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絵本の話を中心に、好きなもの、想うことなど。

パウラ・モーダーゾーン=ベッカー展@葉山

2006-03-06 16:23:14 | 好きなもの・美術館や展覧会

 きれいに晴れた気持ちのよい日曜日。
逗子にある神奈川県立近代美術館 葉山 を初めて訪れました。
 パウラ・モーダーゾーン=ベッカーという女流画家の絵を観るためです。

 パウラ・モーダーゾーン=ベッカー(1876年生・1907年没)。
 19世紀から20世紀に時代が変わる頃、ちょうど今から100年くらい前の、
ドイツの女性画家の名前を、つい最近までまったく知りませんでした。
偶然開いた「芸術新潮」。そこで紹介されていた彼女の作品と、略歴、その両方に、
私は強く惹きつけられました。

 まっすぐに、ただまっすぐにこちらを向いている自画像が、何点かありました。絵の中の人は、
ずっと前を向いています。それは、描いている時に、作家自身がモデルである自分自身を常に
見つめ続けているということで・・絵を描くのだから、その対象を凝視するのはあたりまえの作業とも言えますが・・
でも、絵筆を動かす彼女が「ほんとに見ていたもの」は、自分の顔かたちではなく、自分の内なるもの、
自分の心の底だったにちがいないと、そう私は感じました。
 最初の子どもを出産したのち、彼女はわずか3週間で塞栓症のため亡くなっています。31歳の若さでです。


 美術館の中で観る作品は、どれも私の期待以上のものでした。始めに思っていたほど、
自画像はそう多くはありませんでしたが、それを忘れるくらい、子どもを描いたもの、静物を描いたもの、
人物画、デッサン、エッチング・・見ごたえがありました。

 一通り、観終わった後、今度は彼女自身の顔が描かれているものだけを、ひろって観ていきました。
 20歳の頃、20歳半ばの頃、初めてパリを訪れた時のものなど。とても美しく才能溢れた画家が、
正面を見据え、あるいはちょっと上向き加減で、開かれた風景と、深い心の内の両方向を見ていました。
 ただ、最後に描かれた自画像だけが、目も鼻も口も、すべてが淡く、「もうそこにないかのように」描かれていることが、
胸を打ちました。1905年頃の作品、『琥珀の首飾りの自画像』(展覧会の扉に使われている絵です)は、
薄く紅い唇と、健康そうな頬の色、それと大きな瞳に、とても意思的なものが感じられただけに、
そのわずか2年後の自画像が、「淡いもの」になっていて・・・人は、もしかしたら自分が旅立つ時が、
その人自身にだけわかるのだろうかと、思わずにはいられません。


 美術館の庭に出ると、湘南の穏やかな海が見渡せます。
とんびがくるくる舞っているのを見たり、砂浜へ下りていって、波に洗われた貝のかけらや石を探したり。
波打ち際で娘と遊びながら、海のことと絵のこと、彼女はどっちを「今日」として、覚えているかなあと、思っていました。




コメント (4)
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