ドイツ映画「コリーニ事件」は法廷ミステリーの傑作だった。ドイツ現代史の闇を直視する原作を脚色して、最後まで目が離せないスリリングな展開になっている。こういう社会派映画は映画祭受賞という勲章で客を呼ぶものだが、この映画は何の賞もない。監督も知らないし、俳優も一人知ってるだけ。原作は読んでたけど地味だから、実はあまり期待しないで見た。このような映画が作られるドイツの底力を強く感じる映画だ。
原作者のフェルディナント・フォン・シーラッハ(1964~)はドイツでも有名な弁護士だという。2009年に数多くの裁判体験を基にした「犯罪」という短編小説集を発表して、ベストセラーになった。クライスト賞も受賞したので、ミステリーを超えた作家と認められている。(クライスト賞は2016年に多和田葉子も受賞している。)翻訳されると、日本でも各種ミステリーベストテンで高く評価された。その後の「罪悪」に続き、第3作の「コリーニ事件」は初の長編。僕も以上3作は地元の図書館で借りて読んだ記憶があるが、細かな展開は忘れてしまった。
冒頭で豪華ホテルで「殺人」が起きる。犯行の様子はラスト近くまで出て来ない。老人の犯人は逃げるそぶりはなく、ホテルで悠然としている。被害者はやはり老人で、大会社の会長を務めていた大物らしい。場面はそこで変わって、拘置所にいる犯人に弁護士が接見する。しかし、取り調べにも一切黙秘した犯人は弁護士にも一切動機を語らない。犯人の名前がファブリツィオ・コリーニで、なんとフランコ・ネロ(1941~)が演じている。大昔の「マカロニ・ウエスタン」で世界的スターになった人で、まだ健在だったのか。寡黙な様子が実にいい味を出している。
(コリーニ役のフランコ・ネロ)
弁護士のカスパー・ライネンはトルコ系で、弁護士になれたのは富豪の援助があったからだった。最初の事件で国選弁護人を引き受けたが、実はコリーニが殺害した被害者のマイヤーこそ、その援助してくれた恩人だった。後継者として孫のヨハナがイギリスから帰ってくるが、カスパーとヨハナはかつて因縁があった相手だった。カスパーは事件を引き受けるべきか悩むが、どんな相手であれ仕事として引き受けるのが医者と弁護士だと考える。やがて裁判が始まるが、相変わらず黙秘を続けるコリーニはこのままでは重罪が避けられない。カスパーは果たして動機を明らかにすることが出来るのだろうか。
最終的には誰もが予測するとおり、ナチス絡みであることが判明する。コリーニはイタリア生まれで、第二次大戦末期の事件が関わっていた。カスパーはそのことを戦争中に史料を保存する文書館の協力で突き止め、イタリアまで行って証人を見つける。そして最後に、どうしてマイヤーは免罪されたのかをめぐる真相が追究される。この原作刊行を受けて、ドイツでは法改正まで行われたという。それだけの衝撃が原作にはあったのである。
監督のマルコ・クロイツパイントナー は全然知らない人だが、法廷シーンも、それ以外の人間関係描写もうまく処理していて飽きさせない。風景なども美しい。しかし、なんと言ってもナチスの犯罪と今も向き合うドイツの精神に触れる思いがする。しかも、弁護士をトルコ人に設定し、被害者を複合的に描く。日本で戦争犯罪と向き合う時には、往々にして孤立無援の状況に置かれる。今も過去を直視できるドイツに比べて、日本人の精神的ひ弱さを痛感する映画でもあった。
原作者のフェルディナント・フォン・シーラッハ(1964~)はドイツでも有名な弁護士だという。2009年に数多くの裁判体験を基にした「犯罪」という短編小説集を発表して、ベストセラーになった。クライスト賞も受賞したので、ミステリーを超えた作家と認められている。(クライスト賞は2016年に多和田葉子も受賞している。)翻訳されると、日本でも各種ミステリーベストテンで高く評価された。その後の「罪悪」に続き、第3作の「コリーニ事件」は初の長編。僕も以上3作は地元の図書館で借りて読んだ記憶があるが、細かな展開は忘れてしまった。
冒頭で豪華ホテルで「殺人」が起きる。犯行の様子はラスト近くまで出て来ない。老人の犯人は逃げるそぶりはなく、ホテルで悠然としている。被害者はやはり老人で、大会社の会長を務めていた大物らしい。場面はそこで変わって、拘置所にいる犯人に弁護士が接見する。しかし、取り調べにも一切黙秘した犯人は弁護士にも一切動機を語らない。犯人の名前がファブリツィオ・コリーニで、なんとフランコ・ネロ(1941~)が演じている。大昔の「マカロニ・ウエスタン」で世界的スターになった人で、まだ健在だったのか。寡黙な様子が実にいい味を出している。
(コリーニ役のフランコ・ネロ)
弁護士のカスパー・ライネンはトルコ系で、弁護士になれたのは富豪の援助があったからだった。最初の事件で国選弁護人を引き受けたが、実はコリーニが殺害した被害者のマイヤーこそ、その援助してくれた恩人だった。後継者として孫のヨハナがイギリスから帰ってくるが、カスパーとヨハナはかつて因縁があった相手だった。カスパーは事件を引き受けるべきか悩むが、どんな相手であれ仕事として引き受けるのが医者と弁護士だと考える。やがて裁判が始まるが、相変わらず黙秘を続けるコリーニはこのままでは重罪が避けられない。カスパーは果たして動機を明らかにすることが出来るのだろうか。
最終的には誰もが予測するとおり、ナチス絡みであることが判明する。コリーニはイタリア生まれで、第二次大戦末期の事件が関わっていた。カスパーはそのことを戦争中に史料を保存する文書館の協力で突き止め、イタリアまで行って証人を見つける。そして最後に、どうしてマイヤーは免罪されたのかをめぐる真相が追究される。この原作刊行を受けて、ドイツでは法改正まで行われたという。それだけの衝撃が原作にはあったのである。
監督のマルコ・クロイツパイントナー は全然知らない人だが、法廷シーンも、それ以外の人間関係描写もうまく処理していて飽きさせない。風景なども美しい。しかし、なんと言ってもナチスの犯罪と今も向き合うドイツの精神に触れる思いがする。しかも、弁護士をトルコ人に設定し、被害者を複合的に描く。日本で戦争犯罪と向き合う時には、往々にして孤立無援の状況に置かれる。今も過去を直視できるドイツに比べて、日本人の精神的ひ弱さを痛感する映画でもあった。