ビリー・ワイルダー監督の初期作品の続き。1945年の「失われた週末」がアカデミー賞作品賞を取った後、しばらく作品がない。1948年に「皇帝円舞曲」(今回もやってないし、見たことがない)、「異国の出来事」を撮り、1950年に傑作「サンセット大通り」で大成功を収めた。今回は見てないけど、ワイルダーの最高傑作だと思う。続いて1951年に「地獄の英雄」、1953年に「第十七捕虜収容所」を作っている。「地獄の英雄」は当時は散々な評価だったらしいが、その後再評価され50年代の代表作と言われているらしい。以後は「麗しのサブリナ」「七年目の浮気」「情婦」と有名な作品が続く時期が始まる。
(地獄の英雄)
製作順じゃないけれど、まず「地獄の英雄」(Ace in the Hole)から。30年代に脚本家として認められた時代から、ワイルダーは脚本家のチャールズ・ブラケットとコンビを組んできた。しかし、そのコンビはアカデミー賞脚本賞を受賞した「サンセット大通り」を最後に解消された。その次の映画が「地獄の英雄」で、アカデミー賞脚本賞にノミネートはされたものの、興行的にも批評家の評価でも失敗作とみなされてきた。主役の新聞記者役のカーク・ダグラスの性格作りが強烈で、当時の観客には受け入れられなかったんだと思う。カーク・ダグラスは3回ノミネートされたが、ついにアカデミー賞を受賞できなかった。今見ると、この映画でノミネートもされていないのは不当だろう。
(地獄の英雄)
カーク・ダグラス演じる新聞記者チャールズ・テイタムは酒でしくじってニューヨークタイムズをクビになる。その後も酒の失敗が続き、ついにはニューメキシコ州アルバカーキまでやってくる。そこの小さな新聞社で強引に職を求め、やがて中央への復帰を夢見ている。しかし、大したニュースも起こらず、一年後もガラガラ蛇駆除大会の取材に出かけるところ。ところが給油のため寄ったドライブインの様子がおかしい。聞いてみると、裏山の洞窟が崩れてリオという男が生き埋めになっているという。チャールズはこれを大ニュースに仕立てることを考え、地元の警察署長と組んでわざと遅れるような救出方法を進める。案の定この救出作戦は全国ニュースになり、続々と観衆が集まってくる。
チャールズが一人だけリオに食料や水を届けるが、予想外に体の衰弱が進んでしまい…。リオは先住民の呪いかと恐れるが、ドライブインをやってるリオの妻は出ていこうとしている。そんな人間模様を描きながら、焦点は事態をコントロールして行くチャールズのアクの強さ。圧倒的な存在感だ。まだ「報道被害」とか「炎上商法」といった問題意識がない時代だから、カーク・ダグラスが嫌みなやり過ぎ男に見えたのは仕方ないかもしれない。そして「フェイクニュース」の時代に、この強烈な映画が再評価された。今でこそ傑作とみなされる作品だ。
「第十七捕虜収容所」(1953)はウィリアム・ホールデンにアカデミー賞をもたらした映画である。(「サンセット大通り」ではノミネートされたが受賞できなかった。)ドイツ軍の捕虜収容所で、生き抜くために自己防衛的な男がドイツのスパイと疑われる。しかし、実は真のスパイが紛れ込んでいて、その疑心暗鬼の様子を描く。「大脱走」なんかとは違うシリアスな収容所ものである。ナチスを逃れてドイツを後にしたワイルダーだが、戦争直後のドイツにロケした異色作が「異国の出来事」(A Foreign Affair、1948)で、占領下の日本では未公開に終わった。その意味でも貴重な上映機会である。
(異国の出来事、作品は白黒)
「異国の出来事」はジーン・アーサーとマレーネ・ディートリッヒというムードが違う二人の女優が重要な役をやっている。ジーン・アーサーはキャプラ映画(「オペラハット」「我が家の楽園」「スミス都へ行く」等)で戦前に人気があった女優で、「シェーン」で農場主の妻をやっていた。この人がアイオワ州選出の女性下院議員の役で、他の男性議員と一緒にベルリンに出張してくる。目的はドイツ占領軍の米兵が「堕落」しているという噂の真偽を確かめること。つまり、売春婦などとの「汚らわしい交際」で米兵がケガされていないかという調査なのである。
脚本はアカデミー賞にノミネートされたけれど、全体としては成功作とは言えないだろう。しかし、この「占領軍と女性」というテーマが興味深い。ホントにこんな視察団があったのかは知らないけれど、映画では接待役の大尉が実はナチスの大物の愛人だった歌手(ディートリッヒ)の愛人になっていて、何かと裏で配慮している。そのことを隠すため、大尉は同じアイオワ州という地縁で女性議員に言い寄る。お堅い議員だが本気になってしまって…というコメディである。
ディートリッヒの歌も楽しい映画だが、戦後ベルリンの破壊された町並みが心に残る。それをアメリカ国民に見せたかったのかもしれない。女性参政権があり、女性議員もいることが軍隊にとって「歯止め」になることをこの映画は示している。アメリカは1920年に(全国的な)女性参政権が認められた。そのことが選挙を意識せざるを得ない大統領や議員を通して、戦争政策に一定の影響を与えるわけだ。一方、戦後になって女性参政権が認められた日本では、占領後に米駐留軍が「地域の風紀を乱す」という「反米愛国」をテーマにした映画も作られた。興味深い問題じゃないかと思う。
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製作順じゃないけれど、まず「地獄の英雄」(Ace in the Hole)から。30年代に脚本家として認められた時代から、ワイルダーは脚本家のチャールズ・ブラケットとコンビを組んできた。しかし、そのコンビはアカデミー賞脚本賞を受賞した「サンセット大通り」を最後に解消された。その次の映画が「地獄の英雄」で、アカデミー賞脚本賞にノミネートはされたものの、興行的にも批評家の評価でも失敗作とみなされてきた。主役の新聞記者役のカーク・ダグラスの性格作りが強烈で、当時の観客には受け入れられなかったんだと思う。カーク・ダグラスは3回ノミネートされたが、ついにアカデミー賞を受賞できなかった。今見ると、この映画でノミネートもされていないのは不当だろう。
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カーク・ダグラス演じる新聞記者チャールズ・テイタムは酒でしくじってニューヨークタイムズをクビになる。その後も酒の失敗が続き、ついにはニューメキシコ州アルバカーキまでやってくる。そこの小さな新聞社で強引に職を求め、やがて中央への復帰を夢見ている。しかし、大したニュースも起こらず、一年後もガラガラ蛇駆除大会の取材に出かけるところ。ところが給油のため寄ったドライブインの様子がおかしい。聞いてみると、裏山の洞窟が崩れてリオという男が生き埋めになっているという。チャールズはこれを大ニュースに仕立てることを考え、地元の警察署長と組んでわざと遅れるような救出方法を進める。案の定この救出作戦は全国ニュースになり、続々と観衆が集まってくる。
チャールズが一人だけリオに食料や水を届けるが、予想外に体の衰弱が進んでしまい…。リオは先住民の呪いかと恐れるが、ドライブインをやってるリオの妻は出ていこうとしている。そんな人間模様を描きながら、焦点は事態をコントロールして行くチャールズのアクの強さ。圧倒的な存在感だ。まだ「報道被害」とか「炎上商法」といった問題意識がない時代だから、カーク・ダグラスが嫌みなやり過ぎ男に見えたのは仕方ないかもしれない。そして「フェイクニュース」の時代に、この強烈な映画が再評価された。今でこそ傑作とみなされる作品だ。
「第十七捕虜収容所」(1953)はウィリアム・ホールデンにアカデミー賞をもたらした映画である。(「サンセット大通り」ではノミネートされたが受賞できなかった。)ドイツ軍の捕虜収容所で、生き抜くために自己防衛的な男がドイツのスパイと疑われる。しかし、実は真のスパイが紛れ込んでいて、その疑心暗鬼の様子を描く。「大脱走」なんかとは違うシリアスな収容所ものである。ナチスを逃れてドイツを後にしたワイルダーだが、戦争直後のドイツにロケした異色作が「異国の出来事」(A Foreign Affair、1948)で、占領下の日本では未公開に終わった。その意味でも貴重な上映機会である。
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「異国の出来事」はジーン・アーサーとマレーネ・ディートリッヒというムードが違う二人の女優が重要な役をやっている。ジーン・アーサーはキャプラ映画(「オペラハット」「我が家の楽園」「スミス都へ行く」等)で戦前に人気があった女優で、「シェーン」で農場主の妻をやっていた。この人がアイオワ州選出の女性下院議員の役で、他の男性議員と一緒にベルリンに出張してくる。目的はドイツ占領軍の米兵が「堕落」しているという噂の真偽を確かめること。つまり、売春婦などとの「汚らわしい交際」で米兵がケガされていないかという調査なのである。
脚本はアカデミー賞にノミネートされたけれど、全体としては成功作とは言えないだろう。しかし、この「占領軍と女性」というテーマが興味深い。ホントにこんな視察団があったのかは知らないけれど、映画では接待役の大尉が実はナチスの大物の愛人だった歌手(ディートリッヒ)の愛人になっていて、何かと裏で配慮している。そのことを隠すため、大尉は同じアイオワ州という地縁で女性議員に言い寄る。お堅い議員だが本気になってしまって…というコメディである。
ディートリッヒの歌も楽しい映画だが、戦後ベルリンの破壊された町並みが心に残る。それをアメリカ国民に見せたかったのかもしれない。女性参政権があり、女性議員もいることが軍隊にとって「歯止め」になることをこの映画は示している。アメリカは1920年に(全国的な)女性参政権が認められた。そのことが選挙を意識せざるを得ない大統領や議員を通して、戦争政策に一定の影響を与えるわけだ。一方、戦後になって女性参政権が認められた日本では、占領後に米駐留軍が「地域の風紀を乱す」という「反米愛国」をテーマにした映画も作られた。興味深い問題じゃないかと思う。