尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

フリースクール法制化への懸念

2015年06月08日 23時22分33秒 |  〃 (教育問題一般)
 各紙の報道によると、義務教育制度の大転換とも言える「フリースクール」や「家庭教育」を義務教育の場として認める法制化が進められているという。超党派の議員連盟が進めているということで、調べてみると「多様な学び保障法を実現する会」というのがあり、そこから「フリースクール等議員連盟」が6月3日に発足している。幹事長が馳浩(自民)、事務局長が林久美子(民主)である。ずっと先進的に活動してきた東京シューレの奥地圭子さんなども中心的に関わっているようで、そういう意味では「善意」から進められている法制化ではないかと思う。

 いじめなどをきっかけに不登校になって学校に通わなくなった子どもが、「フリースクール」で「学び直し」を始め居場所を見つけていく。そういうことは確かにあるだろう。(僕も見たり聞いたりしに行ったこともある。)だけど、そういう場合も生徒の「学籍」はもとの学校にあり、フリースクールへ通うことを「出席」と「柔軟に解釈」(そうせよという通達がある)して、もとの小中学校を卒業したということになる。それでいいのかという感じを持つ子どももいるだろう。(元の学校の卒業歴が残る方がいいという親子もいるだろうが。)また、フリースクールに通うには、多額の費用や交通費がかかることが多く、経済的負担も大きい。だから、法制化によって、経済的支援が行われればずいぶん助かる人が多いだろう。

 ところで、この問題に関する記事のほとんどには、「全国12万人の不登校」と書かれている。これは一体何だろうというと、学校関係者には周知のように、「年間30日以上の欠席」を(その他もろもろのデータとともに)まとめて報告しているわけである。それは政府の統計サイトの「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」の「 4.小・中学校の不登校」から「不登校児童生徒数」の「Excel」をクリックすれば見られる。2013年の数字では、小中合わせて、119617というデータが掲載されている。これが元データだと考えられる。

 だけど、クラス担任経験者にはよく判っているように、この数字はあまり当てにならない。不登校にもさまざまなタイプがあり、理由の報告もするけれど、どうもうまくあてはまるものがない。大体、30日とは「一月に3回」で該当してしまうので、病弱の子や経済的に大変な家庭などの場合、行事などを欠席しやすいから、すぐに30日に達してしまう。もっとも医者からインフルエンザの証明書が出れば、一挙に「出席停止」に変更され、欠席数が激減してしまうことがある。が、なかなか医者にも行けない家庭では「風邪で寝てる」ということで、こじらせ状態が全部欠席数に加算されてしまったり。他人との関わりが難しい子ども(発達障害などのケース)では、行事になれば来なくなったりする場合もある。一方、サボリ系、不良タイプの不登校も、もちろんいつの時代も一定数いるわけだから、それぞれ対応が変ってくるはずである。勉強に全く意欲を持たず、毎日「重役出勤」する生徒は、遅刻だから数には入らない。「少しだけなら毎日保健室に顔を出せる」生徒は、「事実上の不登校」だけど、この場合も統計上の報告から漏れてしまう。まあ、そういう事情があって、フリースクール法制化が救いになる生徒の方が少ないというのが現実ではないかと思うわけである。

 僕が心配するのは、かえって「学校からフリースクールに追いやられる」とか「フリースクールからのフリーを求める」などのケースが起こらないかということである。後者から考えると、果たして「法制化」された、つまり「教育制度」の中に入った「フリースクール」は、果たして「フリー」なんだろうかということである。国公私立の学校と同じく、生徒の卒業を認定できる、つまり高校入学の資格を与えるということなんだから、いくら柔軟さが求められるといっても、法制化である程度の枠がはめられるのではないだろうか。施設の問題、教員の問題、カリキュラムの問題…。学校と同じレベルを求められたら、とても答えられない。だが、図書室や体育館を求められたら、教員免許保有者が半数以上いることとされたら、学習指導要領に準拠した学びを保障せよと法で規定されたら…。フリースクールの卒業式で国旗国歌をやれと言いだす保守系政治家がそのうち現れるのではないか。(「税金を入れている以上、国の方針を守るのが当然ではないか」などと言い出すだろう。)

 ところで、それ以上に恐れることは、「株式会社立」のフリースクールが多数つくられて、成績の上と下の生徒は事実上学校にいなくなるのではないのかということなのである。学校法人ではなく、株式会社が設立する学校は、今でも認められている。だから、株式会社としてフリースクールを設立、運営するところが出てくるのは防ぎようがないだろう。そうすると、両極化が予想できる。一つは、もう「やさしすぎる」学校はバイパスして、高学力者向けのフリースクールで英語などに特化した学習を続け、直接外国の高校、大学に留学するというコースである。あるいは、地元の中学、高校には通わずに、ずっと中学、高校をフリースクールで過ごし、高卒認定試験合格で大学に飛び入学するコースである。そういうことが多数起こると予想できる。

 また、その反対に「低学力者向けのフリースクール」もいっぱい出来るのではないか。小中の教員は、全国学力テストの結果が、自己の成績に連動するような勤務評定をされていく。その結果、学力テスト向けの教育が進められ、付いていけない低学力生徒は学校にいづらくなり、不登校気味となる。そこで学校はフリースクールへの転校を進めるというわけである。低学力生徒がテストに来れば平均点が下がる。来なければ平均点は上がるが、来ない間に問題行動を起こせば、学校は何をしていたんだと責められる。そこで、学籍ごとフリースクールに移れば問題はなくなる…というわけである。杞憂だろうか。ところで、法制化されたフリースクールも学力テストを受けざるを得なくなるんだろうか。
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