常住坐臥

ブログを始めて10年。
老いと向き合って、皆さまと楽しむ記事を
書き続けます。タイトルも晴耕雨読改め常住坐臥。

売炭翁

2012年12月14日 | 日記


白居易は772年、河南省に生まれた。字は楽天である。生家は代々の地方官僚で家柄としてはいいものではなかった。だが、時代が彼を世に出した。16歳で詩壇の長老に詩の才能を認められ、28歳で郷試に合格して都長安に出る。翌年、進士となり、さらに上級試験を突破して、社会正義に燃える高級官僚の道へと進み、親友の元稹と組んで新風を巻き起こした。

わが国には、遣唐使によって楽天生前の「白氏文集」がもたらされ、菅原道真の漢詩文や「源氏物語」「枕草子」に大きな影響を与え、「和漢朗詠集」によって広く流布した。有名な「長恨歌」や「琵琶行」などがもてはやされる反面、彼の真骨頂である諷喩詩は顧みられなかった。「売炭翁」はその諷喩詩の代表格である。

炭(すみ)を売る翁
薪を伐り炭を焼く 南山の中
満面の塵灰 煙火の色
両鬢蒼蒼 十指黒し
炭を売り銭を得て 何の営む所ぞ
身上の衣装 口中の食
憐れむべし 身上衣正に単なり
心に炭の賎きを憂え 天の寒からんことを願う
夜来城外一尺の雪
暁に炭車を駕して氷轍を輾らしむ
牛困れ人飢えて 日巳に高く
市の南門外にて 泥中に歇む
翩翩たる両騎 来たるは是れ誰ぞ
黄衣の使者と白衫の児
手に文書を把って口に勅と称し
車を廻らし牛を叱して牽いて北に向かわしむ
一車の炭の重さ千余斤
宮使駆り将ちて惜しみ得ず
半疋の紅綃一丈の綾
牛頭に撃けて炭の直に充つ

単の衣服しか着れない翁が、炭の値が上がるのを期待して、もっと寒くなれと切ない願いを吐露する。宮廷の使者は、勅命と称して、一車の炭をわずかの絹織で買上げてしまった。これは、概算600文で米4升分の値段に過ぎない。この横暴に異を唱えることも出来ずにいる売炭翁が、一尺の雪の中の寒さにうち震えている。

楽天は、文字を知らない老婆に読んで聞かせ、老婆が分からない部分は書き直したという逸話があるほど、平明で分かり易い詩文を心がけた。詩壇では、楽天を評して俗としたが、いっこうに気に止めなかったという。

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