尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

ビリー・ワイルダーの初期映画①

2019年08月18日 21時13分09秒 |  〃  (旧作外国映画)
 猛暑続きで家にいる日もあるけど、最近割合行ってるのがシネマヴェーラ渋谷の「名脚本家から名監督へ」という特集だ。日本の映画じゃなくて、昔のアメリカ映画。プレストン・スタージェスビリー・ワイルダージョゼフ・L・マンキウィッツ の3人を中心にした特集で、戦中期から戦後初期の映画が多い。この辺になると、僕も見てない映画が多いからすごく貴重な機会だ。この中で、特に知名度の高いビリー・ワイルダーに関して、全然知らなかった初期映画を書いておきたい。
(ビリー・ワイルダー監督)
 ビリー・ワイルダー(Billy Wilder、1906~2002)は、日本では後期のウェルメイドなコメディが特に有名で、近年も三谷幸喜に大きな影響を与えている。「七年目の浮気」「お熱いのがお好き」「アパートの鍵貸します」などが代表。マリリン・モンローが主演した「七年目の浮気」「お熱いのがお好き」の他、オードリー・ヘップバーンが主演した「麗しのサブリナ」「昼下がりの情事」も有名だ。アガサ・クリスティ原作映画の最高峰、法廷ミステリーの大傑作「情婦」も何度見ても感心してしまう出来映えだ。

 ところで以上のワイルダー作品はどれもベストテンに入っていない。キネマ旬報ベストテンで、ワイルダー作品が入選しているのは、「失われた週末」(48年8位)、「サンセット大通り」(51年2位)、「翼よ!あれが巴里の灯だ」(57年3位)、「フロントページ」(75年9位)のたった4本なのである。75年は時代が変わって、コメディの「フロントページも選出されている。しかし、50年代を見ると、シリアス系はベストテンの対象になるけれど、エンタメ系はベストテンの対象外だったことが判る。

 ちなみに、「第十七捕虜収容所」は17位、「七年目の浮気」は19位、「昼下がりの情事」は15位、「情婦」は11位、「お熱いのがお好き」は29位、「アパートの鍵貸します」は17位、「あなただけ今晩は」は17位、「恋人よ帰れ!わが胸に」は26位…で、まだまだ続くけど、もうやめる。晩年の作品はもともとベストテン上位になるほどの完成度が足りない。さすがに「情婦」は11位と次点になっている。70年代になるまで、エンタメ作品をベストテンに投票する批評家が少なかったのである。

 ビリー・ワイルダーは、生まれたときはSamuel Wilderだった。オーストリア=ハンガリー帝国の、今はポーランド領に生まれたユダヤ人だった。ワイマール政権下のベルリンに移住して、新聞記者から映画の脚本家をするようになった。しかしナチスの台頭に危機感を感じ、国会議事堂放火事件の日に、まだ議事堂が燃えている間に荷造りしてパリへ逃げたという。フランスでも脚本家をしていて、その時に最初の監督作「ろくでなし」(1933)を作った。ダニエル・ダリューが出ていたこの映画を今回見られたが、まあこれは失敗作だろう。どら息子を更生させようと、父が車を売り払うが、かえって息子は自動車窃盗団に入ってしまう。自動車のドライブシーンはうまいけれど、人間関係の描写がまだまだ。

 その後、さらにアメリカに渡り、ハリウッドで脚本の仕事をするようになった。エルンスト・ルビッチ監督の「青髯八人目の妻」「ニノチカ」など傑作シナリオを書いた。「ニノチカ」「教授と美女」などではアカデミー賞にもノミネートされた。1942年には「少佐と少女」を監督し、アメリカでも映画監督となった。これはやってないので見てない。次が「熱砂の秘密」(1943)で、日本でも1951年に公開されている。これは戦時中に作られた戦争映画で、北アフリカ戦線のロンメル将軍との戦いを描いている。ロンメルは有名な俳優、監督のエリッヒ・フォン・シュトロハイムが演じている。後の「サンセット大通り」の怪演も有名。
(熱砂の秘密)
 ドイツ軍のロンメル将軍は第二次世界大戦の超有名人物だから、その後何度も映画になっているが、これが最初だろう。英軍が敗退して、一人生き残った伍長がホテルにたどり着く。そこへドイツ軍が到着し、伍長は空襲で死んだ給仕に変装して生き延びる。フランス人の女中(アン・バクスター)は弟がダンケルクで捕虜となり、英軍に複雑な思いを持っている。死んだ給仕はドイツのスパイで、伍長もロンメルの秘密に近づくが。「帝国ホテル」という戯曲の映画化だというが、戦中だし国策映画的な作りではある。「砂漠の美」を描き出したモノクロ映像が印象的である。

 次の「深夜の告白」(1944)はアカデミー賞の作品、監督、脚色の三部門にノミネートされた傑作フィルムノワール。これは以前に見ているので今回はパスしたが、すごく面白い。脚本にレイモンド・チャンドラーが参加していることもあるが、光と影を生かしたモノクロ映像や演出の冴えを随所に感じる。ビリー・ワイルダーが巧みな脚本家に止まらず、監督の才能があることを認めさせた作品だ。そして次の「失われた週末」(1945)で、ついにアカデミー賞作品、監督、脚色各部門で受賞した。主演のレイ・ミランドも主演男優賞を得た。しかし、内容は暗いアルコール依存症の物語で、当初は失敗作と思われていた。この映画も大分前だが見ているのでパスした。

 「異国の出来事」と「地獄の英雄」という2本を主に書きたいと思っているんだけど、ここまででずいぶん長くなってしまった。一度切って、2回に分けることにする。
コメント
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