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【cinema】『Colorful カラフル』(試写会)

2010-08-16 01:03:55 | cinema
'10.08.01 『Colorful カラフル』(試写会)@よみうりホール

yaplogで当選! いつもありがとうございます。普段アニメ映画ってジブリも含めてあまり見ない。苦手ということはないんだけど、なんでかな… 見てみようと思ったのは、『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ! 戦国大合戦』の原恵一監督だったから。

*ネタバレありです!

「亡くなってあの世に向かう列に並ぶボクは、プラプラと名乗る少年に呼び止められる。抽選に当たったので、もう一度下界に戻るチャンスを与えると言う。ボクに与えられたのは自殺した中学生 小林真の体だったが…」という話。全体としてよかったと思う。感動して泣いてしまったシーンもあったし。でも、テーマというか小林真くんを取り巻く環境が重い… まぁ、自殺してしまったのだから、当たり前だけど。でも、そういう重いテーマを美しい背景と、ヒョロリと重力を感じさせないキャラ達が、演じる(?)ことによって、見ている側もそんなに重みを感じない作りになっているのがよかった。

小林真の中に入るまで、ボクのセリフはなく、字幕のみ。プラプラという関西弁の少年が、ボクの置かれた状況や、小林真についての概要を説明する。もちろんボクも質問はしているので、会話としては成立しているけど、見ている側は一方的にまくし立てるプラプラの、関西弁のみを聞いている。それがちょっと不思議な感覚。しかもこのボクは、せっかく新しい人生をやり直せるというのに、全く嬉しそうではなく、むしろ迷惑といった様子。そんな感じを誰かの声で語られても、あまりいい気分ではないし、ここでセリフがないのも、ボクがこんな感じなのも伏線でもある。多分、プラプラという名前も伏線。

全く知らなかったのだけど、原作は直木賞作家の森絵都の同名小説で、第46回産経児童出版文化賞を受賞している。1999年にはNHK-FMでラジオドラマ化、2000年にはKAT-TUNの田中聖主演で映画化もされている。うーん… KAT-TUNか(笑) 実写だとどんな感じなのか分からないけど、これはこの色のトーンを抑えたアニメで良かったのかなと思う。前にも書いたけれど、主人公を取り巻く環境はかなり重いので… 実写だと生々しいかも。

プラプラの説明によると、主人公なボクは大きな過ちを犯して死んだ罪な魂なので、本来ならば輪廻のサイクルから外されてしまい、もう2度と生まれ変われないはずだった。でも、抽選に当たったので、下界に戻り一定期間修業を受ける。前世の記憶が戻り、過ちを自覚した瞬間にホームステイは終了するというもの。辛いことも、悲しいこともたくさんあるけど、死んでしまおうと思ったことはないし、今のところ自分以外の誰かになりたいと思ってはいない。まぁ、もうそんなこと考える歳でもないし(笑) でも、不慮の事故で死んでしまい、もう一度チャンスを与えますって言われたらどうするだろうか…

主人公のボクは、このチャンスをありがたいとは思っていない様子。これを逃すともう2度と生まれ変われないと言われても、別にいいですというスタンス。よほど辛いことがあったのだろうかと思うと同時に、無気力な感じも受ける。でも、この態度にも意味がある。ボクのセリフが字幕のみなのもきいている。声のトーンが分からないので、ボクのホントの感情が直接伝わってこない。だから、見る人によって印象は変わると思う。その辺りも含めてカラフルなのかなと思ったりする。

結局、うむを言わせず、ボクは小林真の体にホームステイすることになる。小林真は、学校でいじめにあい、今では完全に存在感を無くした"透明な存在"。ある日、密かに想いを寄せている桑原ひろかが中年男性とラブホテルに入って行く姿を目撃してしまう。呆然としている真に、さらに追い撃ちをかけるように、母がフラメンコ教師と同じホテルから出て来た。絶望した真は、母親の睡眠薬を大量に飲んでしまった。ボクがホームステイしたのは、病院に搬送された小林真が息を引き取った瞬間。真が生き返って喜ぶ家族は、父親、母親、そして兄の満。退院した真を腫れ物に触るように扱う家族。でも、ボクには勝手が分からない。実はここがポイント。

ボクは小林真にホームステイしているだけだから、ホントは小林真ではないわけで、しかもあまり情報がもらえないので、小林真がどんな人物だったのかよく分からないまま、小林真として暮らさないといけない。家でも学校でも無難な言動をしているつもりなのに、何故か周囲は戸惑いを見せる。小林真はどういう人物だったのか… 所属していた美術部でも、彼の特等席はみなと離れた窓際の席。人と関わることを避けている様子。でも、急に積極的な発言をするようになった真を、初めこそ驚いていたけど、周囲は気にも止めていない様子。唯一、同じ美術部の佐野唱子だけが、別人のようだと言う。この同級生を、うっとおしく思うけれど、彼女だけが透明な存在だった真を見ていたと言える。

真になったボクは、初めのうちは人ごとだった、父親や母親の事で、だんだんイライラしたり、腹を立てたりするようになる。父親は人がいいだけのサラリーマンで、雑務を押し付けられ、残業ばかりで家庭を顧みる暇がない。優秀な兄は出来の悪い弟をバカにしている。母親は寂しさからか、フラメンコ教師と不倫。真はそんな家族を嫌っていて、家庭でも孤独だった。ボクの怒りは真の自殺の原因となった母親に向かっていく。この母親を麻生久美子が好演している。あの1度きりなのか、前から続いていることなのか分からないけれど、母親が過ちを犯したことは事実。でも、真のために必死で努力していることが、全て否定されるのは可哀相な気がする。それは麻生久美子のおかげ。そして、思春期特有の潔癖さと、やはり母親は女ではなく、母でいて欲しいという思いや、母に対する甘えが攻撃となって出てしまう。そして、また苛立つ。

真ほど深刻な状況じゃなくても、親に対して苛立った覚えは誰しもあると思う。それが反抗期だし、思春期だから。でも、あのイライラが実は自分の視野が広がって、世の中には自分の思い通りにならないことがあるということが、分かってきたけど、それを認められなかったからなんだと気づく。でも、真の親世代になってしまった今でも、思い通りにならなくてイライラすることはあるし、自分の感情をコントロールできないことはある。時々、子供みたいなキレ方する人もいる(笑) でも、さすがにこの年になれば、そのイライラの原因が何か分析して、解決できないまでも、気持ちの整理をつけることくらいはできるようになる。でも、ボク(真)にはそれがまだできない。

ボクの気持ちや心が、少し外に向けて開いたので、早乙女くんという友達ができる。目立つタイプではないけれど、誰にでも分け隔てなく接することのできる人物。こういう人が一番強くて、素晴らしい人なんだと思う。早乙女くんにとってはきっと普通のことなんだと思う。でも、普通に接してくれることが、誰かを救うこともある。一緒に行った靴屋で、早乙女くんにからかわれて、恥ずかしい思いをするけれど、それをイジメだとは思わずに、笑い話にできる。それは早乙女くんとの間に、信頼関係が築けたから。このエピソードはよかった。もちろん、からかいとイジメを混同してるわけではないし、イジメをしてる子は悪意を持ってやっているのだろうから、からかいとは違うと思っているけれど、こういうことをからかいだと思えるようになったのは、ボクにとってよかったことなんだと思う。

片思い中のひろかについては、ボクにしては大胆な行動に出る。やっぱりどうしても援助交際する気持ちは理解できない。彼女はサラリと綺麗なものやカワイイものが欲しいし、1回すれば2万だよと言うけれど… 彼女の背景とかが語られないので、もしかしたら家庭に何か問題があって孤独感を感じているのかもしれない。でも、寂しいから買い物をしてしまい、そのお金欲しさに体を売るという発想はどうしても理解できない。まぁ、貞操観とか道徳観とかは、世代によっても違うので、理解するのは無理なのかもしれないし、彼女達が後々後悔しなければいいのだとは思うけれど。ただ、ひろかは「美しいものが大好きなのに、時々壊したくなる」と言い、ただ1人理解した真の絵を黒く塗り潰そうとする。この辺りに彼女の葛藤があるんだと思う。ひろかの声は南明奈。ちょっと合わなかった気が…

早乙女くんという友達もできて、少しずつ外に向かって心を開いたけど、家族に向かっては鬱屈していく。特に母親に対しては、出された食事も食べない。父親と釣りに行く時に寒いだろうと買ってくれたダウンも着ない。この釣りの帰り道、何故真が飲んだ大量の睡眠薬があったのか、母親が受けた心の傷と、それに気づけなかった後悔を父親から聞くことになる。ボクは真ではないので、そんな話をされても的なスタンスで聞いているけれど、それなら何故イライラしているのか、何故許せないのかという矛盾には気づいていない。受験生でもある真の成績は最悪。心配した兄は、美術などいわゆる勉強以外の分野を伸ばす学校を探してくる。母親は既に下見に行っていた。家族が自分を思ってくれていることに気づき、初めて自分の本当の気持ちや、自分が本当にしたいことに気づく。そして、ボクが犯した過ちと、ボクが誰なのかも…

と、書いてしまうとオチが分かってしまうとかもしれないけれど、要するにこれは"再生"の話。ボクがホームステイしてホントの自分に気づくストーリーになっているけど、ほんの少し心を開けば、周りも変わるし、自分も変わるということを言いたいんだと思う。多分、真と同じような境遇にある人は、何故自分は被害者なのに、自分が変わらないといけないのかと思うんじゃないかと思う。自分も人によって傷ついた時にはそう思った。でも、自分の人生は自分しか生きられないし、自分についた傷を本当に癒せるのは自分しかいない。家族や友達も手助けはしてくれるけど、それは自分が求めないと気づいてもらえない。言わないでも分かって欲しいけど、ホントの思いは言わなきゃ分からない。イジメられてる相手なんか無視してやればいい。死んでしまったらもったいない。死んだ気になれば、生まれ変われる。ということが言いたいんだと思うし、それはとっても伝わった。人は一色じゃないんだというメッセージは、タイトルから想像はつくけど、真が辿り着いたのだと思えば、すんなり入ってくる。

小林真の冨澤風斗くんは感受性が豊かで繊細ゆえに、自分の感情を持て余してしまう感じを上手く演じていたと思う。佐野唱子の宮崎あおいはさすがに上手い。イジメにあっていた唱子もやはり感情を表すのが苦手。でも、不器用ながら必死に伝えようとする感じがよく分かる。父親の高橋克実は上手いんだけど、どうにもご本人の顔がチラついてしまって… このお父さんの絵には合ってなかった気がする。麻生久美子がよかった。この母親は確かに過ちを犯した。それは思春期の少年には堪えがたいこと。いくら、義母の態度に傷ついていても、家のことを一人で背負って孤独であっても、やっぱり言い訳にはならないと思う。でも、償おうとしても真に無視され続けて、苦しむ姿は可哀相だった。そう思えたのは麻生久美子のおかげ。

全体的に色のトーンを抑えた絵が印象的。近景は絵っぽいけど、遠景は写真っぽい。そういう景色の中、細い線でマンガっぽいキャラ達が描かれることで、少し距離感を持って見ることができた。かなり重い内容だけど、ズッシリ重くなり過ぎなかったのは、この画のタッチと希望が感じられるラストのおかげ。

音楽の使い方も良かったと思う。miwaという女性歌手が"僕が僕であるために"、エンディングで"青空"をカヴァーしている。やっぱり"青空"イイ! 鑑賞後、20代前半くらいの男の子が、「エンディングの曲いいな」って言ってたけど、もう元ネタがTHE BLUE HEARTSって知らないんだね(涙)

冒頭が強烈なだけに、日常が描かれる展開に中弛みを感じる部分もあるけど、良かったと思う。同世代に見てほしい。

『カラフル』Official site

※ちょっと、公私共にバタバタしていて、感想UP遅くなりました・・・ スミマセン


コメント (4)
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