気ままに

大船での気ままな生活日誌

黄色い帽子

2006-11-15 09:38:41 | Weblog
風の強い日でした。私は円覚寺の松嶺院の横の道から八雲神社を経て、横須賀線沿いを小坂小学校方面に歩いていました。ふと、右側の壁に黄色い何かが引掛っているのに気づきました。よくみると、小学生用の黄色い帽子でした。

歩いているとき、今日の風で吹き飛ばされたのでしょうか、でも小学生でも簡単にとれる位置に引掛っています。すると、すぐ傍を通る横須賀線の電車の窓から飛んできたのでしょう。

帽子を亡くした小学生の顔が浮かびます。制帽をかぶってこなかったと、学校の先生に怒られただろうか、廊下にたたされただろうか、いや、今そんな罰を与えたら、自分のお金で買った帽子をなくしてだけで、罰するのはけしからん,とPTAに怒られるからしないだろう、今は、給食費払っているのに、食事前にいただきます、というのはおかしいというくらいだから。

家に帰ってお母さんに怒られただろうか、ヒステリーのお母さんだったらかわいそう、マンションのクロークルームに閉じこめられたろうか、それとも夕飯抜きだっただろうか。子育て上手なお母さんならいいけど、いいのよ、帽子くらい、毎日なくしてもいいわよ、今度は、あなたのすきな色の緑の帽子を買ってあげようね、いいこ、いいこ、って。

その帽子を、北鎌倉駅前の交番に落とし物として届けようと思いましたが、お巡りさんにけげんな顔をされそうなので、止めました。(交番前から抜ける路地もなかなかいいですよ)。帽子の写真だけデジカメで撮って(最近何でも撮っちゃうのです)、その場を立ち去りました。ふと、西条八十の詩を思い出しました。人間の証明で有名になりましたね。母さん、僕のあの帽子、どうしたでせうね、という詩です。その一節しか覚えていませんが、全文を知りたくなり、帰ってから、調べてみました。紹介しますね。いい詩ですね。

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「麦藁帽子」     西条八十

母さん、僕のあの帽子、どうしたでせうね?
ええ、夏碓井から霧積へ行くみちで、(ええ、大船から北鎌倉へ行く電車で、)
渓谷へ落としたあの麦稈帽子ですよ。(土手の壁へ落としたあの黄色い帽子ですよ)

母さん、あれは好きな帽子でしたよ。 
僕はあのとき、ずいぶんくやしかった。 
だけど、いきなり風が吹いてきたもんだから。

母さん、あのとき、向うから若い薬売が来ましたっけね。 (散歩人です)
紺の脚絆に手甲をした---。
そして拾はうとしてずいぶん骨折ってくれましたっけね。(写真だけ撮りました)
だけどとうとう駄目だった。
なにしろ深い渓谷で、それに草が
背丈ぐらい伸びていたんてすもの。

母さん、ほんとにあの帽子どうなったでせう?
そのとき旁で咲いていた車百合の花は、
もう枯れちゃったでせうね、
そして、秋には、灰色の霧があの丘をこめ、
あの帽子の下で毎晩きりぎりすが啼いたかもしれませんよ。

母さん、そしてきっといまごろは
今晩あたりは、あの谷間に、
静かに霧が降りつもっているでせう。
昔、つやつや光ったあの伊太利麦の帽子と
その裏にぼくが書いたY・Sといふ頭文字を埋めるやうに、
静かに寂しく。

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コメント
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