常住坐臥

ブログを始めて10年。
老いと向き合って、皆さまと楽しむ記事を
書き続けます。タイトルも晴耕雨読改め常住坐臥。

ある戦後史

2015年02月10日 | 日記


斉藤慎爾『ひばり伝』を読む。読了ではなく、寝る前の読書で、大部なものを読んでいる。この本は、一人の天才歌手の成長を描きながら、日本の戦後史の舞台に立ち合わせてくれる貴重な本である。一昨年に笹沢信『ひさし伝』を読んだ。ふたつの本は、装丁といい、評伝の書き方といい、戦後史に位置づけながら人の生涯を語り尽くす手法、そしてその文体には共通するものがたくさんある。

実はこの二人は実の兄弟であり、離島の飛島で少年時代を過ごしている。二人の父は、飛島に生まれたが、郷里を捨て満州に立身する道を選んだ。そしてある製作会社の副社長の地位に着いた。いわば立身の夢を実現したが、敗戦が一家を奈落の底へと落とす。逃げるようにして父の郷里へ引き上げたが、この貧しい島で辛酸を舐めた。斉藤慎爾は少年のころの島での生活を、「灰褐色に覆われた少年期の日々」と記している。沖に停泊している漁船の拡声器から、美空ひばりの「悲しき口笛」、「私は街の子」や「越後獅子の唄」が聞こえてきていた。

鳥海山に登って日本海を眺めれば、飛島が一本の線を浮かべたように見える。飛島から庄内浜を見ると、鳥海山の裾野が海へなだれこんでいるが見える。岩波写真文庫「山形県-新風土記」によれば、「飛島は酒田から船で3時間、人口約1600。イカ漁を中心とした漁村だが行政的には酒田市内である。男が出稼ぎに出るため島内の仕事は何でも女が中心、女子消防隊は付近の御積島の海猫とともにこの島の名物のひとつである、と書かれている。人口も今では半減しているであろうし、高齢化の進むなか女子消防隊が存続しているのかも定かではない。

私は子どもたちが小学生の頃、もう40年以上も前であるが、夏休みに子どもたちを連れて3日間ほど島に遊んだ。近くの砂場で貝取りをしたり、島の山中の道を散歩した。島はどこも珍しく、舟で岩めぐりをしたり、夜はイカ釣り舟に乗せてもらって、釣りを見学した。取立てのイカの刺身は何よりも美味しく、いくらでも獲れるムール貝は、浜辺で大鍋で味噌煮して丼一杯が100円であった。そんな夏休みを子どもたちが絵日記に書いた。夏休みの宿題である。3年間、この飛島行きが続いた。

『ひばり伝』は副題に、蒼穹流謫という言葉がついている。蒼穹は青い空であるが、流謫とは罪によって遠方に流すという意味である。東映映画のスターの位置を不動のものとし、昭和といえば思い浮かべる人物として、昭和天皇、田中角栄に続いて3位に入った美空ひばり。しかし、スターの栄光の陰には、島流しに似た不遇の時代の辛酸も舐めた。いま、その流謫の時代まで読み進んでいないが、斉藤慎爾の評伝の筆は冴えている。

本・書籍 ブログランキングへ
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする