朝早く 髪を切りに行く
表の看板には10時からとなっているが 実際は9時半から始まっている
待つのが苦手な私は 一番乗りを狙って出かけることにしている
マスターはいわゆる団塊の世代の人で 趣味はほとんど単独での山登り
私は 山道を行く一歩一歩が楽しいのかと思っていたが 登っている時はけっこう辛いのだそうだ
山頂に登った時の空気や景色 そして下山した時の充実した達成感 それが気持ち良いのだそうで なんだ 私と同じじゃないのと思った
暑い夏の炎天下 さがしても見つからない日陰 そして歩く人も居ない道を行く時 なんでこんなことをしているのかと幾たびも思い 冷房の入った部屋を恋しく思った
けれどもお目当ての物が見えてくると そんなことはもうすっかり頭の中から消え去っていて 本物に出会えた喜びだけで一杯になってしまう
何も変わり映えのしない道であっても 不思議とよく覚えているもので 大きな橋 小さな橋 このあたりで人に道を尋ねたとか 駅前の風景 線路の雑草などがワンショットで浮かんでくると言うと 彼も その時々の頂上の景色 雲の流れ 紅葉 そして会った人々の顔などもはっきりと覚えていると言った
いつまで山登りをするつもりですかと尋ねたら まだまだ大丈夫ですね と言ってから でも半年に一度くらいでは萎えてしまうと
ひとたび 面倒だとか 楽ちんな時間を望んでしまったら 肉体も精神も元に戻すのには相当の時間がかかる
気力が先か 体力が先かはわからないが 間を置かずに続けることが大事なのだと我が身に沁みた
少しして お年寄りの女性がやってきた
私の横の椅子に座ったが 私は前を向いたままなので 話声だけが耳に入ってくる
もうほとんど外出することも無いようで 時々 お花の世話をする程度らしい
お出かけする用事のために久しぶりにやってきたようで 髪は相当伸びている様子だった
ばさばさと床に落ちる白とグレーの混ざった髪は 4~5センチほどはあるか
少しして 一度髪を洗いましょう とマスター
あら ゆうべ髪を洗ったのだけれど・・・
中のほうが脂っぽいからと言われてシャンプー台に行く姿を鏡ごしに見たら 腕を支えてもらって歩くほどの高齢者だった
お風呂に入るのでさえ大儀だろうと思われるから 髪を洗ってちゃんと濯ぐのはもっと大変なことなのだろう
母が生きていたら こんな感じになっていたのだろうか
私は優しい言葉をかけていただろうか
どんな話をし 笑い 怒り 何を一緒に食べ どこへ出かけただろうか
そんな母を見たかった
そして その時の自分を知りたかった
何をどうしようとも もう叶わないこともある
表の看板には10時からとなっているが 実際は9時半から始まっている
待つのが苦手な私は 一番乗りを狙って出かけることにしている
マスターはいわゆる団塊の世代の人で 趣味はほとんど単独での山登り
私は 山道を行く一歩一歩が楽しいのかと思っていたが 登っている時はけっこう辛いのだそうだ
山頂に登った時の空気や景色 そして下山した時の充実した達成感 それが気持ち良いのだそうで なんだ 私と同じじゃないのと思った
暑い夏の炎天下 さがしても見つからない日陰 そして歩く人も居ない道を行く時 なんでこんなことをしているのかと幾たびも思い 冷房の入った部屋を恋しく思った
けれどもお目当ての物が見えてくると そんなことはもうすっかり頭の中から消え去っていて 本物に出会えた喜びだけで一杯になってしまう
何も変わり映えのしない道であっても 不思議とよく覚えているもので 大きな橋 小さな橋 このあたりで人に道を尋ねたとか 駅前の風景 線路の雑草などがワンショットで浮かんでくると言うと 彼も その時々の頂上の景色 雲の流れ 紅葉 そして会った人々の顔などもはっきりと覚えていると言った
いつまで山登りをするつもりですかと尋ねたら まだまだ大丈夫ですね と言ってから でも半年に一度くらいでは萎えてしまうと
ひとたび 面倒だとか 楽ちんな時間を望んでしまったら 肉体も精神も元に戻すのには相当の時間がかかる
気力が先か 体力が先かはわからないが 間を置かずに続けることが大事なのだと我が身に沁みた
少しして お年寄りの女性がやってきた
私の横の椅子に座ったが 私は前を向いたままなので 話声だけが耳に入ってくる
もうほとんど外出することも無いようで 時々 お花の世話をする程度らしい
お出かけする用事のために久しぶりにやってきたようで 髪は相当伸びている様子だった
ばさばさと床に落ちる白とグレーの混ざった髪は 4~5センチほどはあるか
少しして 一度髪を洗いましょう とマスター
あら ゆうべ髪を洗ったのだけれど・・・
中のほうが脂っぽいからと言われてシャンプー台に行く姿を鏡ごしに見たら 腕を支えてもらって歩くほどの高齢者だった
お風呂に入るのでさえ大儀だろうと思われるから 髪を洗ってちゃんと濯ぐのはもっと大変なことなのだろう
母が生きていたら こんな感じになっていたのだろうか
私は優しい言葉をかけていただろうか
どんな話をし 笑い 怒り 何を一緒に食べ どこへ出かけただろうか
そんな母を見たかった
そして その時の自分を知りたかった
何をどうしようとも もう叶わないこともある