晴れ、28度、80%
庭の一角にハーブばかり植えている場所があります。ハーブが好きですというと、アロマセラピーに詳しいかと思われがちですが、全く無知です。単に食べるため。ハーブはもともと雑草だと思っています。雑草ですから簡単に栽培できるはずです。香港での30年、種の入手も難しかった時代から毎夏育ったのは、バジルだけでした。出窓で植木鉢やプランターで育てる無理もありますが、一番はあの高温多湿な香港の気候です。やや大きく育ったローズマリーの苗ですらうどん粉のような虫がついて枯れます。月桂樹はアブラムシがつきました。タイムに至っては食料品やさんで売っているポット入りの苗が一度も根付いたことがありません。タイムもしばしば料理に登場しますが、タイムの花が見たかった。
我が家の庭のハーブの一角は、春先に種で植えたバジルやシソ以外は苗で買って来ました。タイムやセルフィーユの苗はなかなかありませんでした。見つけると少々高くても買いました。香港時代の記憶があります、枯れるかもしれないとの心配が先立ちます。ところが、順調に根付くどころかタイムは地面を這う種類だったので、ハーブの一角の4分の1の地面を覆うまで育ちました。
実際にタイムの花を見たことはありません。タイムを育てている方も知りません。たったひとつこの刺繍がタイムの花への憧れの元です。 30年近く前に刺したものです。作者はデンマークのゲルダベングトソン、デンマークの刺繍の世界では有名な植物を刺した方です。ひと針ひと針進めながら、デンマークの野に咲くタイムを思い浮かべます。おそらく風が吹けばその香りも風に乗って届くことでしょう。タイムが育てたかったのは、食い気よりもこの花見たさでした。
七月に入るとタイムに小さな白い花がつきました。花姿が思い描いていたものとは違います。ところがひと月、スクッと立ち上がったその先には、見たかったタイムの花が開きました。色は白です。焦がれて焦がれたタイムの花にやっと会うことができました。ハーブはやはり雑草です。花はどれも小さく、目立つものではありません。
セルフィーユやイタリアンパセリ、コリアンダーは苗で買って来てもすぐに花を咲かせ種をつけてしまいます。種を取って、九月に入れば秋蒔きにします。地面に下ろしたハーブたちは生命力がポットで育てるのとは違うことを知らされました。少しずつですが、私の欲しかった庭ができ始めています。連日の猛暑にもか細い植物は負けません。植物の強さに毎日元気をもらいます。