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絵本の話を中心に、好きなもの、想うことなど。

空飛び猫のものがたり

2006-03-29 15:32:21 | 好きな本
 2月22日の猫の日に、これから読みたいと思う本として挙げた2冊のうちの1冊、
 『空飛び猫』 を読みました。この本はシリーズになっていて、続編の『帰ってきた
空飛び猫』
、 『素晴らしいアレキサンダーと、空飛び猫たち』、 『空を駆けるジェーン』 とあり、
もちろん4冊とも全部読みました。

 シリーズものは、時として、1作だけでやめておいたほうがよかったかも、とか、
最初はおもしろかったけど、2作目以降はただの「続編」だった、と思うようなものもありますが、
この『空飛び猫』に関して言うと、読み進めるうちに、加速度的におもしろくなるシリーズだと、
私は思いました。まるでジェット機に乗って、陸地からどんどん離れていくような、そんな感じです。

 訳者の村上春樹氏は、ある時親切な読者の方が、「村上さん、こういうのお好きじゃ
ないですか?」と教えてくれたことで、この本の存在を知ったそうです。そして、表紙の絵を
見ただけで、即、翻訳することを決めたとも・・。猫好きでなくたって、アーシェラ・K ル=グウィン
さんの作品で、おまけに翼を持っている猫の話だったら、読んでみたくなる(訳してみたくなる)
にちがいないですよね。

 セルマ、ロジャー、ハリエット、ジェームズの4匹は、大都会の横丁のゴミ捨て場
(移動できるコンテナ型の大きなごみ箱のこと)で、生まれ育ちました。4匹のお母さんは、
普通の猫で、背中に翼はついていません。なぜ、4匹の子猫たちにだけ翼がついている
のでしょうか?お母さん猫は、もちろん不思議には思っていましたが、それよりも、毎日の
ことで精一杯(4匹のお腹をいっぱいにしてあげることや4匹を危険から守ること)でした。
 でも、ある日、翼を持った猫たちが暮らすには、住み慣れた大都会は危険すぎると
判断し、お母さん猫は4匹と別れることに決め、4匹もお母さんの考えに賛成します。
 子猫時代から、旅立ち、旅での苦労を経て、やっと安心できる場所へ辿りつくまでが、
『空飛び猫』のお話です。

 『帰ってきた空飛び猫』では、お母さんのことが心配になり、故郷である大都会へ
「帰省」する話が綴られています。4匹ともお母さんに会いたい気持ちにかわりはありませんが、
旅は危険過ぎるという慎重派と、「ちょっと飛んでいけばいいじゃない」という楽天派に
分かれるところが、おもしろいなあと思います。
 楽天派の旅も、決して「楽」なものではありませんでしたが、お母さんとも再会することが
できた上に、自分たちに、もう一人妹がいることがわかります。

 3作目、4作目は、この妹猫=ジェーン(彼女はお母さんと同じ名です)が、お話の中心となり、
翼を持った風変わりな猫たちのファンタジーという側面に、ジェーンが一人前の猫となっていく
成長ぶりが加わり、作品に厚みが増してくるように思います。
 幼い頃の体験によって、一時言葉を失っていたジェーンが、アレキサンダーのおかげで
(3作目に初登場する、普通の猫)言葉を取り戻し、さらには、兄弟姉妹と過ごす田舎での
生活に飽き、自分の意思で別の世界を求めて「飛び出して」行くところまでくると、このお話は、
私やあなたや、あなたのお友達の誰かの話なのではないかと思えてきます。ジェーンは
姿かたちは、翼を持った「特別な」猫ですが、大人になるすこし前の、「普通の」女の子でも
あるのです。

 もしも、『空飛び猫』に興味を持たれて、読んでみようとお思いなら、4作目まで全部読むことを
強くお勧めします。そして、いつの日か5作目が上梓され、ジェーンのさらなる活躍が
見られるように、一緒に願いましょう。

空を駆けるジェーン―空飛び猫物語
『空を駆けるジェーン』

原題は『JANE ON HER OWN』







 
最後に、訳者村上春樹氏の言葉を『帰ってきた空飛び猫』のあとがきから引用します。

 この本はもちろんファンタジーです。そしてファンタジーというものはとても
個人的なものなのです。それはあなた一人に向かって開いたり閉じたりする窓なのです。
コメント (4)
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