10月30日、鎮国寺の参詣を終えて宗像大社に向かうが、その前に手前にある「海の道むなかた館」に立ち寄る。道の駅とは趣が異なり、宗像の世界遺産に関する紹介がメインである。
これから参拝する宗像大社は、正しくはその一つである辺津宮である。海を渡った大島にあるのが中津宮、そして九州本土からおよそ60キロの海上に浮かぶ沖ノ島にある沖津宮と合わせて宗像三社である。中でも沖ノ島は島そのものが御神体とされており、かつては年に一度の大祭の日に限って一般人(ただし男性のみ)が禊を行ったうえで上陸することができたが、世界遺産登録後は宗像大社が特別に許可した者以外は立ち入れないことになったという。世界遺産に登録されると多くの観光客が訪ねて地域が活性化して・・という狙いもあったかもしれないが、沖ノ島についてはそれを危惧して逆に上陸を厳しくし、島を保護する方針を取っている。軍艦島と同じようなものかな。
「海の駅むなかた館」では、その沖ノ島についても上空からの映像や、ところどころではCGによる再現も使いながら、かつて祭祀が行われ、今に残る遺跡について大画面で紹介してくれる。
また、沖ノ島はその位置条件や、古来から「神宿る島」として人工的なものが入ることがほとんどなかったことから、自然がそのまま残されている。そのために動植物も独自の種類のものが生息しており、そちらの面でも貴重な場所だという。そして、沖ノ島の遥拝所として大島の中津宮があり、そして九州本土で日常的にお参りできる辺津宮がある。
宗像大社は天照大神から産まれた三女神を祭神としており、辺津宮はイチキシマヒメが祭神とされている。日本最古の神社の一つとされており、神功皇后も三韓征伐の成功を祈ったし、弘法大師も遣唐使の航海の安全を願った。現在も海上・交通安全の神として多くの参拝者が訪れる。ちょうどこの日(10月30日)も七五三の時季ということで、着飾った子どもを連れた家族連れで賑わっていた。
まずは拝殿にて手を合わせる。古来、宗像氏が大宮司を務めていたが、現在の社殿は宗像氏の後に小早川隆景が再建したものという。
順路に沿って、第二宮、第三宮に向かう。それぞれ沖津宮、中津宮の分社とされており、ここに来れば宗像三神を拝んだことになるそうだ。
それにしてもこれらの建物、どこかで見た造りだなと調べてみると、かつて伊勢神宮にあったもので、1973年の式年遷宮の際に宗像大社に贈られたという。伊勢神宮の式年遷宮にあたっては、旧の社殿となった建物もあちこちの神社で再利用されるケースが多いと聞いていたが、実際に見ると風格を感じる。
参道はさらに続き、高宮祭場に着く。社殿が建てられる以前から祭祀が行われていた場所で、現在も遺構として保存されており、現在も大祭の時には儀式が行われるという。辺津宮でもっとも神聖な場所とされており、近年はパワースポットとして訪ねる人が多いという。
神社といってもさまざまなスタイルがあり、ところによっては巨大な鳥居や社殿で参拝者を圧倒させる感じの神社もあるが、宗像大社については草木や岩などに神が宿る自然崇拝の色合いが強いように思う。
最後に神宝館に向かう。沖ノ島の古代の祭祀遺跡からの出土品はこちらで保存展示されている。沖ノ島には行けないが、こちらに来るだけでもその歴史は十分学べそうだ。まずはエントランスで沖ノ島の信仰と自然についての映像を見る。
沖ノ島で出土したものは約8万点に上り、それらがすべて国宝に指定されているそうだ。国宝8万点とはすごいが、現在の全国の国宝の数を見るともっと少ない。時代により国宝の定義も異なるし、ひょっとしたら沖ノ島関連はひとまとめにして国宝になっているのかもしれないが、いずれにしても貴重なものには間違いない。そのくせ、意外にも館内展示物の撮影はOKだという。
沖ノ島で祭祀が行われるようになったのは古墳時代、4世紀後半とされている。前日訪ねた「伊都国」より時代は下るが、日本と朝鮮半島の交流が盛んになった時代背景もあり、その経路上にあった沖ノ島の巨岩の上で祭祀が行われた。時代が下るにつれて少しずつ緩やかな場所に移ったが、9世紀末頃までは祭祀が行われていたとされる。大和~奈良~平安と時代が移り変わる中、朝廷の力があった年代と重なることである。また、9世紀末といえば「白紙(894)に戻す遣唐使」にもあるように、遣唐使が廃止され、日本国内も内向きになった頃と重なる。
朝廷の影響は少なくなったが、それ以降も沖ノ島では神事が続けられており、宗像大社の信仰も受け継がれた。そして、世界遺産への登録である。
これで宗像大社・辺津宮の参詣を終えて、バスで東郷駅に戻ることにする。ただ、昼間はバスの本数も限られていて、宗像大社前12時17分発の便まで30分ほど待つことになった。しばらく、境内のベンチにて日向ぼっこだ。
帰りのバスに乗り、東郷駅に到着。この日も昼食抜きとなるが、快速にて香椎に戻る。広島に戻る前にもう1ヶ所、駅舎のイメージにもなった香椎宮に参詣することに・・・。