尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

2014年6月の訃報

2014年07月07日 23時02分43秒 | 追悼
 先月の訃報も映画演劇関係から。林隆三(6.4没、70歳)は俳優座養成所「花の15期生」というらしいけど、原田芳雄、地井武男、夏八木勲ら続々とここ数年で鬼籍に入っている。故太地喜和子も同期。存命は栗原小巻、三田和代、赤座美代子、高橋長英、前田吟、秋野太作などなど。映画の「妹」や「竹山ひとり旅」もいいんだけど、僕が名前を覚えたのはNHKの時代劇「天下御免」という平賀源内を主人公にしたドラマだった。主人公は山口崇だけど、林隆三は剣豪小野右京之介という役をやった。これは早坂暁脚本の人気ドラマで、影響を受けた人が多いのではないか。

 斎藤晴彦(6.27没、73歳)はテレビやCMにもずいぶん出たと書いてあるけど、僕は見てない。黒テントの役者というイメージなんだけど、晩年にはいつの間にかメジャーの舞台にも出るような役者になった。ミュージカルの「レ・ミゼラブル」とか森光子の「放浪記」とか。後者では小鹿番の死後に、菊田一夫の役を引き継いだのにはビックリした。黒テントの何かの芝居で名前を知ったように思うけど、もう覚えていない。こんなに売れるようになるとは思っていないうちに、存在感が増していった。

 増村保造の話を書いた翌日に、増村監督と「行動社」を設立したプロデュ―サー、藤井浩明(6.21没、86歳)の訃報が伝えられた。今、フィルムセンターで増村映画をたくさん見ているが、ほとんどは藤井浩明が製作にクレジットされている。その他に市川崑「炎上」「弟」などを製作したので、大映の名作映画を支えた人物ということである。この人はまた三島由紀夫「憂国」を製作したことで有名だけど、どうも僕には忘れてしまいたいような映画史のエピソードである。最後に「行動社」で作った「大地の子守歌」や「曽根崎心中」は名作で、それぞれ複数回見ているが見直してみようと思う。

 映画撮影監督の坂本典隆(6.13没、79歳)は、松竹で70年代の青春映画をたくさん撮っていて懐かしい名前。斎藤耕一の「約束」が最初で、「旅の重さ」、ATGの「津軽じょんがら節」、東映の「無宿」と斎藤監督と組んだ。「旅の重さ」は高校2年生の女子高生(高橋洋子)は四国を放浪する話だけど、自分も高2の時の映画だから、ことのほか感銘が深かった。でも、「約束」「津軽」の寒々しい映像の方にも感心した。郷ひろみ主演、山根成之監督の「さらば夏の光よ」「突然、嵐のように」という名作青春映画も撮っていて、あの頃の映画ファンには思い出深い名前である。

 もう一人、大映のカメラマン、森田富士郎(6.11没、86歳)も亡くなった。「大魔神」ばかりが取り上げられるが、眠狂四郎、座頭市、兵隊やくざなど大映の人気シリーズを支えている。大映倒産後も「極道の妻たち」「利休」などいくつもも大作を取っている。僕は高林陽一が撮った「本陣殺人事件」「金閣寺」などが技術的にも素晴らしいと思う。NHKの演出家で「夢千代日記」で知られた深町幸男(6.21没、83歳)は他にも向田邦子「あ・うん」とか「父の詫び状」とかというけど、テレビを見なくなっていたので一つも見てない。映画で「長崎ぶらぶら節」を撮ったけど、まあ直木賞作品の絵解きみたいなものだろう。

 児童文学者の古田足日(ふるた・たるひ、6.8没、86歳)は、戦後の児童文学で「日本の子どもが喜んで読める」本を初めて書いた何人かの作家の一人だと思う。絵本「おしいれのぼうけん」が売れたらしいけど、これは1974年の刊行でもう僕の子ども時代ではないから知らない。僕にとっては「宿題ひきうけ株式会社」の作家だといっていい。この卓抜なネーミングに子ども心がワクワクした。岩橋邦枝(6.11没、79歳)は、1956年の「逆光線」が「女太陽族」のようにもてはやされた時代がある。北原三枝主演で映画化されているが、今見るとずいぶん硬い青春なのにビックリした。(講談社文芸文庫の短編集成に収録されていて、読んでるんだけど記憶がない。)その後、結婚出産を経て、70年代後半以後に作家活動を再開、カムバック賞と言われた人である。最後は長谷川時雨、野上弥生子などの評伝を書いていたというけど、読んでない。読んでなくて評価できないのは、詩人那珂太郎(6.1没、92歳)も同じ。萩原朔太郎の研究者だったとある。

 ダニエル・キイス(6.15没、86歳)は「アルジャーノンに花束を」が突然日本で売れだし、有名作家になったけど、そうなると逆に読むチャンスを失った感じになって読んでない。「24人のビリー・ミリガン」も多重人格のブームをもたらした感がある。持っているけど読んでない。小池千枝(5.28没、98歳)は先月の訃報だけど、発表が今月になった。知らなかったけど、文化服装学院の元学院長で、高田賢三、山本耀司、コシノ・ジュンコらを育てたとある。「日本人デザイナーの母」という人だとある。知らないことは多い。翻訳家の東江一紀(あがりえ・かずき、6.21没、62歳)は、アメリカのミステリーやノンフィクションをいっぱい訳している。ずいぶん読んでるけど、非常に上手な訳で、難しい法廷ドラマなんかを実に的確な日本語で読ませる。この人も翻訳だと安心して読めた。敢えて一つ選ぶと、ドン・ウィンズロウ「犬の力」(角川文庫)を選んでおく。坂倉芳明(5.13没、92歳)の訃報も今月伝えられた。三越を追われて西武で社長となり、岡田茂解任後の三越に顧問出迎えられた。といっても、もう昔の話で分からない人が多いだろう。那須翔、小松一郎氏などの訃報も書こうかと思ったけど、まあ死者に鞭打つのも何だなあと思ってやめておくことにする。
コメント (2)
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