尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「自粛警察」はファシズムの芽なのかー「ポストコロナ世界」考④

2020年06月15日 22時35分57秒 |  〃 (新型コロナウイルス問題)
 緊急事態宣言下で見られた「自粛警察」を指して、「ファシズムの芽」だと批判する人がいた。いや関東大震災時の「自警団」の方が近いと指摘する人もいた。この問題をどう考えればいいのだろうか。ただ「ファシズムなのか」を正面から論じても、あまり生産的とは思えない。僕なんか、つい現代史の学術用語としての「ファシズム」の定義を考えてしまう。でも多くの人は、「独裁」とか「権威主義」を非難するときの「悪罵用語」として「ファシスト」を使っているのだろう。

 ところで、ニュース番組に「自粛警察」という言葉は不適当だとメールした人を見た。「警察」は違法行為を取り締まる組織なのに、「自粛警察」では「警察が悪いことをする」みたいだという話だった。世の中にはそう思う人もいるのか。「警察」は治安維持のため必要だろうが、とかく「横暴」というイメージがつきまとう。アメリカといわず、日本でもしつこい職質とか引っかけ取り締りに遭ってない人は少ないと思う。特に反体制的な活動家じゃなくても、「警察」には「ムチャクチャ言ってくる」イメージがある。
(欧米諸国と日本の比較)
 日本では欧米と違い、緊急事態宣言でも「自粛要請」に止まり、法的な「営業禁止」「外出禁止」ではなかった。生活のために営業を続ける店もあったので、そこで「何者か」が夜中に「店を閉めろ」とかの貼紙を貼って歩いたりしたらしい。県外ナンバーの車に嫌がらせをする人まで現れた。それを指して、いつの間にか「自粛警察」と呼ぶようになった。僕は「初出」を知らないけれど、イメージ的にはすぐ判ったのである。不思議なことに、そういう「活動」をしているご本人は「ステイホーム」をしていない。自分が率先して「自粛」してれば、その店が夜も開いてるかどうか判らないはずだ。
(「自粛警察」の貼紙」)
 上の画像は検索して見つけた貼紙の例。店主を「銭ゲバ」と攻撃してる。故ジョージ秋山の1970年の漫画「銭ゲバ」がすぐに思い浮かぶ世代なんだろう。この「ゲバ」なんか、若い人には語源が判らないと思う。ニュースで見る限り、今のところホンモノの警察に捕まったのは「豊島区の職員」だけだと思う。なんと「自粛」を要請する側の人間が、要請に応じてくれない店に腹を立てたらしい。別の事例だが、川崎市の施設に「ヘイトクライム」的な葉書を送った人も最近捕まった。元公務員で、現在の担当者に対する私怨があったらしい。どこかで「謎の組織」が暗躍しているわけではなかった。

 「ファシズム」はもともとイタリアのムッソリーニの「国家ファシスト党」から来る。しかし、イタリアは「先駆的ファシズム体制」とでも言うべきで、やはりドイツのヒトラーが結成した「ナチス」がファシズムの代表例になると思う。ナチスというのは「国家(国民)社会主義ドイツ労働者党」の略である。社会主義を自称しているが、反共産主義である。というか「反ソ連」である。「国家(国民)社会主義」こそが、ドイツ労働者にとっての「真の社会主義」なのである。(なお、国家社会主義と訳すか、国民社会主義と訳すかは、教科書でも分かれている。)

 ソ連が崩壊したんだから「反ソ蓮」もないはずだが、「ソ連」的なるものを「中国」や「北朝鮮」に見出して、排外主義的な主張をする人はいる。もともと「反ソ連」とは「反革命」ということである。現代日本に「革命の危機」などあるわけもないが、人によっては世界標準によって「日本的なもの」が変化していくことは、すべて「革命の陰謀」と思い込む人も結構いる。しかし、「主義」だけでは「ファシズム」とは呼べない。非合法活動もいとわない「」(組織)があってこそ、初めて「ファシズム」と言えるだろう。

 そう考えてくると、「自粛警察」は単なる鬱憤晴らしに近く、良くも悪くも「ファシズム」などと言っては過大評価になりそうだ。むしろ前近代的な「村八分」の方が近い感じがする。「要請」に止まるのに「自粛」が成り立ったのも、社会が法的な契約によってではなく、ムラ共同体的な暗黙の規制で成立しているからだと考えられる。ファシズム党であれ、革命政党であれ、超少数勢力としては存在するかもしれないが、それが「運動体」を目指す以上は、日本の日常生活では浮いてしまいそうだ。

 「自粛警察」は、だからファシズムではないと思うが、だから良いわけでは無い。日本社会の中では「暗黙の共通理解」を押しつけてくる「空気」の方が怖い。現実に恐怖感を呼び起こすわけで、日本では「空気」の方が問題だ。今のところ、「ファシズム」でも「自警団」でもないとしても、「ネットいじめ」は後を絶たない。今後ますますコロナ問題による経済困窮が大きくなってくる。自粛期間が終わって、それなりに業績が戻る会社もあるだろう。しかし、やはり大変な状況が続く業種の方が多いと思う。その時に「混乱」が起き、それを利用する人も出てくる。これからの方がますます大変になると覚悟して、すぐに動ける態勢を作っておかないといけない。
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