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尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「収容病棟」他-7月の新作映画

2014年07月29日 22時44分09秒 |  〃  (新作外国映画)
 今日、ワン・ビン(王兵)監督の4時間を超える記録映画「収容病棟」を見た。(シアター・イメージフォーラム)東京では8月8日まで(2日からは夕方からのみ)。全国のアート系単館映画館等で上映中(または上映予定)。これだけで一本書けると思ったけど、どうも僕には処理しきれない感じなので、7月に見た新作映画とまとめて書くことにしたい。
  
 例によってとんでもない迫力の映画だけど、とんでもなさが極まっている。何しろ中国雲南省の精神病院に通って、病棟の人々を撮ってしまったのである。今まで「鉄西区」という9時間の映画や反右派闘争に巻き込まれた人々、雲南の山奥に暮らす姉妹などを延々と見つめてきたワン・ビン。インディペンデント映画で国内で上映できないと思うけど、だからと言って撮影を許可する精神病院があったとは。収容者の人々も撮影の了解を(当然)取っているとのことだが、それにしても驚くべき世界である。

 ワン・ビンの映画にはナレーションや字幕説明がない。もっとも拡大公開されるような映画ではないわけだから、チラシを見て関心のある人が来ているわけだろう。当然、中国の雲南省の精神病院の映像だと判って見ているけど、これは一体何なんだろう。撮影許可を取っているんだから、病院としては特に非人道的とか不衛生と思ってないのだと思うが。でも、日本基準からすれば、ありえないような描写の数々。日本の精神病院も何十年も前に非人道的な扱いが告発されたが、こんなところが今もあるんだ。病院というより、「拘置所」というか、「収容所」というべき存在ではないか。いみじくも入所者が「ここにいると、精神病になってしまう」と語っているような場所なのである。

 ここには10年、20年と収容され続けている人がたくさんいる。プログラムを読むと、北京では戸籍を移す人もいると出ていた。これは「絶対にあってはならないこと」である。現在の国際的な標準からすると、何十年も遅れている。日本でも、今厚生労働省が「病棟転換型居住系施設」を認めようとしていることに対して、当事者による強い反対運動が起こされている。病院が住所になってしまうことは絶対に嫌だという多くの声がある。まさに「日本の中国化」である。中国は「発展途上国」というか「人権後進国」として、まだ精神医療に対する問題意識が低い段階で、警察や家庭からの「措置入院」が多いらしい。当事者の「孤独」や「愛」を語る感想がプログラムに多く出ているが、僕はその前に映像が見せる事実に驚愕したというのが大きい。映画ファンというより、精神医療、精神福祉関係者、中国研究者などがまず見るべき映画だと思う。

 最近はフィルムセンターでばかり見ていて、演劇や落語も行かず新作映画も株主優待しか見ないような状態だけど、7月1日のサービスデイに2本新作を見た。熊切和嘉が「私の男」を撮ったので見たかったのである。見たのは有楽町スバル座だけど、ここはネット予約も入場整理券もない。場内で待ってて、自由に座るだけ。70年の「イージーライダー」の時代より、場内の様子も変わってない感じ(まあ、椅子や映写、音響施設はリニューアルしてるんだろうけど)、その意味で「文化財的映画館」だと思ったが、上映開始後も天井の豆ランプや非常口の案内板が消えない。それはないだろうと驚いた。ということで気が散ったので、評価はもう一回見るときまで保留したい。ただ、原作よりいいところもあり、原作がないと判りづらい所もあるような感じ。あれで皆判るのか?まあ、原作を読んでる人が見るのか。俳優の肉体を得て、なるほどこういう話だったかと思った箇所は多かった。北の町の「背徳」はいいと思うけど、東京のシーンにどうかなと思うところが多かった。それと1993年の奥尻島地震と大津波も説明がいるのではないか。 
 「私の男」の前に、時間がうまく合うので「春を背負って」を見た。「剱岳 点の記」に続く木村大作の山岳映画。松山ケンイチ、蒼井優という配役を見ると、もうストーリイは判ったようなもんで、それでいいという映画。山のシーンは確かに素晴らしく、気持ちよく見られるので、これはこれで存在価値があるのではないか。ま、それだけとも言えるが、また3000メートル級に登りたくなったのも確か。
 
 外国映画では「ジゴロ・イン・ニューヨーク」が案外の拾い物で、渋目のニューヨーク映画が好きな人には逃せない。ジョン・タトゥーロが監督と主演で、ウッディ・アレンが監督作以外で久々の出演をしている。本屋がうまくいかなくなったアレンが、友人のタトゥーロを「ジゴロ」にあっせんする新職業を開始するという、二人のジョークから生まれた映画らしいけど、ウィットに富んでいて見応えがある。ニューヨークの季節の美しい撮影も見所で、こういう東京映画も欲しいなあ。シャロン・ストーン、ヴァネッサ・パラディの女優陣も素晴らしく、ユダヤ人厳格派の様子もうかがわれる。遊び心に、少し社会性とお色気をまぶして、大人の映画に仕上げる。この映画の企画には学ぶべき点が多い。まずは、遊び心で見るところから。
 もう一つ、音楽映画の「パガニーニ 愛と狂気のヴァイオリニスト」が面白い。実在した19世紀初頭のヴァイオリン奏者を生き生きと描き出す。主人公のわがままというか、天才と狂気がすごくて圧倒される。安定した出来で、クラシック系音楽映画として最近出色の「暑い夏に見て損のない映画」。どこもだれることなく一気に楽しめる。
 
コメント (5)
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