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香港島セントラルに老舗の広東料理のレストランがあります。「記」です。有名な料理はガチョウのロースト。この香港で、しかもセントラルに自社のビルを持つ創業70年の店と聞いています。道に面したドアを開けると、広東語のやかましい位の話し声、フロアー一杯のテーブルにお客がいつも一杯の店でした。ここ数年、地元の人たちはこの「記」の相続を巡るお家騒動、裁判沙汰にまでなったのを新聞で愉しんでいたと思います。
昨日、主人が久しぶりに「記」に行こうと言います。我が家から歩いて10数分。ドアを開けると、いつもと雰囲気が全く違います。広々としたフロアーにゆったりと置かれたテーブル、ザワザワとした雰囲気は何処へやら、観光客らしい人も見当たりません。落ち着いた静かなレストランになっていました。
私、ここのガチョウのロースト、鶏のロースト、ブタのローストも大好きです。ところが白状します、ほかのお料理を一度も美味しいと思ったことがありませんでした。純粋な広東料理ですが、盛りつけにしても、味にしても何故この店がそんなに有名か分かりませんでした。昨日だって、まあガチョウのローストと赤ワインが頂けるぐらいのつもりで出かけました。
まずは、有名なガチョウのロースト。 脂身の具合も程よく、五香の香りが肉の奥深くから立ち上って来ます。火の通り加減もほどほどです。流石と深く頷きながら頂きます。このローストの下には、葡萄豆、大豆を甘く煮た物が敷かれているのもこの店の特徴です。
次なるお皿は、 海老を貝柱や干しえび風味で炒めたもの。この海老の火の入り方、野菜のシャキシャキとした歯ごたえ、野菜の切り方、全てにまたしても唸ります。
次はお豆腐の一皿。 一番柔らかなお豆腐、軟豆腐を揚げてフクロタケと炒めにしたものです。家常豆腐と広東料理では呼ばれる、お豆腐の一般的な料理ですが、メリハリがあるもののきつくない味付けに驚きます。
最後は、酢豚ならぬ酢鶏です。 酢豚は広東料理が発祥と聞いています。早くから西欧と交渉のあった広東、ケチャップやクリーム、レモンを使った中華料理は広東料理ならではの物です。大きく切った生のパイナップルの酸味が程よく、あんかけというより、軽くあんを絡ませた仕上がりです。鶏の胸肉んを包んだ衣が噛みしめると微かに甘みを残します。
赤ワインとゆっくりと全て平らげた私、実に久しぶりに美味しい関東料理を食べたと思いました。近頃何処もかしこもフュージョン料理が流行っています。まだ香港に来た当初は、ザワザワとうるさい大きな中華レストランで広東料理を堪能しました。大きなレストランは次第に姿を消して、北京ダックもあればショウロンポもあるような中華レストランが今では一杯です。ミッシュランの星が輝く中華レストランは油を抑えて、いいお味を出しています。この「記」の味もそんなふうに変化して来ています。
広東料理のローストを作る人と料理を作る人とは別々です。おそらく、「記」は料理人を変え、店の雰囲気まで変えようとしているのだと思います。有名な中華レストランが随分店を締めました。それでも生き残るために、こうして店のコンセプトを大きく変える並大抵のことではないと思います。2年ほどの間に落ち着いたレストランになっていました。
相変わらず私は食べる専門です。お支払いの時になって主人が、お味全てがお値段に反映しているよ、といいます。お値段が上げれば、団体の観光客も来なくなります。どちらを取るかはお店の選択です。こんな近くに美味しい広東料理があること、昨晩の改めての発見です。
「記」香港セントラル地下鉄を出てすぐ、山向きに2本上がった道沿いです。どなたに聞いても知っている有名店です。香港におみえになったら、是非、ここの広東料理をお勧めします。