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【cinema】『ふるあめりかに袖はぬらさじ』

2008-07-31 00:18:25 | cinema
'08.07.20 『ふるあめりかに袖はぬらさじ』@丸の内ピカデリー

これは見たかった! 東劇でやってたのは知ってたけど見逃してた。再演決定ということでチケ予約して行ってきた。

「大酒飲みの芸者お園。吉原大火で江戸から流れ、横浜の岩亀楼の姐御的存在。吉原で顔見知りだった花魁、亀遊(きゆう)が病で寝込んでいると知り、せっせと世話を焼く。亀遊と岩亀楼の通訳、藤吉がひそかに思い合う仲と知り、力になろうとするが…」という話。面白かった! そして素晴らしかった! これはもうホントに見てよかった。本物の「芸」というものを堪能した。

シネマ歌舞伎というので、映画として撮られたものなのかと思ったけど、これは舞台をそのまま録画したもの。たまにテレビで舞台の録画放送を見たりすると、大袈裟過ぎてちょっと入り込めない気がする。多分、現実的じゃないからだと思うけど、歌舞伎ってもう何一つ現実的じゃないし(笑)そのせいもあってか、大袈裟な部分も楽しめた。

歌舞伎は高校生の時に授業で見たきり。今にして思えば市川団十郎主演と豪華だったのだけど『俊寛』という題材は難しいし辛い(涙)どうも歌舞伎というと難しいというイメージ。市川海老蔵や中村獅童など若手役者の人気で、だいぶ身近になったものの、なんとなく敷居が高い。でも、これは有吉佐和子原作ということで、幕末を舞台としながらも分かりやすくて面白かった。恋に殉じた花魁がいつの間にか「攘夷女郎」として祭り上げられていく。はからずもそれに一役買ってしまうお園。外国人相手に商売する商人や遊郭主人の思惑。ちょっといこじ過ぎないか?とさえ思う幕末の志士達。それらが、時代の大きな変化に飲み込まれて行く感じが切なくもおかしい。

主役お園は坂東玉三郎。チラシなどでは三味線を前に少し淋しげな表情で座っている。だからてっきり悲劇なんだと思っていた。唐人お吉など、外国人に引かされる遊女や芸者を「らしゃめん」という。タイトルやチラシなどから玉三郎がらしゃめんさんになる話だと思っていたけど違った。お園さんはチャキチャキの芸者。芸は売っても身は売らない。でも、お酒も殿方もかなりお好きな様子(笑)玉三郎のはかなげな美しさは薄幸な感じが合う気がしたけど、さすがに上手い! 人情に厚い粋な芸者のしたたかな生き方に、孤独や悲しみをにじませる。見事。

物語の核となるのは遊女亀遊と藤吉の悲恋。薬問屋の娘に生まれたものの、家が没落し吉原に売られた亀遊。はかなげな美女ながら、大人しい性格のためイマヒトツ華やがない。その上、体を病んでしまい日の当たらない座敷に押し込められ、見舞に来るのはお園さんのみ。そんな中見つけたひそかな恋。でも、相手はしがない通訳で、アメリカに渡るという夢を抱いている。前途のある身と、床に臥しているうちにかさんだ借金のある身。悲しいくらい薄幸なのだけど、こんな話しはいくらもあったんだろうなと思うとまた切ない。

亀遊の七之助がいい。玉三郎の美貌の前にいかがなものかと思ったけれど、なんとも色っぽい。上村松園の「娘深雪」という絵がある。私が一番好きな絵。心ひそかに思う相手からの手紙を読んでいる時、ふと人の気配に驚き、慌てて手紙を隠すその表情が素晴らしい。かわいらしくて、でもなまめかしい。七之助の亀遊には、そのはかないかわいさと、なまめかしさがあった。藤吉を見つめる目が色っぽい。

藤吉の中村獅童もよかったと思う。思う相手に良くなってほしいと願うけれど、治れば恋する女性が体を売るということ。亀遊は日本人しか相手にしない日本人口(にほんじんぐち)の遊女。藤吉は外人相手の唐人口(とうじんぐち)の通訳。会える機会はめったにないはずなのに、運命のいたずらで藤吉のお客イルムスが亀遊を見初めてしまう。その際の通訳の駆け引きはおかしい中にも、悲しみが感じられて切ない。藤吉は生真面目な男。その辺りはよかったと思うけど、ちょっと強面過ぎな気も…(笑)

亀遊がイルムスに見初められるシーンは前半の見せ場の一つ。この場にお園はいない。代わりに場を盛り上げるのが中村勘三郎。この作品、坂東三津五郎や中村橋之助など出演者も豪華だったけど、勘三郎はちょっと別格。商魂たくましい調子のいい遊郭の主人。だけど人情も感じさせる。とにかく見ていて面白い。狙って笑いを取っているのに、本当におかしい。ホントに軽快。なのに時々ホロリとさせる。素晴らしい。

でもやっぱり何と言っても玉三郎! 冒頭、暗いセットの中でセリフのみ聞こえる。深酒をして久しぶりに亀遊の元へやってきたお園。店の子の気が利かないのに文句を言いながら雨戸を空けると、照明がつき窓辺に玉三郎扮するお園が立っている。この始まりがいい。そして、玉三郎の存在感がすごい。例のイルムスのシーンでは、お園は遅れてくるのだけど、場面に登場すると、その場がピリッと締まる。お園さんはチャキチャキで姐御肌だけど、ちょっとちゃっかりしてるところもある。でも、そういうところがかわいいし、憎めない。世話好きだけど、ウザイ感じになってはいない。とにかく粋でかわいい。そしておかしい。でも、その中にお園さんが乗り越えてきた、悲しみがほのかに見える。このあたりが素晴らしい。しかも、お園さんはセリフが多い。そのセリフ廻しは見事。囁くように話す時でもきちんと聞き取れる。そして、その物腰や所作が素晴らしい。亀遊のなまめかしさとは別のなまめかしさがある。もう少し、肝の座った感じ。酸いも甘いもかみしめた色香が漂う。
この「なまめかしい」とか「色香」ってホントに日本女性特有のものだと思う。まるで歌麻呂の美人画のような美しさ。それを男性に表現されるとは…(笑)

以前見たドキュメンタリー番組によると、玉三郎は体があまり丈夫ではないので、舞台が終わると家に直行し、お抱えのマッサージ師さんに、完全メンテナンスしてもらい、後は寝るだけという毎日らしい。もちろん、お付き合いで食事したりする時もあるとは思うけど、舞台中はそのストイックな生活。その徹底した生活に頭が下がるとともに、凡人には決して見ることのできない世界を少しうらやましくも思う。

実はお園役は大女優杉村春子(ホントの大女優)の当たり役だったそうで、昭和63年から玉三郎が引き継いだのだそう。ただ、歌舞伎として上演されたのは平成19年12月が初めて。これはその時の収録。さすが歌舞伎だけあって、セットや衣装が素晴らしい。花魁の華やかな衣装もすごいけど、芸者お園の粋な着こなしが素敵。

とにかく全ていい! セットも衣装も、演奏も。もちろん役者の演技全て。「芸」とか「技」というものをしっかりと味わえた。本当に素晴らしかった。見てよかった!この「シネマ歌舞伎」シリーズはこれからも続くらしい。是非また見たい。次は『連獅子』で!


シネマ歌舞伎:『ふるあめりかに袖はぬらさじ』

原作読んでみたいと思ったけど絶版だった

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