尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

神道政治連盟議員懇談会の「同性愛差別冊子」問題

2022年07月01日 22時25分35秒 | 政治
 6月12日に開かれた「神道政治連盟国会議員懇談会」の席上で「同性愛差別冊子」が配布されたという問題が報じられている。一部マスコミしか報じてないので、スマホでも朝日新聞でも現時点では見ていない。まだ知らない人もいるかと思うし、記事でも「神政連」については深く触れていない。そこでこの問題を少し調べてみたいと思う。
(6月12日の会合、向こう側で起立しているのは安倍晋三会長)
 まず「神道政治連盟」とは神社本庁と関連の深い政治団体で、その主張を見れば「これが日本の右翼だ」というような項目が並んでいる。「憲法改正」「靖国護持」「男系天皇制維持」「戦争責任否定」などだが、その中に「夫婦別姓反対」などもある。その政治理念に共鳴する国会議員によって作られているのが、「神道政治連盟議員懇談会」である。

 ホームページを見ると、衆参合わせて263名が載っている。安倍晋三会長以下、岸田文雄首相、麻生太郎元首相、菅義偉前首相、茂木敏充幹事長、高市早苗政調会長、松野博一官房長官、林芳正外相、鈴木俊一財務相、萩生田光一経産相、野田聖子少子化担当相、岸信夫防衛相、さらに石破茂河野太郎小渕優子稲田朋美杉田水脈…内閣も党も、多くの問題議員も大体入っている。

 近年アメリカの最高裁が保守化しているが、それはキリスト教右派が支持したトランプ前大統領が保守派判事を任命したからだ。ロシアでもウクライナ侵攻をロシア正教が熱心に支持している。このようにイスラム世界だけでなく、世界的に宗教が政治を動かす力が強まっている。日本だけは違うと思っている人が多いと思うが、実は日本でも宗教界右派の影響力が強いのである。

 神政連議員懇で一番有名な「事件」は、2000年5月15日の「神の国発言」である。調べると、結成30年記念祝賀会を兼ねていたようだが、森喜朗首相(当時)が「日本の国、まさに天皇を中心としている神の国であるぞということを国民の皆さんにしっかりと承知をして戴く」と述べて、国民主権に反すると批判されたのである。ウィキペディアには、前日に小渕恵三前首相が死亡して綿貫民輔会長が不在だったため森氏があいさつしたと出ている。いかにもウィキペディアらしく「天皇制そのものを否定する立場に立つ自治労や連合左派労組などの左翼団体、およびそれらの団体を支持母体とする民主党などから激しい反発が起きた」などと記述されているが、神政連を中心に右翼的政治を進めてきたことを自賛しているのは間違いない。

 今回は配布された冊子が差別だと批判されている。松岡宗嗣氏の記事から引用すると、「同性愛は心の中の問題であり、先天的なものではなく後天的な精神の障害、または依存症です」「(同性愛などは)回復治療や宗教的信仰によって変化する」「世界には同性愛や性同一性障害から脱した多くの元LGBTの人たちがいる」「LGBTの自殺率が高いのは、社会の差別が原因ではなく、LGBTの人自身の悩みが自殺につながる」「性的少数者のライフスタイルが正当化されるべきでないのは、家庭と社会を崩壊させる社会問題だから」などの、現在では科学的に全く否定されている言辞が連続している。
(楊尚眞「同性愛と同性婚の真相」)
 その時に配布されたのは、弘前学院大学の楊尚眞氏の「同性愛と同性婚の真相を知る」という講演録らしいという。その冊子は見つからないが、同じ楊尚眞氏による「同性愛と同性婚の真相」という本をAmazonで売っていた。22世紀アートという出版社から、214頁のペーパーブックと電子書籍が出ている。著者の楊尚眞(ヤン・サンジン)氏は米ニューヨーク州立大学バッファロー校を卒業した後、シカゴ神学大学院牧会学専攻牧会学博士課程を修了、引き続きシカゴ神学大学院キリスト教教育学専攻哲学博士課程修了となっている。その後、在日大韓キリスト教会(東京教会伝道師・副牧師、京都南部教会担任牧師)、米国長老教会(シカゴ中部韓国人教会教育牧師、シカゴミッドウエスト長老教会教育牧師)と弘前学院大学のホームページに出ている。

 著者は在日韓国人のキリスト教神学者と思われ、「神道政治連盟」とは相反する宗教的立場に思われる。しかし、自民党右派は昔は統一協会系の勝共連合と深い関係を持っていた過去がある。韓国系キリスト教とはなじみがあるのかもしれない。今回あまり大きな問題になっていないのは、要するに外部の「学者」の冊子が配布されただけだからだろう。政治家のもとには、いろんなパンフや本が送られてくるだろうが、大部分は読まれないだろう。この著者の考え方に同意した発言があったというわけでもない。
(神政連レポート「夫婦別姓問題を考える」)
 しかし検索したら、神政連レポート「夫婦別姓問題を考える」の画像が出て来た。つまり、神政連の懇談会に行くと「お土産」があるわけである。それは読まないかもしれないが、何か事あれば手に取って「教科書」にする可能性はある。これだけ有力政治家が入っている会だから、そこで配布された文書に則っていれば党内では問題にならないと考える議員もいるだろう。それに、こんな本を配布する人々に自民党の大部分が取り込まれているという事態は恐ろしい。今どき「同性愛は依存症」などと書いてあるものを配るなど、日本はチェチェンかという感じ。内容の荒唐無稽性はここで詳しく解説するまでもないだろう。
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