常住坐臥

ブログを始めて10年。
老いと向き合って、皆さまと楽しむ記事を
書き続けます。タイトルも晴耕雨読改め常住坐臥。

鳥海山

2019年07月21日 | 登山

山容秀麗、鳥海山の姿に、この言葉を贈ったのは『日本百名山』を書いた深田久弥である。梅雨の末期、台風の北上するなか奇跡のような晴天のなかで、しっかりとその全容をこの眼で確かめてきた。鳥海山、山形に住む登山家であれば、誰もが憧れる山である。昨年、同じ仲間で、西方にある笙ヶ岳から、鳥海山の雄姿を展望する機会があった。その華麗な姿に、翌年はぜひこの山に登りたい、という願いがついに実現した。

鳥海山(2260m)は、火山活動が盛んな山で、享和元年(1801)の噴火によって、新山ができた。度重なる噴火は時に死者を伴い、付近住民の畏怖の対象であった。頂上に祀られる大物忌神は、火を噴く荒ぶる神に、為政者は噴火の度に位階を贈って、その怒りを宥めようとした。また、この山から流れ出る豊富な水は、麓に人がる田畑の灌漑用水として用いれれ、麓の集落の人々の厚い崇敬を集めた。

7月20日、早くからこの山行は早くから計画されていたが、長引く梅雨寒と台風の接近によって、山の天気は懸念されていた。しかし前日になって予報は好天、現地に晴れマークがついた。我々が選んだコースは秋田県鉾立コースである。早朝6時に山形を発ち、登山口に着いたのは9時40分であった。鉾立口から賽の河原まで、比較的なだらかな石畳の道が続く。左手に稲倉山の急峻な山並みが見えている。

鳥海山はその秀麗な姿から日本百名山のひとつに数えられるが、7月の下旬に入っても沢筋には残雪が見られ、草原の広がる山稜には高山植物のお花畑に彩られる。週末ということもあってか、山は多くの登山者で賑わった。先日、安全登山の講習会で講師をお願いしたモンベル山形店の店長も、登山者を連れて入山しているのに出会った。

入山して1500m付近で出会ったのが、イワカガミの群落である。この花は雪解けを待って咲き出すの、どの山でも目にするが、この花の鮮やかさは一味違っている。鳥海山には5度ほどになるが、この度みる花は実に美しい。雪解け水が豊富にあるためであろうか、花の色が際立って輝いている。12時を過ぎてお浜小屋に着く。一泊の予定とあって、ペースが上がらず、マップタイムからは遅れている。

鳥海湖が見えるところにお浜小屋がある。ここで、水などを売っているが、500mlのペットボトルの氷河水が500円、350mlのビール700円。高地に運び上げるためか、高価である。水は自分で持てる分量だけは持参したい。ここは高原上の見晴らしのきく場所で、かつて夏の行者たちの宿所として使われいた。今は登山者が泊まる山小屋だ。ここから、笙ヶ岳の山並みも見えている。

ニッコウキスゲ、チングルマの大群落が咲き乱れ、この山一番の花園と言ってよい。ここで弁当を開く。のんびりとした山登り、久しぶりに心の解放感はマックスである。

家に帰ってカメラのファイルを見てみると、意外に写真のカットは少ない。ヒナウスユキソウ、ミヤマキンポウゲ、ハクサンフーロなど収めておくはずの花がない。使っているオリンパスのミラーレスが不調で、よく撮れないせいもある。スマホで撮っているが、バッテリーの消費が早く電池切れが不安でもある。

やはりこの日のメインは風に揺れるニッコウキスゲであろうか。花に顔を寄せる女性写真にも挑戦してみた。この花を見て思い出すのは、月山・念仏ヶ原の大群落である。同じ鳥海山の河原宿周辺の大群落もみごとだが、いまだに念仏ヶ原の大群落を超えるものは見ていない。ここの群落の大きさはそれらに比べることはできないが、雨上がりのそよ風のなかの輝きは目を見張るものがある。

イワブクロ。この花を見たとき、名前を失念していた。たしか、イワがついていたな、イワベンケイ。などと誤った名を言ってしまった。家に帰って図鑑を見てみるとイワブクロであった。火山の礫地にいち早く侵入するパイオニア的な花、解説している。

高度を上げていくと、現れてくるのが鳥海アザミ。どの花を見てもうつむき加減であるが、この色も今日は少しつやつやとしていて親しみがわいてくる。山道のわきにずっと自生する様子は、この独特の種がやはり環境に適しているのであろう。

七五三掛けから上は、コースを外輪山に取る。目前に文殊岳、伏拝岳、行者岳などの峩々たる岩峰が待ち構えている。交差する人に頂上小屋までの所要時間を聞くと、2時間という。すでに朝からの歩行で、足に疲労がたまっている。コースタイムより遅れ、4時半の小屋着までぎりぎりの時間になってきた。七高山手前の鞍部から小屋へ通じる崖路。疲れた足に喝を入れ、注意深くくだる。

そして極めつけはチョウカイフスマ。七五三掛から上の岩の間や影の清楚に咲いている。この山の特産種で、旧制山高、日大山形の校章に採用されている。ナデシコ科ノリウツギ属、蛇紋岩地に生える多年草。この地にしかない貴重な花である。

岩が散在するがけ地を下り、雪渓を横切り、またお岩道を登って待ちに待った行者小屋に着く。4時45分、事前に考えたよりはるかに長く時間を要する登りであった。部屋に荷を置き、小屋脇の見晴らし台で、雲海を見る。夕陽の岩峰が赤く輝いている。ここで口にした生ビールの味は忘れられない。

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする