クエンティン・タランティーノ(Quentin Tarantino、1963~)監督の10本目の長編映画「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」(Once Upon a Time in Hollywood)が公開されている。名前で客を呼べる数少ないアメリカの映画監督だが、近年の作品は(従来にも増して)残虐描写が多かったので、ここでは書かなかった。今回はまあラストなど、やっぱりと思うんだけど、それより1969年のハリウッドを再現することに力を注いでいる。いつも映画ファンにうれしい映画を作ってきたが、今回は特段に映画への偏愛に満ちている。映画マニア向けとも言えるが、興味深い映画には違いない。
映画の紹介文をコピーすると、こんな感じ。「リック・ダルトン(レオナルド・ディカプリオ)は人気のピークを過ぎたTV俳優。映画スター転身を目指し焦る日々が続いていた。そんなリックを支えるクリフ・ブース(ブラッド・ピット)はスタントマンかつ親友でもある。目まぐるしく変化するハリウッドで生き抜くことに精神をすり減らしているリックとは対照的に、いつも自分らしさを失わないクリフ。パーフェクトな友情で結ばれた二人だったが、時代は大きな転換期を迎えようとしていた。そんなある日、リックの隣に時代の寵児ロマン・ポランスキー監督と新進の女優シャロン・テート(マーゴット・ロビー)夫妻が越してくる。
「レオ様」「ブラピ」2大スター共演映画と思って来てるような人もいたようだが、「ポランスキー」と「シャロン・テート」の名前を聞いて、その後に起きることを知ってる人じゃないと、判らない。映画の作り自体は、「イングロリアス・バスターズ」みたいな「歴史改変もの」になっている。第二次大戦のような、多くの人にとってもう「歴史」と認識される時点ならともかく、多くの人が記憶している50年前に現実を「改変」してもいいのか。しかし、そこにこそ「こうあって欲しかった」祈りのようなものが伝わってくる。
(来日したタランティーノとディカプリオ)
この映画は今年のカンヌで評判になったけど無冠に終わった。僕もまあ評価としては同じようなものになる。面白いけど長すぎるし、映画界内幕ものに偏っている。大体、映画作りの一番の情熱は「1969年の再現」に向けられている感じだ。僕は当時のアメリカの車なんて知らないけど、見れば全部昔の車を集めているなとは判る。車のラジオからは当時のヒット曲が流れ続ける。(数曲しか思い出せなかった。)リック・ダルトンのテレビドラマが作中に出てくるが、もちろん白黒である。1963年生まれのタランティーノが覚えているはずもないわけだが、何故か全体に懐かしい。
落ち目のリック・ダルトンとスタントマンのクリフ・ブースの関係も興味深い。ダルトンは人気に陰りが出て悪役が多くなっている。アル中になって免許も取り消されたので、最近は毎日クリフの車に乗っている。だから単にスタントマンというより、付き人であり友人でもある。しかしながら、このクリフは噂では妻を殺したとかで、今はブレンディという大きな犬と暮らしている。犬種はピットブルという闘犬用の犬だという。(この犬でカンヌのパルムドッグ賞を受けた。昨年は「ドッグマン」が受賞したジョークの賞。)リックはイタリアの西部劇なんて出るもんかと言ってたけど、結局は出演して若い妻を伴って帰国する。
さて問題のシャロン・テート。ポーランド出身の監督ロマン・ポランスキー(1933~)は、傑作「水の中のナイフ」が評判になって外国で製作が可能になった。「反撥」「袋小路」「吸血鬼」と作って、「吸血鬼」に出演していたシャロン・テート(1943~1969)と1968年1月に結婚した。1968年6月にはハリウッドで作った傑作ホラー「ローズマリーの赤ちゃん」が大ヒットして、一躍注目されるようになった。だから映画内でリックも、今一番注目の監督と女優の夫婦が隣にやってきたと語っているのである。
(映画の中のシャロン・テート)
シャロン・テートを演じているのは、マーゴット・ロビー。アカデミー賞主演女優賞にノミネートされた「アイ、トーニャ」でフィギュアスケーターのトーニャ・ハーディングを演じた人。もともと「PAN AM/パンナム」というテレビドラマで人気が出たという。航空会社のパンナムは、映画内にもなんども出てくる。昔を知ってる人なら懐かしい。その後、「ウルフ・オブ・ウォールストリート」でレオナルド・ディカプリオの妻役に抜てきされた。「アイ、トーニャ」の下品さは今回は微塵もなくて、写真で見る限りすごく似ている。自分が出ている映画を見に行く夢のようなシーンが忘れがたい。
(実際のポランスキー夫妻)
現実世界では、1969年8月9日、シャロン・テートは家に押し入った狂信的カルト集団チャールズ・マンソン一味に殺害された。妊娠8ヶ月だった。同時に他の3人も殺されている。60年代のアメリカでは政治的暗殺が相次いだが、この事件は「カルト集団による犯行」という意味で来たるべき時代を予告する犯罪だった。ポランスキーは海外にいて事件に会わなかった。シャロン・テートが散歩中に古書店により、ハーディの「テス」の初版を求めるシーンは泣ける。ポランスキーが10年後に作った「テス」は最高傑作だと思う。ところで「歴史改変もの」であるこの映画では事件がどう描かれるかは、見てのお楽しみ。
映画の紹介文をコピーすると、こんな感じ。「リック・ダルトン(レオナルド・ディカプリオ)は人気のピークを過ぎたTV俳優。映画スター転身を目指し焦る日々が続いていた。そんなリックを支えるクリフ・ブース(ブラッド・ピット)はスタントマンかつ親友でもある。目まぐるしく変化するハリウッドで生き抜くことに精神をすり減らしているリックとは対照的に、いつも自分らしさを失わないクリフ。パーフェクトな友情で結ばれた二人だったが、時代は大きな転換期を迎えようとしていた。そんなある日、リックの隣に時代の寵児ロマン・ポランスキー監督と新進の女優シャロン・テート(マーゴット・ロビー)夫妻が越してくる。
「レオ様」「ブラピ」2大スター共演映画と思って来てるような人もいたようだが、「ポランスキー」と「シャロン・テート」の名前を聞いて、その後に起きることを知ってる人じゃないと、判らない。映画の作り自体は、「イングロリアス・バスターズ」みたいな「歴史改変もの」になっている。第二次大戦のような、多くの人にとってもう「歴史」と認識される時点ならともかく、多くの人が記憶している50年前に現実を「改変」してもいいのか。しかし、そこにこそ「こうあって欲しかった」祈りのようなものが伝わってくる。
(来日したタランティーノとディカプリオ)
この映画は今年のカンヌで評判になったけど無冠に終わった。僕もまあ評価としては同じようなものになる。面白いけど長すぎるし、映画界内幕ものに偏っている。大体、映画作りの一番の情熱は「1969年の再現」に向けられている感じだ。僕は当時のアメリカの車なんて知らないけど、見れば全部昔の車を集めているなとは判る。車のラジオからは当時のヒット曲が流れ続ける。(数曲しか思い出せなかった。)リック・ダルトンのテレビドラマが作中に出てくるが、もちろん白黒である。1963年生まれのタランティーノが覚えているはずもないわけだが、何故か全体に懐かしい。
落ち目のリック・ダルトンとスタントマンのクリフ・ブースの関係も興味深い。ダルトンは人気に陰りが出て悪役が多くなっている。アル中になって免許も取り消されたので、最近は毎日クリフの車に乗っている。だから単にスタントマンというより、付き人であり友人でもある。しかしながら、このクリフは噂では妻を殺したとかで、今はブレンディという大きな犬と暮らしている。犬種はピットブルという闘犬用の犬だという。(この犬でカンヌのパルムドッグ賞を受けた。昨年は「ドッグマン」が受賞したジョークの賞。)リックはイタリアの西部劇なんて出るもんかと言ってたけど、結局は出演して若い妻を伴って帰国する。
さて問題のシャロン・テート。ポーランド出身の監督ロマン・ポランスキー(1933~)は、傑作「水の中のナイフ」が評判になって外国で製作が可能になった。「反撥」「袋小路」「吸血鬼」と作って、「吸血鬼」に出演していたシャロン・テート(1943~1969)と1968年1月に結婚した。1968年6月にはハリウッドで作った傑作ホラー「ローズマリーの赤ちゃん」が大ヒットして、一躍注目されるようになった。だから映画内でリックも、今一番注目の監督と女優の夫婦が隣にやってきたと語っているのである。
(映画の中のシャロン・テート)
シャロン・テートを演じているのは、マーゴット・ロビー。アカデミー賞主演女優賞にノミネートされた「アイ、トーニャ」でフィギュアスケーターのトーニャ・ハーディングを演じた人。もともと「PAN AM/パンナム」というテレビドラマで人気が出たという。航空会社のパンナムは、映画内にもなんども出てくる。昔を知ってる人なら懐かしい。その後、「ウルフ・オブ・ウォールストリート」でレオナルド・ディカプリオの妻役に抜てきされた。「アイ、トーニャ」の下品さは今回は微塵もなくて、写真で見る限りすごく似ている。自分が出ている映画を見に行く夢のようなシーンが忘れがたい。
(実際のポランスキー夫妻)
現実世界では、1969年8月9日、シャロン・テートは家に押し入った狂信的カルト集団チャールズ・マンソン一味に殺害された。妊娠8ヶ月だった。同時に他の3人も殺されている。60年代のアメリカでは政治的暗殺が相次いだが、この事件は「カルト集団による犯行」という意味で来たるべき時代を予告する犯罪だった。ポランスキーは海外にいて事件に会わなかった。シャロン・テートが散歩中に古書店により、ハーディの「テス」の初版を求めるシーンは泣ける。ポランスキーが10年後に作った「テス」は最高傑作だと思う。ところで「歴史改変もの」であるこの映画では事件がどう描かれるかは、見てのお楽しみ。