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尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

映画「花束みたいな恋をした」と「あの頃。」ー魅力の青春映画

2021年03月03日 22時39分26秒 | 映画 (新作日本映画)
 最近「花束みたいな恋をした」(土井裕泰監督)と「あの頃。」(今泉力哉監督)を続けて見た。どちらも青春映画の佳作で、見た後に充実感が残る映画だった。今さら青春映画を見てもなあと敬遠しがちなんだけど、見れば昔のドキドキ感が戻ってくる。若い頃にベルイマンの「野いちご」や小津安二郎の「東京物語」などを見た時に、高齢者の心は了解出来た。逆もまた真なりである。ところで、これらの「コロナ禍前」映画を見ると、ちょっと前までの「飲み会」「ライブハウス」「握手会」などの「」な生活に感慨を覚えてしまった。

 「花束みたいな恋をした」は菅田将暉有村架純の主演だからヒットするに決まってる。1月末に公開され、10月以来続いていた「鬼滅の刃」の興行収入連続トップ記録を破った映画になった。坂元裕二のオリジナル脚本を、土井裕泰監督が軽快に演出した。坂元裕二は「東京ラブストーリー」など多くのドラマを手掛けた人で、映画でも「世界の中心で愛を叫ぶ」の共同脚本に加わった。土井裕泰は「のぶひろ」と読むと今回知ったが、テレビで「愛してくれと言ってくれ」「逃げるは恥だが役に立つ」などの話題作を手掛け、映画でも「ビリギャル」「罪の声」を監督した。

 映画は2015年に山音麦(菅田将暉)と八谷絹(有村架純)が終電を(京王線明大前駅で)逃して出会うところから始まる。映画や音楽などの趣味が同じで付き合い始め、(調布市で)同棲し、大学を卒業。しばらくフリーターになるが、やがて就職し、2020年に別れるまでの5年間を弾むようなリズムで描き出す。二人の年月は「あるある」感いっぱいで、多くの人が身につまされるだろう。やはり脚本の功績が大きい。僕は小説の話題がいっぱいなのが嬉しかった。「本棚が同じ」と絹が言ってる。堀江敏幸柴崎友香小川洋子などの他、今村夏子が何度も言及される。今村夏子が新作を書くと話題になり、別れる頃に芥川賞を受けた。
(多摩川沿いで焼きそばパンを食べる)
 この映画を支えている「社会的仕組み」は、「性的許容度の拡大」と「親の経済的支援」である。麦は途中で新潟県長岡市出身と判るが、大学を卒業したら仕送りを止められる。「駅から30分」ながら広い部屋を借りられたのは、親の仕送りがあったからだ。絹は東京に住んでいるが、昔なら「学生結婚」しなければ一緒には住めないだろう。「同棲時代」というのは両方とも地方出身の話で、男が女の下宿に入り浸るならともかく、同棲するために東京在住の女子学生が新しい部屋を借りるというのは、現代でもかなりハードルが高いと思う。

 麦はイラストレーターになりたくて、仕事も少しあったが単価が安い。仕送りがない以上、フルタイムで働かないと部屋代が払えない。男の方が働くことで、長時間労働の中で二人のすれ違いが出て来る。土曜日にお芝居のチケットを取ってあったが、日曜に出張があり先輩に土曜に先乗りすると言われて行くしかない。二人で「希望のかなた」(アキ・カウリスマキ監督、2017年12月にユーロスペースで公開)を見に行くが、麦はあまり乗れない。本屋に行っても、つい「人生の勝機をつかむ」みたいな実用本を立ち読みしてしまう。「仕事人間」の「おじさん文化」が入り込みつつあるのだ。これは多くの人に起こることの「反復」である。うまいのは、だからこそ劇構造もいくつもの「反復」で語られることだ。ということは「復縁」もあるのかと深読み可能。

 一方、「愛がなんだ」など青春映画を多く作ってきた今泉力哉監督の「あの頃。」は正直言って内容的には判らないけれど、よく出来た快作だ。劔樹人あの頃。男子かしまし物語』という本の映画化。21世紀初頭、大阪でくすぶっていた劔(松坂桃李)が友だちに勧められた松浦亜弥のビデオを見てはまってしまう。ここから「ハロー!プロジェクト」(ハロプロ)の「推し」にはまった男たちの奇行愚行の数々を描く。もう年も行った男たちに訪れた仲間との遅れてきた青春の日々。

 しかし、ここでも夢のような日は永遠には続かない。それは「花束みたいな恋をした」と同じく、青春の日々はいずれ終わるという永遠の真理である。そこで一風変わったメンバーたちはいかに生きていくか。中でも仲野太賀演じる、こずるくて器の小さな「コズミン」(小泉)の悲劇は心に刻まれる。仲野太賀は「すばらしい世界」でも抜群で、今年の助演男優賞にふさわしい。僕は好きなスポーツや俳優、歌手などのファンクラブに入ったことが一度もない。「面白ければ良い」ので、どこかのチームが強すぎるのは嫌いだ。好きな女優はいたけど、一人に入れ揚げたりはしない。だから「あやや推し」の気持ちは本当には判ってない。でも、この映画はよく出来ていると思う。
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