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西加奈子『漁港の肉子ちゃん』

2012-12-08 06:09:00 | ノンジャンル
 西加奈子さんの'11年作品『漁港の肉子ちゃん』を読みました。
 肉子ちゃんは私の母親で38歳。本当の名前は菊子だけど、太っているから、皆が肉子ちゃんと呼びます。何でもすぐに語呂合わせにするのが好きで、話し方も、いつも語尾に「!」とか、ひどいときは「っ!」がつきます。関西の下町生まれで、兄が2人いたらしいけれども、家族のことは、あまり話しません。16歳で大阪に出て、繁華街のスナックで働き、今は北陸の小さな漁港に住み、そこの焼肉屋「うをがし」でまかない付き、家付きで働いていますが、そこに至るまで何度も男に騙され、私の父も誰なのか判然としていません。「うをがし」は結構繁盛していたのですが、店の主人である70過ぎのお爺ちゃん・サッサンの奥さんが亡くなり、サッサンが孤独に絶望して、店を畳もうとしていたところに、肉子ちゃんが現れ、サッサンは救いの神が来たかのように肉子ちゃんを雇って店は存続し、そしてより繁盛し始め、肉子ちゃんも、その天性の明るさから、おおらかな町の人たちに受け入れられたのでした。
 小5の私は肉子ちゃんに似ず、スレンダーで、よく可愛いと言われ、名前は肉子ちゃんの本名と同じ読みながら漢字は違う“喜久子”。町の大金持ちの娘で気位の高いマリアちゃんと一緒に下校していますが、隣の組の男の子・桜井と松本は私のことが気になるらしく、後をよく付けてきます。私は4歳のときから、ひとりでお風呂に入っていますが、ヤモリや湯気や窓やお湯が、よく話すので、ちっとも寂しくはありません。また私は読書好きで、本を開いている間は、自分の容姿のことや、肉子ちゃんの過去の男のこと、マリアちゃんの思わせぶりな立ち話や、男子の幼稚なアプローチのことなどを忘れることができるのでした。
 それに対し、肉子ちゃんは、人間関係の始め方も、下手くそで、相手が自分のことをどう思うのか、とか、どんな風に接すれば空気が変に震えないのか、とか、そういうことを、全然考えられず、こんにちは、をきちんを言わないままに、ずけずけと人のテリトリーに入ってゆくような人でした。
 私達の通っている小学校は、校内に寺があり、正門前の通りはちょっとした参道になっていて、“銀座猿楽通商店街”と呼ばれています。錆びついたシャッターが目立つ通りになっていますが、それでも、港に近いことから、魚屋や、魚を扱う小料理屋が結構あり、それ以外にも、軽薄な美容師のいる「MUSE」、ミイラみたいな老夫婦がやっている「赤星布団」、凶暴な猿を飼っているおもちゃ屋「もんきぃまじっく」、マキさんというかっこいい女性がやっている「湯沢鍵店」、いつもパン3つ180円のスーパー「ヨシトク」なんかがあります。私が憧れているのはマキさんで、東京に出て結婚し、離婚してまたこの町へ戻ってきたということですが、肉子ちゃんと同じ年齢だと聞いて、驚いたほど若く見える、20代のお姉さん、という感じの人です。商店街には「PET SALON かねこ」というペットショップもありますが、そこは皆「うらない」と呼んでいて、店主が、来る客来る客に、動物の世話の大変さを、これでもか、と言い続けるので有名な店でした。
 ある日、私はバスに乗った時、桜井と松本の背後にいつもいる二宮が1人で乗ってくるのを目撃しますが、彼は私に気づいているのか、いないのか、やがて次々と変な顔をしだします。その「変な顔」には、「気持ち悪い」では済まされない、何か切羽詰まった様子がありました‥‥。

 この後、私はマリアちゃんが新たに作ったグループから虐めを受けるようになったり、二宮との交流が始まったりもして、この部分はかなり読ませますし、また、肉子ちゃんに代表される“俗=生”と二宮に代表される“聖=死”の対比が演じられたりもして、これもかなり魅力的だったのですが、ラスト、私の出自と肉子ちゃんと私との関係が延々と述べられるところで、少しシラけてしまったのが残念でした。しかし読む価値は十分ある小説だと思いますし、西さんのこれまでの作品の中でも重要な位置を占める作品だとも思いますので、是非実際に本を手に取って読まれることをお勧めします。なお、本作品の詳細に関してましては、私のサイト(Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto))の「Favorite Novels」の「西加奈子」の場所でも紹介させていただきましたので、興味のある方は是非ご覧ください。

 →Nature LIfe(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto