常住坐臥

ブログを始めて10年。
老いと向き合って、皆さまと楽しむ記事を
書き続けます。タイトルも晴耕雨読改め常住坐臥。

おもかげ

2016年03月14日 | 


成田三樹夫という俳優がいた。酒田市の出身である。俳優座から大映に入社、市川雷蔵や勝新太郎らと共演した。成田の芸名を高めたのは、後のやくざ映画で演じた悪役であったかも知れない。映画が大衆娯楽の主役であったころ、映画の成功は演技のうまい悪役にかかっていたと言えるだろう。映画やテレビでスターとなった成田だが、郷里へ帰ってもスターを気取るようなところは見受けられなかった。奥羽線の電車で一度だけ、成田三樹夫を見かけたことがある。二等車を使うでもなく、一般の客にのなかに目立つこともなく座っていた。

成田三樹夫が俳句を詠んでいたという記事が今朝の朝日新聞に載っていた。誰に師事したのでもなく、独学で学んだ自由律の句作だと記事にあった。2句だけ成田三樹夫の俳句が紹介されていた。

肉までもぬいだ寒さで餅をくい

色々のひとのうちに消えてゆくわたくし

記事によると、「肉までぬぐ」というのは、俳優という仕事は着ているものおろか、肉までもぬがなけれかなわぬものであるらしい。この句を読んで、一度だけ見た成田のおもかげがまざまざと思い浮かんだ。このスターは大衆にすっと溶け込んで居場所を見出せる人であったような気がする。「夜明けの歌」でスターとなった歌手の岸洋子もまた酒田の生まれである。成田と岸洋子は中学、高校と同級生であった。奇しき縁と言える。岸洋子も生前に一度だけ見かけたことがある。山形市内のデパートで開かれていた絵画展で、たったひとりで絵を鑑賞していた。昭和30年代のことで、当時はスターをいまのように特別視することはなかったように思う。成田三樹夫は1990年、55歳の若さでスキルス胃がんのためこの世を去った。
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