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【cinema】『クライマーズ・ハイ』(試写会)

2008-07-04 01:40:16 | cinema
'08.06.25『クライマーズ・ハイ』(試写会)@一ツ橋ホール

Mッスが当選! おこぼれにあずかって行ってきた。

「1985年8月12日群馬県御巣鷹山の山中に乗客乗員524人を乗せた日航機が墜落した。北関東新聞社の遊軍記者悠木はこの世界最大の航空機事故の全権デスクに任命されるが…」という話。『半落ち』の横山秀夫原作の映画化。原作は未読だけど、何年か前にNHKでドラマ化された時前編だけ見た。何故か後編は見忘れた。これはなかなかおもしろかった。

遊軍記者で全権デスクというのはどういう立場なのかがイマヒトツ分からないのだけど、多分普段は部署に属さない記者なのだと思う。自由な半面おそらく出世コースからははずれている。全権デスクっていうのはその事件に関しての記事、写真のレイアウトなど編集の決定権を持ち、全責任を負うことなんだと思われる。悠木は以前大きな事件を扱い(この事件がよく分からなかった)社の伝説となった3人の上司達と共に事件を追っていたようだ。この辺りもちょとよく分からない。全体に皆早口だしほとんど怒鳴っているか囁いている(笑) 試写会場の音響のせいもあるのか聞き取りにくかった。小声で早口だとほとんど聞こえなかった(涙)

悠木が親友安西との登山に向かうため社を出ようとした時、日航機がレーダーから消えたというニュースが飛び込んでくる。一気に色めき立つ社内。被害者のことを思えば本当に不謹慎だけど、こういうシーンはやっぱりゾクゾクする。みなが一斉に戦闘モードに入る感じ。こういう瞬間って別に大スクープを狙う新聞記者達じゃなくたって経験あるはず。例えば決算処理が終わらなくて総掛かりでやる感じとか。その時は夢中でハイになっていて感覚がマヒして疲れとか、終わらないかもしれない恐怖とか、考えているヒマもない。タイトルの『クライマーズ・ハイ』とは、登山中にまさにそんな状態になることを言うらしい。

北関東新聞は群馬県の地方新聞。隣の長野に墜落したのと、地元に墜落したのとでは読者の関心が違う。墜落現場が群馬であるよう祈ったりと、正直524人の命をなんだと思っているのかと思うシーンも多々ある。若い記者が決死の覚悟で取ってきた記事を、悠木の足を引っ張りたいだけのために締め切り時間を伝えなったり。そんな場合か!と思ったりもする。でも、これは事故そのものを伝える作品ではなく、記者達が何を思い伝えたかったのかを描く映画。それに社会人になってしばらくすれば、自分のやりたいことと、やるべきことが必ずしも一致しないことは分かる。だから自分が夢中になれる仕事に色めき立つ気持ちは分かる。ただ、それが多数の犠牲者の出た事故なので複雑ではあるけれど… 墜落のニュースから悠木が全権デスクに任命され、記者達が一斉に動き出す。自ら志願して現場へ向かった佐山達から連絡が入るまでの流れは、スピード感があってぐいぐい引き込まれた。

原作は未読なので、どこまで忠実なのか分からないけど、映画としてはちょっといろんなエピソードを盛り込み過ぎな気がした。例えば、元社長秘書のセクハラの件とか… 親友安西が過労で倒れた理由や、社長の横暴ぶりも他のシーンだけで十分伝わる。そのわり安西が結局どうなったのかは伝わりにくい。そういう、あの人はなんだったの?とか結局どうなったの?というのが意外に多い。見ている側に判断を委ねるっていうのはありだと思うけど、それが有効なのは1回じゃないかな…

小説だと画を見せられない代わりに説明的な部分も必要になるし、単調にならないように場面転回も必要だと思う。ただ映画だと時間の経過って意外に伝わりにくい。夜がきて、朝になってはいるけど、何日たったのかって意識してなかったりする。だから、緊迫した状態が続く中、責任者の悠木が安西のお見舞はともかく、元社長秘書に会いに行き告白されているのは…。緩急ということなのかもしれないけど、そのわり安西はその後ほったらかしだし。

緩急ということであれば、現在の悠木が安西の息子と、あの日安西と登るはずだった山に登ってる映像が度々入る。その風景が美しい。2人が山に登る感じと、記者達の盛り上がりがリンクしていていい。山の映像がスゴイ。日本の山とは思えない迫力。その美しい山と事故現場の悲惨さの対比。現場の惨状を映像で見せるのではなく、佐山の記事で伝えるのもいいと思う。あまりにむごい現状を自身の中に沸き上がった怒りや悲しみをぶつけた記事が胸を打つ。

おそらく描きたいのは記者や編集部員達の濃密な人間関係と、あの日原作者自身が体験した感情。当時、横山氏は記者としてあの現場を取材したのだそう。だから、この映画の主人公は悠木だけど、作者の目線は多分佐山にあるのだと思う。この2人の関係が山を登っている2人にリンクしている。嫉妬から足の引っ張り合いをする男くさい感じがやや辛いけど、そんなぶつかり合いから昔の熱さを思い出し、手を結ぶ感じは面白い。上司3人の扱いはおもしろい。

役者達はよかった。悠木役は堤真一。確かドラマでは佐藤浩市だった気がする。個人的には佐藤浩市の方が合っている気がするけど、強い正義感と内に秘めた熱さと、それを上手く表現できないために人と上手く付き合えない人物を好演していたと思う。

上司の1人部長の遠藤憲一がよかった。プライドが高く嫌なヤツかと思わせて、実は悠木が気になって仕方がない感じがよかった。それは嫉妬もあるけれど、もう一度悠木とという感情もあるのかもしれない。その感じが自分でも分かっていなかったけれど、酒席でのぶつかり合いで腑に落ちた気がする。背も高いしスタイルがいいので、気取った感じも合っている。同期の田口トモロヲも飄々としていていい(笑) 役者さんの名前が分からないのだけど、局長達にさらりと苦言を呈したりする亀嶋役の人も良かった。 あまりの惨状に精神のバランスを崩してしまう神沢役の人も熱演。彼と社長役の山崎努は少々やり過ぎな気がしないでもないけれど・・・。

でも、今回一番良かったのは佐山役の堺雅人。あの笑ってるみたいな形の目が、実は笑ってない感じが気になっていたけれど、本格的に演技しているところを見たのは実は初めて。この映画、誰が味方で誰が敵なのか分からない感じも見所なので、彼のあのいい意味で得体の知れない感じが合っている。もしかしたら佐山は悠木を裏切るのかもしれないという緊迫感が生まれる。実際どうなのかは書かずにおくけれど、かなり重要な人物であることは間違いない。現場を駆けずり回る姿もいいけれど、ボロボロになって送った情報が、ある手違いで朝刊に間に合わなかったと知り、悠木を睨みつける目が素晴らしい! ちょっとゾクゾクしました(笑)

事故から23年。奇跡的に救出された生存者の少女がマスコミで取り上げられたり、被害者の方が機内で必死で書かれた遺書など、あの事故は当時まだ子供だったけれど鮮明に覚えている。せいぜいポケベルしかなかった時代、記者達が足で取材し、何度も近くの民家で電話を借り社に情報を送って伝えていたのだと思うと、少年犯罪者の顔写真があっという間にネット上に上がる現代、言葉や映像の持つ意味も全然違ってきているように思う。しかし、あの事故当時、首相だった中曽根氏は靖国神社を公式参拝していたんだね。今だったら問題になったんじゃないだろうか・・・。そういう意味でもおおらかだったのかも。

事故を追っているシーンはすごく面白かった、前にも書いたけれど現在の登山シーンとリンクしているのもいい。それだけにラストがちょっと・・・。悠木親子のことは何度か挿入されているけれど、あまり詳しく語られていなかっただけに、あのシーンで終わるのは。その直前、見ている側に判断を委ねるシーンを入れておいて、さらにかぶせるのはどうだろうか・・・。

と文句が多いけれども、やっぱり男は真剣に仕事している姿が一番かっこいい!と思わせてくれる映画だった。


『クライマーズ・ハイ』Official site



今回、とんかつ和幸主催の試写会ということで、アンケートに答えると500円分のお食事券がもらえた! 素敵です


コメント (6)
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