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小島信夫『馬』

2012-05-28 05:44:00 | ノンジャンル
 岡野宏文さんと豊崎由美さんの対談本『読まずに小説書けますか』の中で紹介されていた、小島信夫さんの'54年作品『馬』を読みました。
 僕はトキ子に愛の告白をしたことから結婚しましたが、未だに彼女からの返事は聞くことができず、ことあるごとに、僕が告白したことで彼女に負い目を感じながら生活しています。僕がある夜、家に帰ってみると、妻のトキ子が僕のために新たな家を建て始めていました。翌日、トキ子は棟梁を始め、大工たちから「ダンナ」と呼ばれて、テキパキと指示を出していて、僕はやがてそれが馬小屋であり、僕は2階に住むことになることを知ります。梯子を登り棟梁を追いかけようとした僕は、電線に触れて感電して転落し、気が付くと精神病院のベッドの上でした。トキ子は知人の競走馬・五郎を預かり、その預かり料で家が建つことになったことを新たに告げますが、その夜、病室の窓からは家の闇に消えるトキ子と男の姿が見えます。翌朝詰問する僕に対し、その男は僕だったと語るトキ子。僕は男は棟梁だったと考え、その夜、病院を抜け出しますが、すぐに病院の職員に捕まり、注射を打たれて眠らされます。気付くとトキ子は、家は既に完成し、馬ももう来ていると告げ、僕はトキ子と家に帰りますが、馬の部屋は家具調度まで取り揃えられた豪華な部屋で、トキ子は日中、馬とともに過ごし、馬は僕を軽蔑のこもった目で見るようになります。夜になると馬はドアを蹴って「奥さん、開けてください」と言いますが、僕は自分の頭がおかしくなった気がして階下に降りていけません。翌朝、昨夜のことをトキ子に尋ねると、逆に「馬が人間の言葉をしゃべって何が悪いの」と言い返されてしまいます。僕は馬は自分だったのかもしれないと思いますが、仕事を終わって家に帰ると、トキ子は自分の鏡台まで馬の部屋に持ち込み、馬のセーターまで編み始めます。さすがに頭に来た僕は馬に乗って走らせますが、逆に馬が僕に乗っている錯覚に陥り、家に帰ってくると、家からは棟梁が出てきます。それを見た馬は僕を振り落として「この野郎!」と言うと、棟梁の後を追って走り出します。僕は心身の疲労に堪えられず、トボトボと自分から精神病院めざして歩いていこうとしますが、それを見ていたトキ子は「あなた、待ってよ」と叫ぶと、「あなたは私を愛しているんでしょ。私のいう通りにしていればいいの、あなたはだんだんよくなるの。このあたりで、あんな二階のある家がどこにあって? あなたがいやなら私が出て行くわ‥‥私はホントはあなたを愛しているのよ。私のような女がいなければ、あなたはまともになれないの、ねえ分って?」と言って、僕ははじめてトキ子から「愛の告白」を聞くのでした。
 豊崎さんは村上春樹さんが著書『若い読者のための短編小説案内』の中における、この小説の粗筋紹介が素晴らしいと書いていましたが、実際に短編を読んでみて、どこがそんなに素晴らしいのか、よく分かりませんでした。村上さんは「家」や「棟梁」や「馬」に象徴的な意味を見い出すことで、この短編の「意味」を読み解いているのですが、私などは単純に「不思議な話」、「訳の分からない話」として読んだほうが楽しく読めるような気もしました。特に馬の存在感が圧倒的に面白かった短編だったように思います。