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西加奈子『地下の鳩』

2012-12-24 06:21:00 | ノンジャンル
 ジョセフ・ロージー監督、ヴァネッサ・レッドグレイヴ、サラ・マイルズ出演の'85年作品『スチームバス 女たちの夢』をWOWOWシネマで見ました。サウナ屋に集う女たちの“交流”を描く映画でしたが、演劇のような作りのものでした。

 さて、西加奈子さんの'11年作品『地下の鳩』を読みました。長編『地下の鳩』と短編『タイムカプセル』が収められた本です。
 まず『地下の鳩』。吉田が早朝に地下鉄御堂筋線の心斎橋駅から地下鉄に乗って帰宅する際、電車をやり過ごすことはありませんでした。しかしある日、ふとアーチ型の天井からぶらさげられた、次の電車の運行状況を知らせる表示灯に留まっていた鳩に目がいき、電車をやり過ごしてしまいます。吉田は高校を卒業してすぐ、愛媛から大阪に出てきました。それから22年間、ずっと地下鉄に乗っています。女にはよく好かれましたが未婚です。吉田の実家には、居酒屋を経営している両親と、それを手伝っている出戻りの姉がいましたが、吉田は数年帰っていませんでした。彼らは吉田がキャバレーの呼び込みをしていることは知りません。田舎を出たくて出て来た彼の先輩は音楽をして、ステージに上がる前から客同士が喧嘩し、ステージが終わる頃には演者が血だらけになっているようなバンドでした。吉田も喧嘩に加わっていましたが、ある日、振り下ろした足が女の左頬に当たり、泥のような血を見て、ハッとした自分が嫌でした。女は「あ」と言ってへたりこみ、吉田は周囲の人間にもみくちゃにされて、それでも女のことが気になり、自分にはこういうのは向いていないかも、と初めて思ったのでした。左頬を蹴った女をライブ会場で捜しだして、先輩の家を出ました。女と一緒に暮らし始めました。上本町。女の家でした。吉田は今後一生、音楽を聴く機会を失ってもいい、と思いました。実際そうでした。吉田は夜になると、地下鉄に乗ります。心斎橋駅を降り、職場のキャバレー『ばらもの』まで歩きます。相棒の呼び込みの男・棚橋は60になるかならないかという男です。彼は左手の小指と薬指がありませんが、バカラの店で数回インチキをやったということでした。ある日、吉田は女に会います。その日は雨が降っていました。棚橋が帰り、20時を過ぎた頃から、本降りになると、ホール長の秋山が店から顔を出し、つまみのチョコレートが無いから、買ってきてくれと言いました。吉田がチョコレートを買って店を出ると、店の前のたこやき屋で、女が騒いでいました。ドレスの上にコートを羽織っただけの格好で、男ものの黒いこうもり傘を差し、うろうろと、たこやき屋の台の下に自転車の鍵を落としたと言っているのでした。真冬なのに、ほとんど素足に見えるストッキングと夏向きのサンダル。吉田はその辺にいた皆と台を上げて、女に鍵を取らせてやりました。「せやなー、ありがとぉ」と言う女を後に皆が散り散りになっていき、吉田も去ろうとしましたが、女は吉田の腕を後ろに引っ張り、「お兄さんも、ありがとぉ」と言うと、水色の名刺を吉田が持っていたチョコの入った袋に放りこんで「来てな!」と言うのでした。その名刺には『郡 チーママ みさを』と書いてあり、その店がヤクザ風の男が経営する店であることを知るのでした‥‥。
 ここ(26ページ)まで読んだところで、その先を読むのを断念しました。(ちなみに、最後のページ、146ページは「でも吉田は、みさをのことが、まだ好きだった。」という一文のみで終わっています。)短編の『タイムカプセル』は、吉田がチョコを買った店の前で知り合ったオカマのミミィを主人公にしたもので、「一昨日生けた芍薬(しゃくやく)の花びらが、四枚ほど落ちている。」という文で始まり、「その思いに、ほとんど気圧されそうになりながら、ミミィは、いつまでも、いつまでも、自分の手を見続ける。」という文で終わっています。岡田茉莉子さんの著書『女優 岡田茉莉子』を読んで以来、マイブームとなっている「聖=死」と「俗=生」の対立軸で考えると、西さんの作品もこの両方に分けることができるように思いました。すなわち、前者がこの『地下の鳩』であり、後者は同年の作品『漁港の肉子ちゃん』となり、私は圧倒的に後者を支持する者なので、今回の『地下の鳩』も、最後まで読み続ける根気を持ち合わせていませんでした。“文学”が好きな方にはお勧めできるかもしれません。

 →Nature LIfe(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto