孫悟空は『西遊記』で三蔵法師の従者として、取経の旅に出る猿として我が国でもドラマや漫画の主人公として活躍してきた。「死にたくない」という渇望によって、王となっていた猿の国を出て、不老不死の修行に挑戦してついにその願いを実現した。中国では秦の始皇帝をはじめ、不老不死を願った国王は多くいた。人間世界で実現できないことを、身をもって果たした孫悟空はまさにヒーローと言っていい。
3月は桃の節句であるが、桃こそは不老不死の仙食である。孫悟空はこの桃が大好物であった。不老不死の修行をしたのは爛桃山で、そこには桃の木がたくさんあった。孫悟空はそこで桃の実を腹いっぱい食べ、秘伝の仙術を身につけた。そのかいあって、天上界の役人に抜擢される。天上界でも孫悟空は、桃を見つけては盗み食いをしていた。なかでも仙桃は、女神の西王母の所有していたもので、3000年に1度しか実をつけない。この大切な実を盗んで、食べ放題にしたものだから、天上界を追放される。
孫悟空は追放されて、地上に戻ってきたが、仙桃を隠し持って王国の猿たちに食べせようと王国へ出かけた。あまりに急いだので、無錫の太湖のほとりにある向陽とい山の上で、実を2個落としてしまった。やがて桃の実は芽を出し、2本の桃の木が育った。そして木には、仙界と同じおいしい実をつけた。天女がこの木にやってきて、籠に実を摘んだ。ところが、その傍で死にかけた老人が横たわっていた。天女が見つけて、桃の実を食べさせると、たちまち元気を取り戻して、若さを回復した。この話が伝わって、桃の実は不老不死の実として珍重されるようになった。