ベランダから見る空は、真っ青な夏空。今日の気温は35℃を超えるらしい。つい2日前まで、30℃を切る日が続いて、いよいよ秋と思っていたらこの暑さ。二つ続いて北上する台風が、この暑さをもたらしたらしい。今日はここの住人達による、火災消火訓練、市長選挙の投票日である。朝の畑いじりと、暑さのなかでも忙しい日程ではある。
朝方まで、獅子文六の『とうがらし』を読んだ。赤井鼻吉がこの小説の主人公だ。この名は本名でないのだが、彼が終戦という運命で、郡内一の大地主から農地改革によって一町二反の農家へと転落した。しかし、習慣になっていた朝から酒を飲むということはその後も改められず、どぶろくを飲むようになった。しかし、どうにも我慢ならないのは、どぶろくの悪臭と酔い心地の悪さだ。そこで思いついたのは、辛いとうがらしを肴にすることであった。
「最初、口へ入れた時には、舌に火がついたかと思った。それを消すために、タヌキ(注:どぶろく)を大きく一飲みした。いつもと違った味がしたが、一向、うまいことはなかった。五分もたたぬうちに、常ならぬ変化が起きた。ポーッと、酔い心地が始まってきたのである。」
それ以来鼻吉は毎朝、とうがらしを肴にどぶろくを飲む生活を続けた。始めた商売にもことごとく失敗した。それを見た妻は、11代目の赤井家の当主の姿を見て涙にくれた。鼻吉の本名は藤吉なのだが、この習慣が藤吉の鼻に変化をもたらした。鼻先だけがルージュを塗ったように赤くなったのである。かっての小作人がつけたあだ名が、赤井鼻吉であった。
先日、山小屋の談話室で、ビールの時間に昔話で盛り上がった。やはり、戦後まもなく、農家ではどこの家でもどぶろくを作って飲んでいた。小学校くらいの子どものころから、家のどぶろくに親しみ、酒のみになったという自分の経験も話したので、偶然に読んだ獅子文六の小説が面白かった。