尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「専守防衛」を踏み越える安倍政権

2018年02月16日 22時34分24秒 |  〃  (安倍政権論)
 トランプ政権が危険な核戦略を選択するのと同時に、安倍政権の「防衛戦略」にも大きく変わる動きがある。日本政府が長い間主張していた「専守防衛」が変わりつつあるのである。今のところ安倍首相も「専守防衛を堅持する」と言っている。だが、注意しておかないといけないのは、今や国会で堂々と「専守防衛は不利」と言い放つまでになってきたのである。

 ちょっと簡単に問題の経緯を説明しておくと、戦後の日本は憲法9条により「戦力」は持てない。だが、憲法解釈により、最小限度の自衛権は持てるとされ、他国攻撃の能力を持たない「専守防衛」に留まる限り憲法には違反しないというのが日本政府の長年の憲法解釈だった。それが安倍政権による解釈変更により、部分的に集団的自衛権が解禁された(2015年の安保法制。)しかし、その場合においても、他国攻撃はできない制約がある。

 そもそも「自衛隊」が合憲という解釈は成り立つか、また現実の自衛隊装備が「専守防衛」の範囲内なのかという問題はある。しかし、それはともかく今まで日本は「専守防衛の範囲内で自衛隊を持つ」というタテマエになっていた。そして今後もそうである。そうなんだけど、安倍首相は2月14日の衆議院予算委員会で「防衛戦略として考えれば大変厳しい。相手の第一撃を甘受し、国土が戦場になりかねないものだ。先に攻撃した方が圧倒的に有利だ」と述べた。これは自民党の江渡聡徳元防衛相の質問への答弁である。(15日東京新聞朝刊)

 これは一体何だろう。自民党議員、それも元防衛相への答弁だから、当然うっかり答えたというもんじゃないだろう。「同志」に向けたホンネでもあり、ある意味「観測気球」なのかもしれない。「安全保障環境の悪化」ということを安倍首相は言い続けてきた。「北朝鮮」ばかりでなく、「中国の海洋進出」も大きい。国民の中にも「日本が先制攻撃する能力を持たないと心配だ」などと言う人が出てきた。今回の答弁も長射程の巡航ミサイル導入に関する質問に答えたものである。今のところ、巡航ミサイルも「専守防衛」の範囲内ということになっているが、ホンネは違うのである。

 これは非常に危険な考えである。歴史に学ぶことのない安倍政権らしいと言えば、そういうことかもしれない。かつての日本軍は、そのような発想を持って「先に攻撃」を繰り返した。その結果どうなったのか。国民と国土を滅亡の淵に追い込んだではないか。日本がそう思えば、相手国も同じように思う。お互いに疑心暗鬼を募らせる。そして実際に戦争になってしまう。それで取り返しがつかない。だからこそ、「歴史の反省」に立って「専守防衛」という方針が出てきたわけだ。

 「先に攻撃」するということは、自国民を守る意識はあっても、他国の国民国土は犠牲にして構わないということである。まあ、相手国の国民は自分たちに投票してくれることはない。自国民の人気だけを気にしているのかもしれない。そもそも「相手の攻撃を甘受し」などという発想自体が間違っている。突然攻撃を仕掛ける国など存在しない。事前に摩擦があり、「攻撃準備段階」がある。だからこそ、「外交」の出番がある。国際連合という組織もある。戦争の危機にあっても何もしないつもりなのか。相手国が攻撃してくるまで「甘受」して待つのか。相手国に乗り込んで戦争を阻止する努力をするのがリーダーの努めだろう。

 いま安倍首相は「自衛隊を憲法に明記する」という憲法改正を進めようとしている。その改憲が成立しても、自衛隊のあり方は何も変わらないのだという。一方、改憲案が国民投票で否決されても何も変わらないのだという。改憲案が可決されても否決されても、何も変わらないというふざけた説明をしている。それは「憲法改正は必要ない」と自ら言っているのと同じではないか。

 実際は多分こういうことなんだと思う。憲法改正が成立すれば、それは憲法の文言解釈を別にして、「現行の法体系にある自衛隊」(つまり集団的自衛権の一部解禁)が信任されたと首相として解釈する。以後、内閣が自衛隊に関する憲法解釈を再び変更しても、それも自動的に合憲になる。9条の解釈権を首相のフリーハンドとする。これが自衛隊に関する答弁のホンネだろう。自衛隊を憲法に明記する。その後に「専守防衛」の名で、巡航ミサイルなど装備を強化する。(2017年末には空母を保有するという意向も報道された。)そして、アメリカが容認する範囲で軍備を増強しながら、やがて「先制攻撃を可能にする自衛隊」に変えていく。そういう方向を予測させる安倍政権下の軍備増強である。
コメント (1)
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