11月6日、「みまさかスローライフ」列車は美作河井に到着。14時10分発まで22分停車する。走っているより停車している時間のがほうが長いように思う。
美作河井は岡山県側最後の駅で、物見峠を前にしたところである。因美線が全線開通する前は、津山方面からの執着駅だった。
かつては島式ホームで、反対側にも線路が敷かれていたが今は使われることはない。
こちらでも地元の人たちによる物産の販売がある。いろいろあるが私の目に留まったのは手作りのこんにゃくと、生の落花生。後日、こんにゃくは他の具材と一緒におでん風に煮立て、落花生は殻ごと塩ゆでした。しばらくは酒のアテとして楽しめた。乾燥したピーナッツとはまた違った味わいだった。
駅前ではなぜか電気自動車の展示もある。今はこうして「スローライフ」列車だ、「ノスタルジー」車両だとかで楽しんでいるが、地域の人たちにとっては、数年後にはこうした乗り物が現実の生活の中に入り込んでくるのだろう。鉄道は環境に優しい乗り物としてPRされているが、ことローカル線区間にあっては、こうしたコンパクトな自動車が気動車を動かすよりも環境に優しいのでは?と言われていて・・。
ホームのはずれには手動の転車台が保存されている。かつて、除雪車の向きを変えるために使用されていたが、使用されなくなってからは土中に埋まっていたという。それが掘り起こされ、今は近代化産業遺産の認定を受けている。ここもノスタルジーのスポットである。
「矢筈城跡」の看板がある。戦国時代、美作、因幡の国人領主だった草苅衡継により築かれた山城である。草苅氏は後に毛利方につき、宇喜多軍、羽柴軍とも戦ったが城が落ちることはなかったが、本能寺の変の後、毛利輝元と羽柴秀吉が和睦したこともあり、輝元の要請で城を明け渡したという。山頂までは2時間ほどかかるそうで、登城というよりはちょっとした登山である。
物見トンネルで岡山県から鳥取県に入る。美作河井~智頭間の開業により因美線が全通したのが1932年のことで、今年がちょうど90周年である。
鳥取県に入り、14時26分、最初の駅である那岐に到着。「みまさかスローライフ」列車はこの先智頭まで運転されるが、ほとんどの客が那岐で下車した。逆に智頭まで行く人は鳥取方面、智頭急行に乗り継ぐか、はたまた那岐駅での時間よりも少しでも長く列車に乗るほうを選んだか・・ということになる。構内の踏切を渡る前に、智頭に向かう「みまさかスローライフ」を見送る。この列車が折り返してくる35分間が那岐での滞在時間である。
那岐は因美線全通時に開業した駅で、90周年の記念碑も建てられている。待合室には厚意による図書棚があり、利用する人の心の交流の一つとなっている。
駅前では柿の葉寿司などが売られており、夕食用に買い求める。またお出迎えとして、先ほどの美作滝尾のエレキバンドに対抗するわけではないだろうが、津軽三味線でのお出迎えである。駅前に自然と輪ができる。
そしてその後は、先ほど那岐に降り立った「寅さん」の登場である。今度は自らがマイクを手にして、「わたくし~」から始まる例の口上を述べる。「今日は鳥取県は那岐駅にやってきました~」などと、映画「男はつらいよ」についてとうとうと語る口調も旅慣れたもので、ただのコスプレの人ではなさそうだ。
途中で「わたくし、『植木寅次郎』と発します」という一節があったのでその名前で検索すると、「寅さんの心を伝える会」というのが出てきた。「植木寅次郎」さんは茨城県の方のようで、寅さんのそっくりさんとして各地のイベントにも顔を出しているようだ。
また、同じく寅さんに扮してカメラを構えているのは津山市の市議会議員だとの紹介があった。「男はつらいよ」の熱心なファンだそうで、「みまさかスローライフ」列車の運行にあたり、地元イベントを盛り上げるためにこの議員も「植木寅次郎」さんを呼ぶなど頑張っているのかな。津山はB’zの稲葉さんだけやないんやぞと・・。
寅さんのトランクの中。今のご時勢、トランクで旅行に出かける人というのはほとんどいないのではなかろうか。それでも、結構小物が入るものだ。龍角散の昔ながらの粉というのも時代を感じる。
帰りの時刻となり、ホームに上がって智頭からの折り返し便を待つ。復路で乗車するのは2号車、キハ47の国鉄急行色である。今度も窓側の席を確保していたが、進行方向の後向きである。まあ、先ほどとは反対側なので違った景色を見ることができる。
近くのボックスに寅さん御一行が着席している。「寅さんの心を伝える会」の皆さんと美作の地酒で乾杯である。私、「男はつらいよ」を本気で観たことがないのでわからないのだが、映画の寅さんは酒をたしなむのだったかな?
そんな中、市議会議員がお土産を配りに来る。あ、これは政治的に何か問題がある行為ではなく・・・。
いただいたのは、因幡国の若一宮である河野神社のお守りである。手足、肩、腰の病に霊験があるそうで、この足型で患部をなでて祈願するとたちまち快癒するとされている。
物見トンネルを抜けて、再び岡山県に戻る。美作河井では物販のテントはすでに片付けられていたが、地元の人たちはまだ残っていて手を振ってお見送り。
美作加茂に到着。行きの列車の停車時に買い物をした人はくじを引くことができて、当たりだと帰りの列車の時に地元の物品が提供される。私は残念ながらはずれだったのだが、帰りにも少し停車して景品を受け取る姿も見られた。
この後はウトウトしたようで、美作滝尾は気づかずに過ぎたようだ。16時17分、津山に到着。往復で4時間半、途中下車の時間もたっぷりあって充実した乗り鉄、呑み鉄の一時であった。2日続けて乗車した寅さん御一行はこの後どうするのかな?
この日は日曜日ということもあり、津山で1泊ということもなく、このまま16時37分発の津山線岡山行きに乗り継ぐ。先ほどの「みまさかスローライフ」からの乗り継ぎが多く、車内も結構賑わっていた。
そして岡山からそのまま新幹線に乗車。岡山駅前のミシュラン居酒屋「鳥好」にも久しぶりに行きたかったのだが、翌朝に備えて早めに帰宅しよう。
「みまさかスローライフ」については、この夏、秋と盛況のうちに運行されたことであり、2023年もまた時季を見つけて運行されるだろう。またその時は寅さん御一行が来るのかな・・?