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【cinema】『たみおのしあわせ』(試写会)

2008-07-13 23:16:24 | cinema
'08.07.09 『たみおのしあわせ』(試写会)@TOKYO FM HALL

baruが当選。おこぼれにあずかって行ってきた。

この日はラジオの公開録音も兼ねて、監督である岩松了氏のトークイベント付き。TOKYO FM HALLって、いわゆるイベントホールに椅子を並べてある感じなので、段差がなくてチビッコには辛い。baruが1時間前から並んでくれたので、開場ギリギリになってしまったけど最前列で見れた。映画を見るにはちょっと辛いけど、岩松監督のほぼ目の前で見れた。熊本課長よりかっこよかった(笑)

岩松監督が"しあわせコンシェルジュ"となって、リスナーのお悩みに答えるという、このラジオ番組は映画の公式サイトでリスナー登録すると聞くことが可能。ブログを持っていればブログパーツが設置できるらしい。podcastも配信中。今回の公開録音は7/20(日)25:00~ TOKYO FMにて放送予定。なので詳細は避けるけれど、いきなり1人目から重めの質問にへこむ姿がステキだった(笑)

では、本題へ。「地方の町で息子と2人、亡き妻の実家で暮らす神崎信男。仕事も恋愛もほどほど。社長の紹介で見合いした息子の結婚を成功させようと奮闘するが…」というのは実はあんまり上手な粗筋紹介ではない。確かにそうなんだけど、この映画の面白さは、実はストーリーそのものではなくて、父と息子の暮らしぶりや、何気ない会話にある。そのあたりは日本のチェーホフこと岩松氏ならでわかもしれない。

『たみおのしあわせ』となっているけど、主人公は多分父親の方。早くに妻を亡くしてから、妻の実家で2人暮らし。地方の町の会社に勤めながら出世も望まず、地道に生きているように見える。恋愛に関しては息子よりは積極的らしく、同じ会社の販売員宮地さんと公認の仲。以前にも販売員とお付き合いしていたらしい。この父親、信男がおかしい。といっても、特別おかしな人物ではない。いたって真面目な普通のおじさん。でも、何かおかしい。息子の留守に宮地さんを家に招いたはいいけれど、誰も吸わないはずのタバコの臭いや、台所のシンクが濡れていることが気になって、宮地さんをほったらかしにしてしまうシーンは最高! もちろん2人の仲がイマヒトツ進展しないのは、この日に限ったことではないし、根本は別にある。とにかく、息子がお見合い相手を連れて来るからと、掃除機をかけたり、お寿司を頼んだり、いそいそ待つのもかわいらしい。しかも、それが原田芳雄なのがいい。

民男は少しオタクっぽい男。年齢はよく分からないけど、父親があんなに心配するからには30代なのでしょう。こちらも特別変わってるわけではない。一度転職しているみたいだけど、会社にも行っているようだし、婚約者の趣味が囲碁だと知れば、マニュアル本を買って勉強したりもする。でも、少し物足りない気もする(笑) そしてものすごくダサイ。

登場人物たちはほぼ全員ヒトクセある人達。義弟の透(前述のタバコの臭いは伏線)、宮地さん、ご近所の老人達(これはスゴイ(笑))、会社の同僚、民男の婚約者の瞳もワケありな予感。ヒトクセあるけど、見せ方が上手いので悪趣味な感じにはなっていない。唯一、嫌なヤツと言える会社の同僚にしても、孤独な人物なんだろうなとか、多分、伸男の元カノことが好きだったんだろうなとか思えたりする。そういう伏線の張り方とか、セリフの行間を読ませるみたいなことがすごく上手い。役者達の演技もいいので、そういう感じが大袈裟にならずに絶妙な感じ。

とにかく親子の日常がいい! 民男が瞳からプロポーズされた時、全力疾走で帰ってきて父親に報告する。2人で大喜びするシーンのセリフが秀逸。その前のシーンで何でそんなに靴のことを気にするのかと思っていたけど、この場面で民男が「あんな走りやすい靴初めてだ!」と感動のあまり叫ぶと、それに対して反射的に「さっき見た!」と言う感じが最高! この時の原田芳雄の演技がスゴイ。後の焼肉屋さんでのケンカのセリフもいい。「何で自分の分しか傘持って来ないんだ!」とか(笑) とにかく、その会話がごく自然。だけどおかしい。セリフも演技も絶妙。多分、こんな文章では伝わらない。その、思わず言っちゃった感。だってそういうことってある。そういうのが上手い。お互いを気遣って言わないことが、逆にお互いのわだかまりになっちゃう感じも、あるよなぁと思ったりする。

原木という小さな町が舞台になっている。ほぼ、神崎家か伸男の会社が舞台になっている。2人の家はローカルな駅から畑などを通った住宅地にある古い民家。その感じがとってもいい。玄関を入ったら廊下を隠すように丸窓付きの壁みたいのがあったり、そういう昭和の香りのする家の構造がいい。安っぽいソファーの感じとか、柄あわせとかあまり考えていなそうなクッションの配置とか、畳にカーペット敷いて洋間にする感じとか。男所帯なのに意外に片付いているところもツボ。台所とかの小物や、観葉植物がさりげなく置かれていたり、生活観があるのがすごくいい。「幸福の木」(観葉植物)が置いてあったのが個人的にグッときた(笑)

一応のテーマは民男と瞳の結婚ということになっているけど、そこに義弟の透や、宮地さんなどが絡んできて、恋愛とか人間関係とかも含めた「しあわせ」とは何かということが真のテーマ。民男に向かって近所のオバちゃん(富士真奈美)が逆ギレするシーンがある。正直かなり自分勝手なキレっぷりだけど、実はこれが民男と伸男の恋愛観や人生観を言い当てている。そして、逆に2人以外の人達のそれも。もちろん、そんなに簡単に振り分けられるものではないけど・・・。でも、伸男と宮地さん、民男と瞳のそれぞれのカップル(?)にも当てはまる。奔放でちょっとわがままで俗っぽい宮地さんと、清楚な感じの瞳は一見違うタイプに見えるけれど多分同じ性(さが)を持っているのだと思う。ちょっと上手く言えないけど・・・。分かりやすいのは宮路さんだけど、瞳の方が根が深そう(笑) もっと分かりやすくした人達が富士真奈美達。いや、むしろ達観したと言うべき?

民男と瞳の結婚は意外な展開を迎える。それがスゴイ(笑) あの瞬間、2人の脳裏に浮かんだ映像は全く別のものだけど、でも本質は同じ。2人は恋愛に対しても、人生に対してもドロドロするのは避けたいのだと思う。ドロドロした部分も含めて人間関係なので、そういうものから逃げ続けるのは難しい。そして、2人は2人にとって「永遠の人」の後を追う。このラストは美しくて、ちょっとおかしい。自分の中のドロドロした部分を見つめて認めることで、他人のそういう部分を受け入れられたりもする。でも、出来る限り避けたいのであれば、それはそれでいいのかも。それも人生だから他人がとやかくいうものでもない。だけど、そんな人を愛してしまったらちょっと不幸な気もする。だって「結婚」ってそういうドロドロとの折り合いをつけていくことなんだと思うから。そこから逃げたいと思っている人にはムリなんだと思うし・・・。

オダジョーはホントにダサかった! 長袖のポロシャツ(もちろんノーブランド)のボタンを一番上までキッチリとめて、もちろんチノパンにインです。ベルト着用で、丈も微妙。態度もどこか自信無げな感じ。富士真奈美達にキレちゃう時もしどろもどろな感じでいい。オダジョー作品はオダジョーファンのbaruの影響で結構見てるけど、演技としては一番良かったかも。キャラもあわせると『時効警察』の霧山が一番好きだけど。麻生久美子も良かったと思う。瞳はちょっと複雑な人物らしい。「凧みたいに飛んでいっちゃう」という感じはあまりしなかったけれど、女の性(さが)のようなものは感じられた。

キーパーソンだけど登場の仕方が面白いので、あえて触れなかったけど透のキャラクターは面白い。でも、小林薫は少しはまり過ぎてちょっと違和感があった気がする。やや、浮いていたような・・・。宮地役の大竹しのぶはさすが! 奔放で自分勝手、でも何となく憎めない。ハマったらヤバそうだけど魅力的でもある。まさに魔性の女という感じ。伸男をさめた目で見る感じが素晴らしい。ホントに結婚式のシーンだけ現れる宗形役の石田えりもいい。すごい存在感(笑) カギ修理工の光石研とか、いろんな人がちょろっと出てて楽しい。もちろん岩松監督も出てます。

何といっても原田芳雄が素晴らしい! 前にも書いたけど「さっき見た!」のセリフは最高。この一言の為だけにDVD買おうと決心するくらい素晴らしい。そして、宮地さんを家に連れてきた時のタバコや水が気になってしまうシーンも最高です。とにかく本当の父親にしか見えない。以前「タモリ倶楽部」の鉄道特集の時に、同じく鉄(鉄道オタク)である実の息子と出演してたけど、その時息子に「(電車に乗れて)よかったなぁ!」と言った言い方と、「さっき見た!」が全く同じ感じに聞こえた! これはスゴイことだと思う。

映像も良かった。前述した神崎家がいいし、ローカルな駅の感じもいい。宮地さんが住んでいるところが少しだけ都会的なのもいい。親子で選んだ服を着た民男と瞳が自転車で土手を走るシーンが美しい。伸男の会社の感じもいい。あと診療所も。冒頭の屋上での神崎親子もいい。子供とボール遊びしている母親が、伸男のことを意識していることに過剰反応する感じが、民男の人物像をよく表している。そういう細かいところが意外に伏線になっていたりする。

語り口はそんなに饒舌ではない。どちらかというと、セリフや見せ方、間の取り方なんかは舞台のお芝居を見ているような感覚もある。笑いを狙っているところもあるけれど、自然だし嫌味はない。淡々と進むけれど、役者の演技や画面からきちんと伝わってくるし、テンポもいいので飽きない。ただ、やっぱり行間を読むみたいなところもあるし、ラストが抽象的ではあるので、そういうのが苦手な人には向かないかもしれないけれど・・・。映画とか音楽とか、小説や絵画などいわゆる芸術的なものは、きっと作者の伝えたいことが込められている。そういう部分を少しでも拾えたら嬉しいし、それが映画を見る理由の1つでもある。なんて勝手に解釈しちゃってるだけかもしれないけど(笑)

もちろん映画の見方は1つではないし人それぞれ。この映画もそんなに深く考えなくても楽しめる。単純にオダジョー目当てだといつもと違うかもしれないけど(笑) そして、全編に流れる「勝手にしやがれ」の音楽がいい。エンドクレジットに流れる”ラスト・ダンス”が最高にカッコイイ!

イベント時に披露された岩松監督の格言:
「しあわせはとは、自分がほどよいバカだと知るべき時のことである。
おりこうな間は、不幸しか感じない。」

しあわせは心で感じるもの。頭で考えてもきっとしあわせは見つからない。納得です!


『たみおのしあわせ』Official site
岩松了の「しあわせコンシェルジュ」

「しあわせコンシェルジュ」のブログパーツが反映しない
・・・どうやら、自分のPCのみ見れないようだ


コメント (4)
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