尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「LGBT」問題を描く映画「カランコエの花」

2018年10月31日 23時18分54秒 | 映画 (新作日本映画)
 「カランコエの花」という短編映画が話題になっている。東中野で「Workers 被災地に起つ」を見た後、JR中央線で3駅行った阿佐ヶ谷にある「ユジク阿佐ヶ谷」という小さな映画館に行く。そこで2日まで3時半から上映している。それに気付いて、ぜひ見てみようと思った。わずか39分という短編だけど、高校を舞台に「LGBT問題」を扱っている。料金は一本分と同じなので、なんだかコスパが悪い気もしたけど、逆に早く帰れるから身体に楽。これは見てよかった映画だった。

 一ノ瀬月乃という女子高生がいる。母親が赤いシュシュを買ってきて、カランコエみたいで可愛いという。そんなシュシュをして学校へ行く。ブラスバンド部に入っている。クラスには仲良し4人組がいて、一緒に校庭でお昼を食べる。友だちが焼いたクッキーを持ってきて、皆で美味しいと食べあう。そんな学校生活だったけど、ある日英語の先生が休んで自習になるはずのところ、養護教諭が来て「LGBT」の説明を始める。クラスの男子が「他のクラスは普通の自習だった」と言い始める。うちのクラスだけLGBTの授業をしたってことは、このクラスに「当事者」がいるんじゃない? 

 実際にいるのか、いるとしたら誰なのか? 無責任にはやし立てる男子もいる中、クラスの心が揺れていく。そんな映画で、筋をこれ以上書いちゃうと面白くないから、これで止めておく。39分だから、このワンアイディアで映画が進む。この後どうなるんだろうと思うと終わっちゃうけど。高校生という年齢に身近な設定でセクシャル・マイノリティの問題を考えさせる。どこの高校かなと思うと、田園風景が出てきて途中で水戸行きのバスが出てくる。ラストのクレジットで判るけど、茨城県立那珂高校でロケされた。東京新聞10月19日の紹介記事によると、高校が全面協力して生徒もエキストラで出てるという。地方の高校という場所の設定が効果的。

 カランコエ(Kalanchoe)ってどんな花だろう? ベンケイソウ科の低木多年草で、原産地は東アフリカ、南アフリカ、マダガスカル辺り。光をあてる時間を調節すると、一年中花を楽しめるとある。映画の中で、母親がカランコエの花言葉は「あなたを守る」だと言う。それが映画のテーマを象徴するような感じだが、調べてみると他にも「幸福を告げる」「たくさんの小さな思い出」「おおらかな心」というのもあった。どれもこの映画にふさわしいけど、特に「たくさんの小さな思い出」もいいな。
 (確かに赤いシュシュっぽいカランコエの花)
 主人公の月乃役は今田美桜という女優。「いまだ」と打ち込むと、今田耕司より先に出てくるんでビックリした。主要キャストはやはり皆芸能活動をしている人が演じてる。「その他大勢」がエキストラなんだろう。監督・脚本・編集は中川駿(31歳)という新人。演出や映像にはどうかなというところもないではないけど、高校生を描いているという意味ではあまり気にならない。「カメラを止めるな」もいいけれど、「カランコエの花」もぜひ全国で大々的に上映されて欲しい。時間が短いから高校生割引500円ぐらいで。それと短いから、国会の議員会館でも上映をしてはどうか

ブラジルで極右と言われるボルソナロという人が大統領に当選した。軍政時代を賛美し、黒人や女性、性的マイノリティへの差別的発言をしてきたという。世界的に性的マイノリティに対する理解が進んでいるかと思うと、反動も大きいのである。それは日本でも同様だが、「いのちに関わる」問題だという認識と想像力が教師には必要だろう。身近にいるはずだが、なかなか見えない。公然と表明している有名人は知ってても、クラスの生徒にいるかどうかは判らない。僕も夜間定時制高校に勤務した時に初めて「GID」(性同一性障害)を自任する生徒と出会った。

 それを思うと、この映画の養護教諭のやり方には問題が多い。「個人プレー」になってしまっている。学校論、教師論でよく書いてきたように、学校も行政組織の一つであって「組織」で動かないといけない問題がある。やはり一度学年会や生活指導部会で話し合って、全校的に進めるやり方を模索するべきだった。それにセクシャル・マイノリティの問題を説明するときに、「誰かを好きになるのは素敵なこと」、それは「異性の場合も同性の場合も同じ」だといった風に語りがちだ。でもストーカーに悩んでいる生徒もいるし、「無性愛」(性的な欲求がない、少ない人)という問題もある。LGBTを学校で考える時に配慮しないといけない。この映画は39分だから、授業時間内で見られる。やがてDVDが発売されたら、全国の高校で討論型授業をやって欲しいなと思った。
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記録映画「Workers 被災地に起つ」

2018年10月31日 21時15分58秒 | 映画 (新作日本映画)
 優れたドキュメンタリー映画を作ってきた森康行監督の「Workers 被災地に起つ」が東中野のポレポレ東中野で上映されている。前作「ワーカーズ」も見てるし、大震災の被災地の「ワーカーズ・コープ」(労働者協同組合)の映画だというから、見なくてはいけないと思った。

 とても興味深い映画だったが、それは「ワーカーズ・コープ」というものへの興味が大きい。ワーカーズ・コープそのものに関しては、前作のブログを参照して欲しい。要するに働くものが自分で働く場を作る。利潤を求める株式会社を起業するのと違って、お金を出し合って自分たちで自分を雇うようなものだ。最初に出てくるのは、岩手県大槌町。大津波で壊滅的な被害を受けたところである。「復興」も進むが、人口も減った。このままでは障害者や高齢者、子どもの居場所がなくなってしまう。福祉の仕事を必要とする人たちが自分たちで仕事場を作ってしまった。

 続いて宮城県の亘理(わたり)町登米(とめ)市の山村も描いてゆく。亘理町はやはり大津波で多くの犠牲を出した。地震の時は仙台空港で整備士をしていた人が、震災で人生観が変わって「ワーカーズ・コープ」を作った。登米では日本初の「山村」のワーカーズ・コープが作られている。かつては炭作りで栄えた地区も、限界集落になりつつある。そんな村に住みついた若者たちが、何も知らないまま山仕事を始め、苦労の末に村人に受け入れられてゆく。

 何より出てくる人たちの顔がいい。自分で切り開いた道を歩いている誇りがある。全員に向くかどうかは別に、もっともっと「ワーカーズ・コープ」というものが必要だなと思う。多くの日本人が将来に不安を抱えているだろう。「働き方改革」などという言葉が踊っている今こそ、必要な映画だ。7年経った大震災の被災地を理解するためにも。自分の「働き方」を見直すためにも。

 森康行監督は以前「こんばんは」という映画を作った。東京墨田区の夜間中学をじっくりと撮り続けた映画だった。その当時墨田区の定時制高校で働いていたので、その映画に出てくる生徒の何人かを教えている。夜間中学を卒業して夜間定時制高校に入学する高齢の生徒がいたのである。「こんばんは」はその学校でも、あるいは三部制高校でも生徒に見せる機会を作ってきた。そんな森監督の仕事はずっと見続けて行きたいと思っている。
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