ドリアン助川原作、河瀬直美脚本・監督、樹木希林、永瀬正敏主演の「あん」を見た。原作は未読だが、ハンセン病問題を扱う社会的な物語だということは知っていた。河瀬直美が初めて原作をもとにした映画を作り、なかなか評判を呼んでいる。東京都東村山市でロケされ、ハンセン病療養所多磨全生園も出てくる。アドバイザーとしてクレジットされている森元美代治さんはカンヌ映画祭にも参加したという。そんな事前情報ばかりいっぱい聞いている。そんな映画をようやく見た。
しかし、これは実はまずもって「どら焼き映画」である。もっと一般的に言えば「和菓子映画」。もっともどら焼きしか出てこない。だから、甘いものが苦手で、どら焼きが好きでない人には魅力がないのではないか。(「かき氷」がメインの映画に、かき氷に関心がない人が心惹かれないのと同じ。それは僕の事だけど、なんで「かき氷映画」があるのか判らない。二つもあるんだけど。)ところで、僕はどら焼きが大好き。お酒も嫌いではないが、どちらかといえば甘いものの方がいい。まあ麺類やカレーの方がもっと好きだが、和菓子の中ではどら焼きが好きなのである。
流行ってない、業務用のあんを使ってる「どら春」の店主、千太郎(永瀬正敏)のところに、徳江(樹木希林)と名のる老女が現れ、いくらでもいいからアルバイトしたいと言い、断られると「あん」を持って再訪する。これを試食してみた千太郎は、絶品のあんに驚き、徳江と一緒に働くようになる。夜明け前から仕込みを始める。あずきを水に浸し、ゆっくり煮ていき、アクを取ったり砂糖を入れたりして、じっくりじっくり煮詰めていく。時にはあずきに話しかけ、頑張れと励ましながら、あんを作っていく。このシーンのドキュメント的な面白さは抜群で、非常に感動的である。そして、この絶品のあんは評判を取り、行列ができるほどの店になっていく。ところが…、ということで、ここで「心ない噂」というヤツになる。
ところで、この映画にはよく判らないところがいくつもある。だけど、何となく見てしまって心動かさせれるのは、樹木希林の名演によるところが大きい。それに、訳ありの店長を演じる永瀬正敏もいい。それだけでなく、常連的な中学生グループがいて、中の一人はカナリヤをきっかけに徳江と深いかかわりを持っていく。そして、全生園の中に話が進み、そこのロケを見るとやはり心打たれるのである。だけど、判らないというのは、一つはどら焼き屋という存在。そんなものが世の中にあるのか?見てると、その場で皮を焼いて、温かい和スイーツ、つまり鯛焼きとか今川焼のように出している。これがどら焼きか?普通は鯛焼き屋をやるでしょう?「どら焼きはあんだ」と映画の中で言ってるけど、違うだろ。あんがうまいのは前提で、皮がふっくら、もちもち、適度に湿り、適度に歯ごたえがある…そんな皮が決め手だと思うが。映画を見てると、ホットケーキにあんをはさんでいるようで、違和感があるんだが。
もう一つがハンセン病の扱い方。これは何年の物語か?「らい予防法廃止」という話は出てくるから、1996年以後である。だけど、国賠訴訟の話は出てこないから、2001年以前なのかもしれない。徳江が70代半ばと、療養所入所者としては(現在では)若すぎる設定なのも、もう少し前と考えるべきなのかもしれない。東村山の中学生は、日本で一番ハンセン病の知識がある中学生ではないかと思う。今だったら、もっと知っていそうだし。でも、病の説明も現状の説明も何もない。これでいいんだろうか?うわさが広がった(と思われ)、その結果客を失ったのを挽回できないまま、店は改装されてしまう。河瀬監督の映画は、いつも説明をしない、観客に任せるような作り方が多いが、今回は現状を最後にでも字幕で説明するべきではないか。「手が不自由になる病気」と観客が思ってしまう可能性を感じてしまう。
河瀬直美は、前作の「2つ目の窓」が割合に良かったと思ったが、評価は思ったより得られなかった。僕は2作目の「火垂」がけっこう好きで、どうも河瀬監督の中でも評価されない映画の方が好きである。アニミズム的な独自の感性が、空回りしているように思えて好きになれない映画も多い。今回も樹木希林を通して、自然との交感を描いている。それが療養所で生涯をすごさざるを得なかった女性、という設定とうまく合っていてとてもうまく出来ている。樹木希林ももう自在に演じている。僕もハンセン病元患者の話はいっぱい聞いているが、集会に参加するような人の話が多い。多分、今回の徳江は地道に園内で菓子作りをしてきた人で、初めて社会で働く体験ができて、ほんとうにうれしそう。そういう人が出てくることはハンセン病関係の本や映画では珍しい。そういう意味で非常に面白いけど、ハンセン病の正確な知識や元患者の苦難の歴史はまた別に学んでほしいと強く思う。とりあえず「ハンセン病資料館」にはまず行きましょう。
しかし、これは実はまずもって「どら焼き映画」である。もっと一般的に言えば「和菓子映画」。もっともどら焼きしか出てこない。だから、甘いものが苦手で、どら焼きが好きでない人には魅力がないのではないか。(「かき氷」がメインの映画に、かき氷に関心がない人が心惹かれないのと同じ。それは僕の事だけど、なんで「かき氷映画」があるのか判らない。二つもあるんだけど。)ところで、僕はどら焼きが大好き。お酒も嫌いではないが、どちらかといえば甘いものの方がいい。まあ麺類やカレーの方がもっと好きだが、和菓子の中ではどら焼きが好きなのである。
流行ってない、業務用のあんを使ってる「どら春」の店主、千太郎(永瀬正敏)のところに、徳江(樹木希林)と名のる老女が現れ、いくらでもいいからアルバイトしたいと言い、断られると「あん」を持って再訪する。これを試食してみた千太郎は、絶品のあんに驚き、徳江と一緒に働くようになる。夜明け前から仕込みを始める。あずきを水に浸し、ゆっくり煮ていき、アクを取ったり砂糖を入れたりして、じっくりじっくり煮詰めていく。時にはあずきに話しかけ、頑張れと励ましながら、あんを作っていく。このシーンのドキュメント的な面白さは抜群で、非常に感動的である。そして、この絶品のあんは評判を取り、行列ができるほどの店になっていく。ところが…、ということで、ここで「心ない噂」というヤツになる。
ところで、この映画にはよく判らないところがいくつもある。だけど、何となく見てしまって心動かさせれるのは、樹木希林の名演によるところが大きい。それに、訳ありの店長を演じる永瀬正敏もいい。それだけでなく、常連的な中学生グループがいて、中の一人はカナリヤをきっかけに徳江と深いかかわりを持っていく。そして、全生園の中に話が進み、そこのロケを見るとやはり心打たれるのである。だけど、判らないというのは、一つはどら焼き屋という存在。そんなものが世の中にあるのか?見てると、その場で皮を焼いて、温かい和スイーツ、つまり鯛焼きとか今川焼のように出している。これがどら焼きか?普通は鯛焼き屋をやるでしょう?「どら焼きはあんだ」と映画の中で言ってるけど、違うだろ。あんがうまいのは前提で、皮がふっくら、もちもち、適度に湿り、適度に歯ごたえがある…そんな皮が決め手だと思うが。映画を見てると、ホットケーキにあんをはさんでいるようで、違和感があるんだが。
もう一つがハンセン病の扱い方。これは何年の物語か?「らい予防法廃止」という話は出てくるから、1996年以後である。だけど、国賠訴訟の話は出てこないから、2001年以前なのかもしれない。徳江が70代半ばと、療養所入所者としては(現在では)若すぎる設定なのも、もう少し前と考えるべきなのかもしれない。東村山の中学生は、日本で一番ハンセン病の知識がある中学生ではないかと思う。今だったら、もっと知っていそうだし。でも、病の説明も現状の説明も何もない。これでいいんだろうか?うわさが広がった(と思われ)、その結果客を失ったのを挽回できないまま、店は改装されてしまう。河瀬監督の映画は、いつも説明をしない、観客に任せるような作り方が多いが、今回は現状を最後にでも字幕で説明するべきではないか。「手が不自由になる病気」と観客が思ってしまう可能性を感じてしまう。
河瀬直美は、前作の「2つ目の窓」が割合に良かったと思ったが、評価は思ったより得られなかった。僕は2作目の「火垂」がけっこう好きで、どうも河瀬監督の中でも評価されない映画の方が好きである。アニミズム的な独自の感性が、空回りしているように思えて好きになれない映画も多い。今回も樹木希林を通して、自然との交感を描いている。それが療養所で生涯をすごさざるを得なかった女性、という設定とうまく合っていてとてもうまく出来ている。樹木希林ももう自在に演じている。僕もハンセン病元患者の話はいっぱい聞いているが、集会に参加するような人の話が多い。多分、今回の徳江は地道に園内で菓子作りをしてきた人で、初めて社会で働く体験ができて、ほんとうにうれしそう。そういう人が出てくることはハンセン病関係の本や映画では珍しい。そういう意味で非常に面白いけど、ハンセン病の正確な知識や元患者の苦難の歴史はまた別に学んでほしいと強く思う。とりあえず「ハンセン病資料館」にはまず行きましょう。