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九州の人たちが洪水に苦しんでいるなか、山登りなどをしている場合かと、良心の呵責を感じながら天気予報を見る。秋田の北にある森吉山は、前日からの晴れの予報で山行を決断する。自宅を4時に出発、小雨である。
新庄から横手にかけて強い雨が降る。前方は黒い雨雲が広がっている。こんな状況では、1400mもある森吉山は雨に違いない、今日の登山は断念して観光にまわろうなどと仲間と話し合う。
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田沢湖に着くと、雲はあるものの、雨は上がっている。周囲に見える山々も、上の方まで見えている。この湖に立っている辰子像は、この湖ができた伝説に拠っている。この若さ、美しさをいつまでも保ちたいと考えるのは、辰子だけでなくひとしく若い女性が求めてやまないことであろう。
願掛けををして若さをいつまでもと、大蔵山観音に百日参りをした。観音さまが願いをかなえてやろう、といって湧き出る清水を腹いっぱいに飲んだ辰子は、見るも恐ろしい龍に変身してしまった。黄金に輝く辰子が、龍に変身するなど、辰子自身はもちろん、この像を見るものにも想像することはできない。
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阿仁ゴンドラに乗って、1100m地点まで行く。森吉山は花の山と聞いていたが、ニッコウキスゲの群落が山道を飾っている。雲は厚いが、心配された雨も降らず花が鑑賞できる。
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月山や鳥海山の群落には及ばないが、鮮やかな黄色が目にしみる。日当りのよい、高い樹木のない草原を好む。ユリ科。野カンゾウも仲間の花である。
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ハクサンフウロの濃いピンクがひときわ目立っている。高山の花は、平地に比べて色がよりあざやなような気がする。山道の歩きでうっすらとかく汗、ここちよい風、目の前の小さいがあざやかな花の色、これが山歩きの醍醐味かもしれない。
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突然、目の前に気品あるシャクナゲの花が現れる。高山では、数え切れない数の花が咲くが、どの種にも好みの環境があるらしく、見事な住み分けを行っている。シャクナゲの咲く場所にには、ほかの花を寄せ付けないタブーのようなものがあるらしい。
石楠花や朝の大気は高嶺より 渡辺水巴
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ウラジロヨウラクは、低地では1m~1.5mの大きな木に成長するがこのあたりでは30センチほどの潅木である。花のピンクがなまめかしい。シャクナゲとともにツツジ科に属する。
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チングルマは花が終わって、実が風に吹かれて風車のような形がかわいかった。チングルマの名は、この実が稚児グルマににていることに由来している。見晴らすかぎり、チングルマの群生が広がっている。田中澄江は『花の百名山』のなかで、花よりもこの実の形が好きだと書いているが、これを見て花の群生もすばらしいだろうと想像する。
ちんぐるまざわめき霧の生まるるか 伊藤いと子
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ハクサンチドリはにぎやかな花だ。ラン科に属する。きれいな花だと思ったのは、初めて白馬岳に登ってこの花を見たときだ。この山では、山小屋の近くで見られるキヌガサ草や
登山道のハクサンフウロに魅せられた。
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ゴゼンタチバナと違って、ツマトリソウにはもうひとつの気品がある。かって山仲間のHさんが奥さんを亡くして、憔悴して山に登っていたころ、この花を見ては感慨深げに「これがツマトリソウだよ。また妻を娶ろうかな」と言っていたことを思い出す。そのHさんもいよいよ終末期を迎えていると聞かされた。妻のもとへツマトリソウを携えて赴くのだろうか。
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森吉山の頂上は雲のなかで見晴らしきかない。折から潟上市の市民登山の日とあって、大勢の登山者が頂上で記念撮影をしていた。なかには静岡の三島からきたというグループもあった。梅雨末期の豪雨の時期でほとんど登山を諦めていたのだが、思いもかけない高山の花々の歓迎を受けたすばらしい一日であった。帰路「打当温泉マタギの湯」で汗を流し、新庄のとりもつラーメンを食べる。