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ハラルト・シュテュンプケ『鼻行類』

2012-05-25 05:41:00 | ノンジャンル
 岡野宏文さんと豊崎由美さんの対談本『読まずに小説書けますか』の中で紹介されていた、ハラルト・シュテュンプケの'61年作品『鼻行類』を読みました。
 まず、日本軍の捕虜収容所から脱走したスウェーデン人のシェムトクヴィストが1941年に大平洋南海のハイアイアイ群島という未知の群島に漂着し、700人あまりの原住民たちは彼がもたらした流感で、わずか数カ月たらずのうちに全滅してしまったことが語られます。そしてそこで彼が発見したのは、哺乳類の未知の目である鼻行目でした。鼻行目のものを詳しく見ていくと、単鼻類に分類されるものには、鼻で立つことができるムカシハナアルキや、鼻で滑るように進むことができるナメクジハナアルキ、鼻から粘液を出して水中生物を補食するツツハナアルキ、鼻で地面に固着して虫が来るのを待つミツオハナアルキが、管鼻類には、モグラに似ているタバハナアルキ、貝のような形状のシャコガイ・タバハナアルキ、水上に鼻を出して水面にぶらさがるアワハナ・ラッパハナアルキが、地鼻類には、お茶の水博士のような鼻を持つモグラ状のモグラハナアルキが、硬鼻類には、鼻に関節を持ちゾウのような形状のコノハハナアルキ、鼻の関節を使って後方に飛び跳ねることができるトビハナアルキ、地面に固着するツツハナアルキに食物を与え、それから乳をもらって生活するヤドリトビハナアルキ、耳で飛ぶことができるダンボハナルキ、花を擬態するアンケル・ヴァニラ・ランモドキが、多鼻類には、4つの鼻で歩くことができるオオナベゾーム、それを襲って補食するオニハナアルキが、六鼻類には、穴から6つの鼻を出して虫などを補食するゴカイバナイカモドキ、鼻の先端を花に擬態して虫を捕るキンポウゲ・ハナアルキ、鼻が6弁の花びらを擬態して虫を補食するフシギ・ハナモドキ、4つの鼻で歩き、残りの2つの鼻で草を掴んで食べるマンモスハナアルキが、長吻類には、鼻が変化して葉っぱ状の吻になっているハナムカデが存在しています。これらの生き物に対して詳しい生態が豊富な図面とともに述べられていくのですが、あとがきによると、シュテュンプケがこれらについて書いた原稿がまさに印刷に付されようとしていたときに、某国が秘密裏に行なった核実験によって、ハイアイアイ群島は消滅し、鼻行目の研究者全員そして研究所もろとも、かけがえのない写真や標本、観察・調査記録全てが失われてしまったとのことでした。
 最後のあまりのあっけない、また有無を言わせない終わらせ方に、私はつい笑ってしまったのですが、この奇想天外な本に関して、海外の学界では真剣にその真偽に対して論議が交わされたということにも驚かされました。それだけ学問的にはしっかりとした裏付けがなされた本だということでしょう。著者のシュテュンプケの正体も分からないという、本当に不思議な本でした。

→Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/