豆豆先生の研究室

ぼくの気ままなnostalgic journeyです。

モーム「赤毛」ーー行方昭夫「英文精読術 Red」

2024年04月24日 | サマセット・モーム
 
 久しぶりのサマセット・モームの話題である。何年ぶりの書込みだろうか。
 行方昭夫「英文精読術ーーRed」(DHC、2015年)を読んでいる。これも買ったまま放置してあったのだが、気がついてみれば刊行から10年近く経っていた。

 モームの「南洋もの」の代表作の一つであり、モームの全短編の中でも「雨」と並んで代表的な作品だろう。ぼくが「赤毛」を最初に読んだのは、おそらく予備生だった昭和43年だったと思う。駿台予備校の奥井潔先生のテキストに「赤毛」の一部が抄録されていた。
 「かつて誰かが恋をした場所には、何年たってもその恋の残り香が感じられるものである」といった趣旨の文章がなぜか強く心に残っている。予備校のあった四ツ谷駅周辺の線路沿いの土手や、迎賓館前の歩道、若葉町公園の木陰のベンチなどには、もし訪れることがあれば、きっとモームのいう恋の残り香が感じられるだろう。ほかの人はどうか知らないが、ぼくは感じるだろう。
 原文では “fragrance of a beautiful passion” となっていた。辞書的には「芳しい香り」なのだろうが、ぼくの場合は「香り」というよりは「霊気」とでもいったほうがふさわしい。

 予備校時代のモームの思い出は以前にも書き込んだ。その後、神保町の小川図書の店頭でハイネマン版のモーム全集を見つけて、「赤毛」“Red” の入った “The Trembling of a Leaf” 「木の葉のそよぎ」1冊だけを買ったこともすでに書いたとおりである。  
 ただし、この文章を奥井先生の授業で読んだのか、奥井先生に触発されて読んだ中野好夫訳の新潮文庫版「雨・赤毛」で読んだのかは、今となっては思い出せない(手元にある新潮文庫は昭和44年の第15刷だった)。奥井先生が英文読解の授業で伝えたかったテーマは愛、友情、嫉妬、若さ、老いなど「人生」というか「人の生き方」だったと今にして思うから、この個所もテキストに選ばれていたような気がする。
 いずれにしても、この文章だけは50年以上経った今でも鮮明に覚えている。   
        
       
 
 今読んでいる行方(「なめかた」とお読みするらしい)「英文精読術」でも、ようやくこの個所に到達した(96頁~)。
 正直なところ、「赤毛」のここまでの導入部分をこれほどまでに「精読」する必要があるか、ぼくには疑問である。ぼくが一人で読むなら、ここまででは、舞台となる南洋の孤島の風景と、聞き手の船長が太った粗野であまり教養のない人物で、これからのストーリーの語り手となる痩せたスウェーデン人が何か曰くありげな過去を持つ人物であるという人物像が読み取れれば十分だと思うのだが。
 しかも、ここまで読んできたところで、「赤毛」の結末の「落ち」を何となく思い出してしまった。
 中野好夫の解説によると、モームはモーパッサンこそ最大の短編作家であり、面白い話(ストリ・テリング)は警抜な「落ち」を伴わなければならないと考えており、「雨」と「赤毛」はそのモームの短編の中でも最上のものだというから、その「落ち」を思い出してしまってはやや興ざめである(新潮文庫151頁~)。
 よくネット上の投稿で「ネタバレあり」という警告を目にするが、ぼくはそんなことを気にしたことはなかった。しかし何年振りかで読み始めたモーム「赤毛」の結末を思い出してしまっては、小説を読む推進力ががたっと落ちてしまった感は否めない。仕方ないから、ここから先は小説を読む楽しさではなく、行方先生の精読術と薀蓄にお付き合いしながら読むことにしよう。このシリーズには、まだ「物知り博士」と「大佐の奥方」の2冊が待っているのだから。
 ちなみに、わが国で最初のモームの翻訳が出版されたのは、この解説によれば中野好夫訳で昭和15年に出版された「雨」だったという。

   

 ついでに、新潮文庫版「雨・赤毛ーーモーム短編集Ⅰ」の裏表紙に載ったモーム作品一覧と、「凧・冬の船旅」(英宝社、昭和28年)の巻末に載っていた「サマセット・モーム傑作選」の一覧をアップしておく(上の写真)。後者のうち3巻から5巻は、その後日本ではなぜか出版されることがなくなってしまった 「環境の生き物」“Creatures of Circumstances” の全訳である(1、2巻は「カジュアリーナ・トリ―」の翻訳で、こっちは新潮文庫、ちくま文庫で出ている)。

 2024年4月24日 記
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