曇り、28度、79%
以前はよく玄関に「日本赤十字特別社員」の下に苗字のある表札を見かけました。今だにその「日本赤十字特別社員」がどんなものか知りませんが、一軒家は兎も角、集合住宅では表札がかかっているところが少なくなったように思います。名前を覚えられて事件に巻き込まれたりしない為の用心にフルネームの表札は見られなくなりました。
香港では全く表札を見ません。大邸宅が並ぶところでも、小さな集合住宅でもあるのは所番地だけ。集合住宅のずらっと並ぶ郵便受けにも部屋番号だけ。そんなこととは知らず、30年前の我が家の引っ越しの荷物の中には表札が入っていました。結局この表札を香港の移り住んだ家にかけることはないままです。しかも、今では息子は自分の家庭を持っています。
我が家には神棚ではありませんが、毎日お水を上げる場所があります。食器棚の上です。家のお守りと一緒にこの表札は食器棚の上に置かれています。日本にいた頃住んでいた家はあるお宅の離れでした。大家さんと出入りの門は一緒、門柱には大家さんのポストがあります。我が家のポストはその横に建てられた白いペンキ塗りのポストでした。郵便屋さんが困らないようにと作ってもらった表札です。苗字だけ、主人の名前だけ、色々考えましたが家族三人の名前を入れてもらいました。玄関のドアとポストに2枚作ってもらったのに、手元に残っているのはこの1枚だけです。
時々この表札を手に取って、この表札がかかっていた時代の生活を振り返ります。山のように夢がありました。頗る元気でした。そして、何にも世の中のことを知りませんでした。思い出しただけで、急に元気になります。身体の中から力が湧いて来ます。主人と一杯けんかもしました。花火をしていてシュロの木に火が移り大騒ぎしたこともありました、猫が子供を産みました。犬は多摩川を泳いでいました。夏には伊豆にキャンプに行きました。アルバムではありません。一枚の表札が思い出を呼び起こしてくれます。
もうかけることのない表札です。息子夫婦が心の中にこんな表札を持って生活してくれるようにと思います。