雨、24度、94%
主人とふらりと入ったお鮨屋さんがあります。間口は狭く暖簾をくぐると長い鮨ネタケースのカウンター、2階にはお座敷もあるようですがカウンター席を選びました。つけ場に立つのは細身のおじいさん。「いらっしゃいませ。」の挨拶はないものの無愛想ではありません。先客の鮨を握っています。女将さんと思われる小太りの女性も無駄口がなく嫌な雰囲気ではありません。飲み物を注文して主人が煙草に立ちました。
つけ場のおじいさんの背後には絵の額と字の額が一つずつ掛かっています。絵の方は最近よく見る単純な図柄、色の具合からしても「熊谷守一」のものだと思われます。つけ場のご主人に尋ねると私の思いは当たりました。「茄子かしら?」「いえ、ホタルブクロです。」茄子と間違う自分に声を立てて笑いました。席に戻った主人に「熊谷守一の絵よ。」
博多のお鮨は寿司割烹というスタイルがあります。割烹数品の最後の締めがお鮨です。西中洲の「河庄」という老舗のお鮨屋さんから始まった寿司割烹だそうです。我が家は割烹スタイルではなく好きなものを注文しました。突き出しの 「アゴの煮こごり」最近こういうものがとても美味しいと思います。しかも数口でお終い、突き出しの良さです。続いてお刺身を盛り合わせてもらいました。
厚めに切られたヒラメ、中とろ、さすが博多のイカです。青物のアジに続いて、
私の好物も。一つ一つが美味しいと感じます。
ご主人の背後には屋号の「なか庄」と書かれた額があります。書いた人の毫の墨がかすれて見辛かったのですが、「九十六才守一」と書かれています。ご主人に伺うと「亡くなる前に書いていただいた。」のだとか。 店の飾りは他には一切なく「熊谷守一」の額が2つだけです。
お刺身の後にお任せの握り14貫を頼んで主人と分けました。今風なお刺身でもお寿司でもありません。小さい頃、西中洲の「河庄」で食べた味に通じます。「河庄」で働いていた方たちは暖簾分けの際、「庄」の字を貰うと聞きます。この「なか庄」もその流れを組む店でした。
長い鮨ネタのケースには昔ながらのカズラの葉が添えられています。殺菌作用、縁起を担ぐ葉っぱです。「コースのお寿司しかお出ししません。」という鮨屋が多くあるのに帰国してびっくりしました。お任せで鮨ネタケースから好きなものを握って貰う、そんなお鮨屋さんが好きです。数組のお客さんもいましたが、私には静かな鮨屋の空間でした。