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【cinema】『君の涙ドナウに流れ ハンガリー1956』(試写会)

2007-11-16 00:57:12 | cinema
'07.11.13 『君の涙ドナウに流れ ハンガリー1956』@サイエンス・ホール(試写会)

「1956年ハンガリー。オリンピックを目指す水球選手のカルチは、ある日大学の集会で自由を叫ぶ女子学生ヴィキと出会う。彼女と恋に落ちたカルチは自由化への戦いに身を投じていくが・・・」という話。これまたズッシリ重い。

当時のハンガリーは旧ソ連(現ロシア)の事実上、統治下にあった。映画はカルチ達水球チームのソ連チームとの試合から始まる。この試合がまるで茶番で、当時の両国の関係や、ソ連の世界における位置をあらわしている。超大国ソ連は何をしてもおかまいなしというわけだ。カルチ達はそういう現状にイラ立ちや怒りを感じている。でも、やはりオリンピック候補選手として優遇されている部分もあり甘い感じがする。カルチはソ連選手といざこざを起こし、政府の役人から呼び出しを受ける。その時、かい間見た政治犯達への拷問や、感じた恐怖。そして優遇されているがゆえの苦しい立場を思い知らされる。そんな時ヴィキと出会った。

ヴィキは警察(多分ソ連でいうKGBみたいな存在)に両親を殺された。人一倍、社会主義とソ連を憎んでいる。女性でありながら戦士のようだ。こういう話は過激な人物が登場しそのカリスマ性で皆を扇動するという形で描くと分かりやすいけど、ヴィキにはあまりカリスマ性を感じなかったかも・・・。それは主演女優のカタ・ドボーに華がないから? そもそも、過激なことばかり主張して、異論を唱える人たちを意気地がないように言うような人物はあまり好きではない。そうやって人を追い込んで、結局参加せざるを得ない状況にした挙句、死に追いやる権利があるのか? と思うから。何かを変えようと行動(例えそれが戦闘であっても)する人達の勇気は素晴らしいと思うし、何もしないで優遇された状態でぬくぬくしている水球チームのメンバーにイラ立ちはするけれど、やっぱり共感はできない。カルチの行動にしても、最初は彼女への興味からだっただろうし・・・。なのでカルチとヴィキの思考や目的などが一つになるまでは、あまり誰にも感情移入ができず、お酒が入っていたこともあり眠くなってしまった・・・。

カルチ達や市民はナジ・イムレという人物を首相にすることを望み、彼に自由化への願いを託した。彼らが議事堂前の広場に集まり、明かり落とされたため、手にしていた紙などに火を灯すシーンは美しい。ただ、こういう美しいシーンや微笑ましいシーンの直後に急に銃弾が打ち込まれたり、装甲車が街を蹂躙したりする。その転回が早くてついて行けない。悲劇的になことは分かるし、対比としているのも分かるんだけど、あまりに唐突なので呆気にとられてしまう。でも、実際その場にいたらそんな感じなのかもしれない。日々、ソ連兵や警察の恐怖に晒されていたとしても、幸せなひと時はあっただろうし、そんな時に突然襲われれば呆然とするだろう。その感じを体験できているのならすごいのかも。そんな風に呆気に取られている内、ナジ・イムレが首相になり、ソ連が引き上げた時にはあまりにあっけなく、こんなものなのか?と思ったりした。

でも、本当にこの映画が語りたかったことは、この後だった。この後、ハンガリーに起こる悲劇と、カルチも参加したメルボルン・オリンピックの水球の試合の対比がスゴイ。「メルボルンの流血戦」と呼ばれるソ連との準決勝シーンと、祖国が必死に抗う姿が重なる。試合前は亡命することばかり語っていた選手達も、祖国のために闘う。ヴィキはヴィキなりの、カルチはカルチなりの闘い方で、祖国のためにソ連と闘うのだ。気がついたら涙が止まらなくなっていた。正義感は強かったけれど少年っぽく甘さのあったカルチが一人前の男になった瞬間、ヴィキが気高く自分の信念を貫いた瞬間。それぞれが悲しく美しい。

以前、ハンガリーを旅した時、ハンガリーの人達は親日家だと聞いた。その理由は日本が日露戦争でロシアを破ったから。正直、何故そんな昔の事を?と、その時は思ったけどよく分かった。

エンドクレジットに一遍の詩が映し出される。「自由に生まれた者には分かるまい」という言葉が胸に突き刺さって涙が止まらなかった。自由とはどんなにありがたく、得がたいものなのか・・・。この自由は傍若無人に振舞うということではない。ただ何者に脅かされることもなく生きるということ。自分の意思で生きるということ。この詩を見ずに席を立った人には分かるまい。責める気は一切ない。でも、この映画が言いたいことは、まさにここなのだと思う。


『君の涙ドナウに流れ ハンガリー1956』

コメント (4)
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