.3%となる。B党が2人しか立てなかったら、自動的にA党から2人当選するはずで、最下位でもいいから当選できるかもしれないと考えて、地元の県議や市長などが新人として立候補するだろう。A党乱立を見てB党も3人目を立てるかもしれない。3人区、5人区も同じで、基本はA党の方が10%ほど支持が多いはずだが、それがどう割れるかで当選者がどうなるかはやってみないと判らない。つまり、中選挙区は票割の成功失敗という偶然により、選挙結果が左右される。
ただ、多分はっきり言えることがある。それはA党もB党も候補が乱立することにより、A党の当選者が7割にも8割にもなるとは考えられないということである。基本は55対45の割合を、3、4、5の定数に反映させた数が当選者のベースになるはずだ。つまり、中選挙区は偶然に支配されるけど、比例代表制に結果的には似てくる。都議選には8人区というすごい所があるけれど、これでは候補で選びようがなく、ある意味では党の支持率を反映する比例代表制に限りなく近いと言える。しかし、それなら比例代表制にしたらいいではないかと思うが、それではダメなんだろうか。(続いて、中選挙区制の実際の弊害、および中選挙区制が理論的に民意を反映しない理由などを。)