ラ・フォンテーヌという17世紀フランスの詩人をご存知だろうか。イソップ物語を愛し、この物語をもとにして、寓話詩を詠んだ。「すべての道はローマに通ず」「火中に栗を拾う」という格言は、誰もが知るところだが、フォンテーヌが作り出したものである。
この詩人に「80歳の老人が木を植えた」という寓話詩がある。80歳を目の前にした私には、心に沁みる寓話である。
老人が木を植える姿を見て、「家を建てても遅いのに、あの齢で植樹とは」と3人の若者が笑った。「お前たち、何を笑っているのか。いつの日か、この木の甘い実を食べ、木陰に憩う人々を思いえがく楽しみを、知らないのか」と老人は嘆いた。老人を笑った若者の一人は海で溺れ、一人は戦争にとられ、そしてもう一人は木から落ちて死んだ。
老人を笑った若者の運命は言うまい。死が視野に入って老人の楽しみがどんなものであるか、この寓話が教えてくれる。フォンテーヌには、「北風と太陽」「金のタマゴを産むメンドリ」など、現代にあって語り継がれる寓話詩がある。