尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

衝撃的な「不妊手術強制」問題

2018年02月23日 23時45分03秒 | 社会(世の中の出来事)
 旧優生保護法に基づく、障がい者に対する不妊手術の強制が大きな問題となっている。2018年1月に、仙台地裁に国家賠償請求訴訟が起こされた。実際に被害者である当事者が声をあげ始めたのである。そのことにより、さまざまな資料が公開され、この手術が思いのほか多くの人に施された実態が明らかになって来た。この問題を考えると、当事者が動き始めないと見えてこないものがあると改めてよく判った。それは自分には衝撃的なことである。

 朝日新聞2月20日付の記事によると、不妊手術件数は総計で1万4939件となっている。ただ1952,53年分は含んでいないので、実数はもっと多い。(1949年~96年の厚生省「優性保護統計報告」から作成したものとある。)都道府県別で見て1000件を超えているのは、北海道(2503件)と宮城県(1406件)。岡山県(845件)、大分県(663件)、大阪府(625件)が続いている。小学生の年齢で手術を受けさせられた事例も見つかっていて、あ然とさせられる。

 この数字は非常に多い。予想以上に多いと言える。非常に深刻な実態があったということだ。僕はもちろん法律のこの規定を知っていた。ハンセン病問題に関心を持ってきた人は、知識として優生保護法にハンセン病規定があったことを知っていたはずだ。そして「遺伝病ではないハンセン病患者に断種手術をするという差別」を批判してきた。しかし、その時に「遺伝」を理由に不妊手術を強制された障がい者の存在をどこまで意識していただろうか。(これは自己批判でもある。)

 法律を見ておきたい。優生保護法第三条第一項に以下のようにある。
第一号 本人若しくは配偶者が遺伝性精神病質、遺伝性身体疾患若しくは遺伝性奇形を有し、又は配偶者が精神病若しくは精神薄弱を有しているもの
第二号 本人又は配偶者の四親等以内の血族関係にある者が、遺伝性精神病、遺伝性精神薄弱、遺伝性精神病質、遺伝性身体疾患又は遺伝性畸形を有しているもの
第三号 本人又は配偶者が、癩疾患に罹り、且つ子孫にこれが伝染する虞れのあるもの

 以上は医師が優生手術を行うことができる疾患例だが、驚くべき障がい者差別に改めてビックリする。ただ、法の条文を見る限り、「本人及び配偶者(がある場合)の同意」が必要とある。「但し、未成年者、精神病者又は精神薄弱者については、この限りでない」とも書いてある。この但し書き条項によって、「保護者の同意」を根拠に未成年にも手術が実施されてしまったのだろう。

 ところで本人の同意に続き、医師は(上記疾患を確認した後で)「都道府県優生保護審査会」に手術の可否を申請することになっている(第4条)。その審査会できちんと審査されていれば、「本人の同意」なき手術が行われたはずがない。ハンセン病の場合、療養所に強制収容されているから、事実上の強制力が働く。障がい者の場合も、このような審査会が設置されていても、事実上は医師などの意向に逆らえなかったということだ。書類上は「本人の同意」が得られたことになっていたはずで、だからこれほど多数の手術が行われたとは想定できなかったのである。

 この問題は日本における「優性思想」の問題である。「優性思想」というのは、「民族的資質」を向上させるために生殖を管理しようという考え。日本でもナチスに影響された国民優性法1940年に制定された。当時は「産めよ殖やせよ」の時代で、妊娠中絶も不妊手術も禁止されていた。(それどころか避妊知識を広めることさえ危険思想だった。)そんな時代に、遺伝的疾患の場合に「国民素質ノ向上ヲ期スルコト」を理由に不妊手術が容認された。
 
 戦後になり、1948年に優生保護法という法律が作られた。この法律で人工妊娠中絶が容認されたが、その法律に上記のような「優生条項」も入っていたわけである。現在ではこのような条項は「人道に反する罪」とみなされる。「その当時は法で決まっていた」と主張するのは、人権の意味をまったく判っていないと言うしかない。その時点で「合法」であると言うなら、アメリカの奴隷制度も、南アフリカのアパルトヘイトも、何でもかんでも許されてしまう。長い裁判に被害者を立ち会わせるのは、人道的な観点から問題だ。早い段階で「政治的解決」を図るべきだろう。ただその場合でも、単に慰謝料を出すというのではなく、きちんとした謝罪がなされねばならない。
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